第21話 王宮の夜会に招待されました
翌日、いつもの様に学院に行くと、なぜかライムが待っていた。
「殿下、おはようございます」
「おはよう、セイラ。一緒に教室まで行こう」
「いいえ、大丈夫ですわ。昨日も申し上げた通り、私はあなた様と婚約するつもりはありませんので。もちろん、父にもその旨は伝えましたから。別の方を当ってくださいね。それから、馴れ馴れしく呼び捨てにするのはお止めください」
にっこり笑ってそう伝えた。
「セイラはまだ怒っているのかい?でも僕たちが婚約を結ぶのは、もう周知の事実なんだ。母上も君に会いたがっているよ。いつまでも意地を張らずに、僕と婚約しようよ」
「別に意地を張っている訳ではありません。とにかく、私はあなたと婚約なんてしませんから」
そうはっきりと言った。もう、いつからこんなに聞き分けのない男になったのかしら?昔は私の言う事を何でも聞いてくれたのに。
結局この日は、ライムにちょこちょこ絡まれたせいで、令嬢たちとも楽しくお話が出来なかった。せめて子供たちに癒されたい、そんな思いから孤児院を訪れ、目いっぱい遊んでから家路につく。
家に着くと、私の帰りを待っていたお父様のお母様。2人そろって待っているなんて、嫌な予感しかしない。
「セイラ、おかえり。実は急で悪いんだが、王宮で夜会があるんだ。参加してくれるかい?」
「夜会ですか?」
この国では12歳を過ぎると、夜会に参加する事が出来るようになる。その為、ちょこちょこ夜会に誘われることもあるのだが、今まではなんだかんだで断って来た。でも、さすがに王宮の夜会となれば断れないのだろう。
「そうだ、ずっと断っていたのだが、どうしても王妃が参加して欲しいと毎日うるさくてな。一度顔を見せれば、王妃も黙るだろう」
「わかりましたわ。それで、いつなのですか?」
「それが…来週なんだ…」
「来週ですって!普通は1ヶ月以上前に招待するのが常識でしょう?」
「招待自体は、随分前に来ていたのだが…」
要するに、言い出せなかったという訳ね。
「わかりました。でも、王宮主催の夜会なら、急いでドレスを作らないと」
「その点は大丈夫よ。1ヶ月ほど前、あなたの希望を聞いたでしょう。その希望を元に、既にドレスは作ってあるから。でも、あんなに地味なドレスで本当にいいの?」
そう言えば1ヶ月ほど前、お母様にドレスのデザインなどを聞かれたのだったわ。まさか、今回の夜会用だったなんて…
「とにかくドレスも準備できているのでしたら、大丈夫ですわ」
「それはよかった、当日はジャックがエスコートしてくれる予定だから、安心して参加してくれ」
お兄様がエスコートしてくれるのなら、まあいいか。それに王宮主催の夜会となれば、沢山の貴族が参加する。ここで顔を売っておいて、もっとたくさんの貴族に、協会への協力を呼び込もう。そうよ、これは絶好の売り込みが出来るチャンス。この機会を、逃がすわけにはいかない。
そして迎えた夜会当日。
「以前お召しになられたフリフリのドレスも可愛かったですが、このシンプルなドレスもよくお似合いですわ」
「ありがとう、シャティ。小物もシンプルな物にしてくれるかしら?なんだかあまり派手な物は嫌なのよね」
修道院に行ってから、すっかり好みが変わった私。今日は瞳の色に合わせ、薄紫のシンプルなドレスに身を包んでいる。
「お嬢様、そのブレスレットは外された方がいいですわ」
そう言うと、私の左腕に付いているブレスレットを外そうとするシャティ。
「待って、これは外さないで。お願い」
これはサフィさんから貰った大切なブレスレットだ。これだけは、外したくない。そう言えばサフィさん、今頃どうしているかしら?ふとサフィさんの事を考える。もう二度と会う事もないのに、たまに考えてしまうのだ。
「さあ、準備が整いましたよ。今日のお嬢様は、また一段とお美しいです」
「ありがとう。さあ、あまりお兄様を待たせると、また小言を言われそうだから早く行きましょう」
急いで玄関に向かうと、お兄様が待っていてくれていた。
「今日のセイラは、また美しいね。前みたいなフリフリのドレスよりも、シンプルなドレスの方が似合っているよ」
「ありがとうございます、お兄様」
まさかお兄様に褒められるなんて思わなかった。どうやらお父様とお母様は先に夜会に向かった様だ。私たちも早速馬車に乗り込んだ。
「そう言えば最近、王太子殿下に付きまとわれている様だな」
「ええ…何度も婚約しないと言っているのですが、あまり伝わっていない様で…」
「殿下は昔からあまり人の話を聞かないタイプだったからね。陛下と王妃様の唯一の子供だろう。それはもう大切に育てられたんだ。ただ気が弱いから、その姿を見て皆優しいと勘違いしている様だか…」
なるほど。なんだかわかる気がする。でも、1つ気になる点が…
「でもお兄様、以前私に、殿下は孤児院などにも頻繁に視察に向かっているとおっしゃいましたよね。でもこの前ついてきた時、初めて行ったような感じでしたわ。それに、ずっと殿下を庇われていたではなりませんか」
「ああ言えば、お前も少しはまともになると思ったんだ。そもそも、俺はお前にまともな人間になってもらいたいと思っていたからね。その為の嘘だ」
さらりとそう言ったお兄様。嘘って…
でもお兄様の嘘のお陰で、ここまで出来たのだから、まあいいか…
「セイラ、王宮に着いたようだ。行こうか?」
「はい」
いざ出陣ね。
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