第55話 2人でこの国の人々を幸せにしたいです
懐かしい通路を通ると、子供たちがいた。
「あぁ、セイラおねえちゃんだ!!」
私を見つけると、嬉しそうに飛んでくる子供たち。1年ぶりに会う子供たちは、少しだけ大きくなっていた。
「皆、久しぶりね。いい子にしていた?」
「もちろんだよ、ほら、これ。セイラおねえちゃんにもらったおもちゃだよ」
「ぬいぐるみも、たいせつにしているわ」
嬉しそうにぬいぐるみやおもちゃを見せてくれた。ただ、キサリー含め、小さかった子供たちは私の事を覚えていないのか、きょとんとした顔でこちらを見ている。それに、見た事がない小さな子たちも増えている。
杖を突きながら、キサリーたちの元へと向かい、ゆっくりとその場に腰を下ろす。
「こんにちは。私はセイラよ。仲良くしてくれるかしら?」
すると、3歳くらいの女の子が、私の膝にちょこんと座った。
「おねえちゃん、ごほんよんでくれる?」
くりくりの大きな目で私を見つめ、そう言った女の子。なんて可愛いのかしら!
「ええ、いいわよ。持ってきて」
そう言うと、嬉しそうに本を持ってきた女の子。すると、他の子供たちも集まって来た。ふとサフィール様の方を見ると
「サフィおにいちゃん、かみのいろかえたの?いっしょにあそぼう」
男の子を中心に、子供たちに囲まれていた。その姿を見て、なんだか1年前の事を思い出す。
その後子供たちと一緒に遊んでいるうちに、小さな子たちも何人か私の事を思い出してくれた様で、抱き着いてきてくれた。さらに、足を心配して撫でてくれる子供たち。改めてこの子達の為に、出来る事を行っていこうと決意した。
帰り際、何人かの子供が泣いてしがみついてくれた。1年前の光景を思い出すわね。
「また来るから、泣かないで。そうだ、これ、皆で食べてね。お菓子よ」
子供たちにお菓子を配ると、泣いていた子もすっかり笑顔になった。お菓子のパワー、さすがね。
「またきてね。やくそくよ」
笑顔を見せてくれた子供たちと別れ、馬車に乗り込んだ。
「セイラ、今日は皆と再会できてよかったね。僕もとても懐かしい気持ちになったよ。改めて、僕を選んでくれてありがとう」
ギューッと抱きしめてくれるサフィール様。
「私こそ、ずっと私の事を大切に思ってくださり、ありがとうございます」
この地でサフィール様に出会い、そこから私たちは始まった。この修道院は、私たちの大切な思い出の場所。
「この修道院は、僕たちにとっても大切な場所だ。そして僕は君と出会って、子供たちと向き合う君を見て、子供たちの為に何かをしなければ、そう強く考える様になった。僕をこんな気持ちにしたのは君だ。それでね、僕は今、子供たちが無料で勉学を学べる学院を作ろうと動いているんだ。平民たちが通える学院を。セイラ、君の手で、その学院を立ち上げてほしいと思っている。引き受けてくれるかい?」
サフィール様の提案は、私が思い描いていた夢でもある。でも…
「無料で子供たちが学べる学院だなんて、とても素晴らしいのですが。そんな事が、出来るのですか?それも、そんな大きなお仕事を、私が責任者として行っても宜しいのですか?」
「すぐには無理だと思う。でも、何年かかるか分からないが、いつか必ず成し遂げたいと思っているんだ。何より、子供たちの事を心から大切にしている君なら、きっと素敵な学院が出来るんじゃないかなって、僕は思っている」
真っすぐと私を見つめ、そう伝えてくれたサフィール様。確かに全ての子供たちが学べる場所を作るのが、私の夢だった。きっとものすごく大変な事だろう。でも…
「わかりました!ぜひやりたいですわ。でも、税収だけでは厳しそうですね。まずは資金集めから行いましょう。そうだわ、学院を新たに建設するのではなく、まずは使われなくなった大きな建物を借りて、そこで授業を行うのもいいですわね。それから、教師の育成にも力を入れないと。これから忙しくなりそうですわ」
考えれば考えるほど、色々とやらなければいけない事が出てくる。
「君は本当に賢い女性だ。それに、アイデアがすごい。でも熱心に取り組むのはいいが、僕との時間も大切にしてほしい」
「もちろんですわ。だって、私はサフィール様が大好きなのですから」
いつも私の気持ちを尊重し、私の事を考えて行動してくれるサフィール様。これから彼と一緒に、この国を、子供たちを支えていきたい。強くそう思った。
~約2年後~
「セイラ、準備は出来たかい?」
「はい、バッチリです」
真っ白なウエディングドレスに身を包んだ私の元を訪ねて来たのは、サフィール様だ。そう、今日は私とサフィール様の結婚式。
あの後、すぐにサレッド王国のバーレル医師の治療を受けた事で、みるみる足はよくなり、今では普通に歩けるほどになった。ただ、やはり走ったりすることはまだできないが、この分だと元通りに戻るのも、時間の問題と言われている。
さらに2年前始めた、無料で教育を受けられる学院だが、他の貴族たちからの援助もあり、既に王都内に5つの学院が開校した。ただ、まだまだ学院が足りないうえ、地方には浸透していない。そのため、これからもどんどん学院を作っていく予定だ。
まだまだ未熟な私を、サフィール様はもちろん、王妃様や他の貴族たちが支えてくれている。そうそう、ライムといい感じだったリリアナ王女は、ライムの留学期間が終わると同時に、ミュンジャス王国に付いて行った。
今はライムの婚約者として、ミュンジャス王国で王妃教育を受けているところだ。しっかり者の彼女なら、ライムをしっかり支えてくれるだろう。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
サフィール様に連れられ、結婚式でもある王宮の教会へと向かう。その際も、なぜか私を抱きかかえようとするサフィール様。
「もう、サフィール様ったら。こんな時まで抱きかかえようとしないで下さい。それに、もう私は普通に歩けるまで回復しているのですよ」
足が不自由だった時の名残からか、すぐに抱っこしようとするのだ。
「すまない。でも…君があまりにも美しいから、抱きしめていないとどこかに行ってしまうのではないかと心配で…」
なぜそんな発想になるのかしら?なぜかサフィール様は極度の心配性の様で、よく私がどこかに行ってしまわないか心配だと呟いている。
「何度も申し上げますが、私が愛しているのはサフィール様ただ1人です。あなたが私を追い出さない限り、ずっとそばに居ますわ」
「僕が君を追い出すだって!そんな事はあり得ない!僕はこんなにも君を愛しているのだからね。あぁ、僕の可愛い…」
「コホン、サフィール殿下、セイラ様、そろそろ入場のお時間です」
私たちの茶番を隣で聞いていたサフィール様専属執事が、絶妙なタイミングで話しに入って来た。そんな執事を、ジト目で睨むサフィール様。
「執事がうるさいから、そろそろ行こうか。皆待っているし」
「そうですね。今日は国内の貴族はもちろん、他国からもたくさんの王族が参加してくれていますものね」
サフィール様の腕に手を回す。
執事がゆっくりと扉を開けると、溢れんばかりの拍手が。2人でゆっくりと歩いて行く。すると…ミュンジャス王国の友人たちの姿が。さらに進むと、ライムやリリアナ王女。反対側の席には、お父様とお母様、お兄様とアイリの姿も。実はお兄様とアイリは、あの後婚約をしたのだ。
アイリが貴族学院を卒業すると当時に、結婚する事も決まっている。たくさんの人たちが見守る中、滞りなく式が進んでいく。
式が終わると、2人でバルコニーへと向かう。そこには、溢れんばかりの民衆の姿が。その中には、私がお世話になった修道院のシスターや子供たちの姿も。皆笑顔で手を振っている。
子供たちの中には、私の側にいたいからと、王宮のメイドを目指す子や、護衛騎士を目指す子もいる。さらに学院に通い始めた事で、教師や医者になりたいと言っている子も出て来た。
あの子たちの未来が、これからも無限に広がりますように。その為にも、私たちは王族として出来る支援をしていきたい。
サフィール様と一緒に…
おしまい
~あとがき~
これにて完結です。
後半、少し急ぎ足で話しを進めてしまい、読みづらかったかと思います。
ごめんなさい!!
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです @karamimi
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