第54話 修道院に遊びに来ました

クレーション王国に来て1ヶ月が過ぎた。お父様とお母様は1週間程度クレーション王国に滞在した後、自国に帰っていった。両親が帰ってからは、早速王妃教育が始まった。足に障害があるという事で、私に耐えられるのか心配していたが、先生もとても親切で、さらによく褒めてくれる。


そのお陰で、特に苦労することなく楽しく過ごしている。また、王妃様やリリアナ王女ともすっかり仲良くなり、時間を見つけては一緒にお茶を楽しんでいる。ただ、なぜか私が王妃様やリリアナ王女と仲良くする事を良く思っていないサフィール様によって、すぐに連れ出されてしまう。


「僕の目を盗んで、すぐにセイラを連れ出すのだから!母上もリリアナも強引なところがあるから、嫌ならはっきりと断ってくれていいからね」


そう言って怒っている。優しい王妃様とリリアナ王女の事を嫌だと思った事は、一度もないのだが…そう訴えても、あまり聞き入れてもらえない。王妃様やリリアナ王女曰く、サフィール様はああ見えて非常に嫉妬深いから、きっと自分以外の人間と仲良くしているのが気に食わないのだろうと言っていた。


ミュンジャス王国にいる頃は、そんなそぶりは一切見せなかったのだが…


さらに先日、私とサフィール様が正式に婚約を結んだ。お披露目はまだ2ヶ月後だが、一刻も早く婚約を結びたいというサフィール様の意向を聞き入れて、書類上だけでも結ぶことになったのだ。


「これでセイラは僕から逃げられないね」


なんて、訳の分からない事を言っていた。そもそも、クレーション王国に来て王妃教育を受けている時点で、サフィール様から逃げるつもりなんて微塵もないのだが。


ちなみにライムとリリアナ王女は随分と仲良くなり、よく中庭でお茶をしている。この分だと、この2人がくっつくのも時間の問題だろう。


そして今日は、久しぶりに私がお世話になっていた修道院に遊びに行く事になっている。いつもの様に、王妃教育とリハビリを終え、部屋に戻ってくると、早速シャティに手伝ってもらい、ワンピースに着替える。約1年ぶりに会うとあって、楽しみでたまらない。子供たち、きっと大きくなっているわね。


つい子供たちの為に、お菓子を準備してしまった。皆、喜んでくれるかしら?無意識に顔がにやける。


「お嬢様、顔がにやけていますよ。気持ちはわかりますが、あなたはいずれ王妃になられるお方です。どんな時でも、気を引き締めて下さい」


すかさずシャティに怒られてしまった。さすがシャティ、抜け目がない。その時だった。


「セイラ、そろそろ行こうか」


サフィール様が迎えに来てくれたのだ。


「ええ、もちろんですわ。さあ、参りましょう」


相変わらず過保護なサフィール様に抱きかかえられ、王家の紋章が付いていない馬車に乗り込む。約1年ぶりに向かう修道院。なんだかドキドキしてきたわ。しばらく走ると、懐かしい修道院が見えて来た。隣には孤児院もある。


馬車を降り、杖を突きながらゆっくりと修道院に入って行く。中に入ると、院長が待っていてくれていた。


「セイラ様、シャティさん、お久しぶりでございます。サフィール殿下も、よくお越しいただきました」


院長ったら、きっと私が公爵令嬢で、サフィール殿下の婚約者という事を知っているのね。だから、急にセイラ様なんて呼んだんだわ。でも…


「院長、昔の様に、どうかセイラさんと呼んでください。私はここにいる間は、ただのセイラでいたいのです」


「まあ、セイラさんは随分と大人になりましたね。さあ、どうぞこちらへ。みんな待っております」


随分と大人になった?一体どういう意味かしら?


疑問に思いつつ、院長に連れられ懐かしい修道院の中を進むと、先輩シスターたちが待っていた。


「皆様、お久しぶりです。元気そうで何よりですわ」


杖を突きながら、急いで皆の元に向かう。でも、なぜか固まっている先輩シスターたち。


「あの…セイラ様が隣国の公爵令嬢とは知らずに、数々のご無礼、どうかお許しください」


震えながら頭を下げる先輩シスターたち。ヤダわ、どうしてこんなに他人行儀なのかしら?


「皆様、私はただのセイラですわ。ですから、いつも通りセイラと呼んでください。それに私にとって、皆様と過ごした1年は、本当にかけがえのない大切な時間だったのですから」


先輩たちに向かってほほ笑む。


「わかりましたわ。では、今まで通りセイラと呼ばせていただきますね。杖を付いている様ですが、足はどうされたのですか?」


やっぱり敬語なのね…まあいいわ…


「実は母国で毒蛇にかまれまして。それで、足が不自由になってしまいましたの。でも、杖があれば歩けますわ」


「まあ、何て事でしょう。そういえば、私の故郷に毒蛇に詳しい先生がいると聞いたことがありますわ。サレッド王国のバーレル医師です。一度見てもらうとよろしいかと」


まあ、先輩の1人はサレッド王国の出身者でしたのね。この国の修道院は、色々な国の人がいるのね。


「それは本当かい?ありがとう。すぐにサレッド王国に使いを出し、バーレル医師と言う方を探そう」


隣にいた執事にすぐに指示を出すサフィール様。でも蛇にかまれて随分たつし、さすがに厳しいかもしれないわね。


「さあ、子供たちの元に向かいましょうか」


そうだったわ、今日は子供たちに会いに来たようなものだものね。院長に連れられ、子供たちの元へと向かう。皆、私の事を覚えてくれているかしら、なんだか緊張してきたわ。



※次回最終回です。

よろしくお願いしますm(__)m

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