第28話 彼女はいったい何者なんだろう~サフィール視点~

クレーション王国の王太子として、国王と王妃の間に生まれた僕は、子供の頃から王太子としての教育を受けて来た。勉学や武術はもちろん、平民に寄り添える王になれる様、定期的に街に出ては平民の生活を見て回った。


そんなある日、修道院と孤児院が併設されている施設を訪問する事になった。いつもの様にカツラを被り、金持ちな平民を装って向かう。王太子として訪問すると、皆恐縮してしまう為、身分を隠して訪問するのだ。


やはりここも、経営がかなり厳しい様で、毎日の食事を提供するのに精一杯との事。いつもの様に施設を見せてもらうと、ある少女に釘付けになった。


僕くらいの歳で、シスターの格好をしている彼女は、子供たちに文字や計算を教えている。その姿は、まるで女神の様だった。いつもは遠くから様子を見て帰るのだが、どうしても彼女と話したくなり声を掛ける。


すると、宝石のような美しい紫色の瞳と目が合った。その瞬間、一気に鼓動が早くなるのがわかった。とにかく落ち着かないと!そう思い、必死に冷静を装った。もっと彼女のそばに居たくて、僕も子供たちに色々と教える事にした。


話を聞くと、僕と同じ年だった。どうしてこんな少女が修道院にいるのだろう?孤児院で保護されてもいい年齢なのに。聞くと彼女は、自分の意思でここに来たとの事。一体彼女は、何を抱えているのだろう…彼女の事がもっと知りたい…


そんな思いから、時間を見つけてはセイラに会いに行くようになった。そんな僕を快く思わないのが、僕の専属執事だ。


「殿下、頻繁に特定の修道院にばかり足を運んではいけません」


そう言って文句を言ってくる。


「あの修道院には僕の大切な人がいるんだ。父上も母上も、成人するまでは僕の好きな様にしたらいいと言ってくれているぞ」


この国では16歳になると、成人の儀式を行い、晴れて大人の仲間入りだ。結婚も出来るようになるし、王位も継げる。でも僕はまだ13歳。成人するまでにはまだ3年もあるんだ。


「…わかりました。でも、相手はシスターなのでしょう?次期国王のあなた様とシスターでは、いくら何でも不釣り合いです」


「それはわかっているよ…」


セイラはシスターだ。それに身分だって、はっきりしていない。僕がどんなに思っても、この恋は報われることはない…それでも、どうしても彼女のそばに居たい。そんな思いから、修道院に通う。


セイラの子供を思う優しい気持ち、自分に出来る事を必死で探し、常に前を見続けているその姿勢、そして何より、セイラと居ると心が安らぐ。この子と一緒に、この国を支えられたら…セイラなら、きっと国民の気持ちに寄り添える、立派な王妃になれるのではないか…


そんな思いがどんどん僕の心を支配していく。そんな日々を過ごすうちに、気が付くと誕生祭が間近に迫っていた。


誕生祭はこの国が誕生した事を祝う、物凄く大切な日。王宮内でも、誕生祭のお祝いパーティーの準備で大忙しだ。そんな中、院長に許可を取りセイラを街に誘った。


どうやらセイラはこの国の出身者ではないらしく、珍しそうに馬車の中から街を見ていた。街に着くと、人の多さに驚くセイラ。この子、一体どんな暮らしをしていたのだろう。街自体来たことがない様な表情をしている。


とにかくセイラとはぐれては大変だと思い、しっかり手を繋ぐ。この国では恋人や夫婦が繋ぐ手のつなぎ方で…


初めて繋いだセイラの手は、柔らかくて温かかった。ずっと繋いでいたい、そんな思いで包まれる。


早速向かったお店で、子供たちのプレゼントを探すセイラ。でも予算が少なすぎて買えず、がっかりしている。僕もあまりお金の価値がわからないが、セイラもあまりわかっていない様だ。


結局お店の人に聞いて、唯一買えるお菓子を購入した。おまけで貰ったお菓子を、2人で食べる。セイラって食べ方が奇麗だな…まるで貴族の様だ…


ただお菓子を食べているだけなのに、動きがとても綺麗なのだ。そう言えば、セイラの事を“お嬢様”と呼んでいるシスターがいた。もしかして彼女は、本当は貴族なのではないか…


そんな事を考えていると、急に強い風が吹き、セイラのベールが飛んだ。パサリと落ちたセイラの髪は、美しい銀色だった。その姿に、僕はついくぎ付けになる。なんて美しいんだ…


つい見とれる僕に対し、セイラは


「キャーー、ベールが」


そう言って慌てて走り出した。その声で我に返った僕も、セイラを追う。ベールは木に引っかかっていたので、取ってあげた。


嬉しそうにベールを受け取るセイラを見ていたら、感情が抑えきれず、セイラの髪に口づけをした。柔らかくてサラサラのセイラの髪。しっかり手入れがされている。やっぱりセイラは…


そんな僕に

「サフィさん、ベールを取っていただき、ありがとうございます」

そう言うと、急いでベールを被っていた。しまった、いくら何でも急に髪を触られたら嫌だよな。そんな思いから、セイラに謝罪した。


気を取り直して、街を見て回る。セイラが嬉しそうに街を見ている姿を見ると、僕も嬉しくなる。そんな思いを抱きながらお店を見ていると、セイラがブレスレットを凝視している。


このブレスレットは、男性が意中の女性にプロポーズするときに渡すものだ。2人で1つ、どんな時も離れない様に。との思いが込められている。


きっとセイラはその事を知らないだろう。でも、形だけでもセイラと繋がれたら…

そんな思いから、対のネックレスを購入した。そして、お互いの腕にはめる。


案の定、意味を知らないセイラは、このブレスレットを“友達の証”と解釈した様で、嬉しそうに見つめていた。


その姿を見て、僕は決意した。セイラと結婚しよう。きっとセイラはどこかの国の貴族だ。


爵位にもよるが、貴族なら王族の僕と結婚する事も可能。でもまずは、セイラに僕を好きになってもらう事から始めないと。それから、セイラの身元を密かに調査しよう。


僕たちの未来の為に…

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