第5話 修道院に到着しました
お兄様から修道院の話を聞いてから2週間後、いよいよ修道院にお世話になる為、隣国に向かう。隣国、クレーション王国までは馬車で1日。王都から出た事すらない私にとって、他国に行くという事は大冒険なのだ。
「セイラ、気を付けて行ってくるんだぞ」
「もし嫌な事があったら、すぐに帰って来てもいいからね」
馬車に乗り込む私に、両親がそれぞれ声を掛けてくれる。相変わらず私に甘い両親。きっと私が修道院に行くと聞いたら、倒れてしまうだろう。
「お父様、お母様、お兄様が私の為に手配してくれたのですから、大丈夫ですわ。お兄様、行ってまいります」
意地悪なお兄様が手配したのだ。不安しかないが、シャティもいるし多分大丈夫だろう。
「セイラ、気を付けて行って来いよ。これぐれも先方に迷惑を掛けるな」
「わかっていますわ」
一通り家族に挨拶をした後、馬車に乗って出発する。しばらく走ると、急に馬車が停まった。一体どうしたのかしら?
「お嬢様、馬車を乗り換えますので、降りて下さい」
えっ?馬車を乗り換えるですって?疑問に思いつつ馬車を降りると、目の前には明らかに貧相な馬車が停まっていた。
「シャティ、まさかこれに乗り換えるの?」
「ええ、そうですよ。さすがに公爵家の馬車では隣国へはいけませんからね。さあ、お嬢様」
そう言って私を馬車に誘導する。この馬車、大丈夫なのかしら?椅子も堅いし、クッションもないし、なんだか乗り心地が悪い。
「シャティ、こんな乗り心地の悪い馬車は初めてよ。本当にこの馬車で隣国に向かうの?」
「当たり前です。そもそも、平民にとっては馬車に乗れるだけでも贅沢な事なのです。いいですか、隣国では修道院で暮らすのです。修道院には馬車はありませんから、基本的に移動は歩きです」
「何ですって!馬車がないですって」
「当たり前です。それから掃除や洗濯、食事の準備も自分たちで行うのです」
「そんな事までやらないといけないの?自分で服を着たり、湯あみをしたりするだけではないの?」
この2週間、修道院に行くため、服の着かたや湯あみの方法を覚えた。これで修道院でも問題なく生活できると思っていたのに…
「とにかく、お嬢様が想像している以上に大変な生活になると思いますから、覚悟しておいてくださいね」
そう言ってにっこり笑ったシャティ。私…生きて帰れるのかしら…
その後何度も休憩を挟みつつ、その日はホテルに泊まった。でも、ホテルとは名ばかり、狭い部屋に押し込まれ、固いベッドに寝かされた。ほとんど眠る事が出来ず、朝を迎えた。食事も固いパンと野菜スープのみ。
食事に文句を言おうものなら
「ここは公爵家ではないのです。文句を言うのはお止めください」
そうシャティに怒られる始末。私、本当に生きて帰れるのかしら…
そんな不安を抱えつつ、ついに修道院に着いた。
「シャティ…ここが修道院なの?」
どう見ても廃墟にしか見えない。あちらこちら壁にヒビが入っているのだが…
「そうですよ、さあ、中に入りましょう」
恐る恐る中に入る。やはり中もボロボロなのだが…
キョロキョロと中を見渡していると、1人の女性がやって来た。
「あなたがセイラさんとシャティさんですね。お待ちしておりました。私はこの修道院の院長をしております、サリアと申します。どうぞよろしくお願いいします」
丁寧に挨拶をする院長。私ももちろん挨拶をした。
「セイラと申します。どうぞよろしくお願いします」
マナーレッスンで培ったカーテシーを決める。
「セイラさんはどこかのご貴族と聞いております。でもこの修道院では、みんな平等です。その点は、どうかご理解をお願いいたします。まずはこの服に着替えて下さい」
黒を基調にした服と、同じく黒色のベールを渡される。これを着てこれから生活をするのね。早速シャティと一緒に着替える。
「それでは、他のシスターたちを紹介いたしましょう」
そう言うと、ここで生活している他のシスターを紹介してくれた。皆いい人そうで良かったわ。
「お嬢様、いいですか。ここは修道院です。くれぐれも威張り散らすような事がない様、お願いしますね」
「わかっているわよ。いくら何でも、そんな事はしないわ」
シャティたら、一体私を何だと思っているのよ。2人で話をしていると
「それでは早速、一緒に掃除を行いましょう。掃除の後は、子供たちの食事の準備を一緒にいたします。この修道院は、孤児院と併設しておりますので。子供たちの面倒を見るのも私たちの仕事なのですよ」
そう言ってにっこり笑った院長。そもそも、私も子供なのだが…そう思いつつも、他のシスターたちと一緒に掃除を行う。でも生まれてこの方、掃除なんてしたことがない。シャティに教えてもらいながら、見よう見まねで掃除を行った。
何なの、この古い建物は。それにあちこち穴が開いているわ。掃除をしながら、建物の古さを改めて痛感する。その後、食事の準備を一緒にやった後、子供たちの元へと向かう。
私も子供なんだけれど!そう思っていたが、ほとんどが2~8歳くらいの小さな子供だった。私を見るなり
「おねえちゃん、だれ?」
と、目をくりくりして聞いてくる。
「私は今日からここにお世話になるセイラよ。よろしくね」
それにしても、小汚い服を着ているのね。もっとマシな服はないのかしら?そう思っていると
「セイラおねえちゃん、いっしょにたべよう」
「わたしも」
「ぼくも」
次々と子供たちが私の側にやって来た。何なの、この可愛らしい子たちは!今までこんな小さな子供たちと接する事がなかったため、どうしていいのかわからないが、それでもこの子たちと仲良くなりたい。素直にそう思った。
そんな私を見て
「お嬢様は子供に好かれるタイプの様ですね」
そう言ってクスクスと笑っていたシャティ。子供に好かれるか…まあ、悪くはないわね。これから修道院での生活が始まる。正直不安しかないが、きっと何とかなるだろう。
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