第22話 王妃様と久しぶりの対面です

お兄様にエスコートされ、ゆっくりと王宮の大ホールに向かって歩き出す。王宮には頻繁に来ていたけれど、大ホールに入るのは初めてだ。小さい頃は、この大ホールで皆に注目されながら、ライムとダンスを踊るのを楽しみにしていた。でも、今は全くそんな気にはなれない。


とにかく今日は他の貴族と仲良くなって、私の協会に協力してくれる人を集めないと。大ホールに入るとご丁寧に


「ジャック・ミューディレス様、セイラ・ミューディレス様、ご入場です」


と、大きな声でアナウンスしてくれた。その瞬間、一斉にこちらを向く貴族たち。貴族たるもの、ジロジロと人を見るものではないのに、皆マナーがなっていないわね。そう思いながら、堂々とホールの中に入って行く。


「皆お前の姿を見て驚いているよ。見てみろ、口をポカンと開けているぞ。なんてマヌケな面なんだ。ダメだ、笑いがこみ上げて来た」


なぜか肩を震わせるお兄様。きっとこの状況を楽しんでいるのだろう。相変わらず失礼な男だ。


「ジャック、セイラ、遅かったわね」


私たちの側にやって来たのはお父様とお母様だ。なぜか沢山の貴族を引き連れている。


「皆様、娘のセイラですわ。隣国に留学しておりましたので、ずっと社交界には顔を出せずにおりましたのよ」


すかさずお母様が私を他の貴族に紹介する。


「皆様、ご無沙汰しております。セイラ・ミューディレスです。これからは社交界にも顔を出していくと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」


公爵令嬢らしく、カーテシーを決める。ここでは完璧な令嬢を演じないとね。


「まあ、セイラ様は本当に素敵な令嬢になられたのですね。聞きましたわ、孤児院などを支援する協会を立ち上げたのですってね」


これはチャンスだわ。向こうから話題を振ってきてくれるなんて。


「はい、兄の全面協力の元、協会を立ち上げましたの。孤児院では沢山の子供たちが、満足に勉強も受けられず、衣食もままならない状況です。宜しければ、協力頂けますと助かります」


「まあ、ジャック様も。私たちも出来るだけ協力させていただきますわ」


「私もです。それにしても、ミューディレス家のお子様たちは、本当に素晴らしいですわね。慈善事業にも積極的に参加するなんて」


貴族界トップに君臨する我がミューディレス公爵家に取り入ろうと、みんな必死ね。でも、たとえどんな理由であろうと、協力してくれるのは助かるわ。


その時だった。王族が入場するとのアナウンスが流れた。そして、陛下と王妃様、ライムが入場してきた。そして陛下の挨拶と共に、夜会スタートだ。


楽しそうにダンスを踊る者、雑談する者、食事を楽しむ者など様々だ。私たちはと言うと、その後も貴族たちに、協会への協力をさりげなく呼びかける。


よし、順調ね。


「セイラ、皆あなたの立ち上げた協会に理解を示してくれているわ。きっと今日の夜会で、あなたの評判はさらにうなぎ上りでしょうね」


そう言ってお母様が笑っている。別に評判なんてどうでもいいが、協会に協力してくれるのは有難い。そんな中、話しかけて来たのは王妃様だ。


「セイラちゃん、久しぶりね。しばらく見ない間に、また美しくなって」


「ご無沙汰しております、王妃様」


王妃様に会うのは、ライムの12歳の誕生日パーティー以来ね。あの日の事は、昨日の事の様に覚えている。


「セイラちゃんは、孤児院などを支援する協会を立ち上げたのですってね。貴族学院でも人望も厚く、成績も優秀だと聞いたわ。きっとあなたなら、立派な王妃になれるわね」


そう言ってにっこり笑った王妃様。


「いいえ、私は王妃にはなれませんわ。王妃様もお聞きになったでしょう?殿下の12歳の誕生日の時、私と結婚するくらいなら平民になると言った殿下の言葉を。私はあの日、きっぱりと殿下と結婚する事は諦めましたの。両親や兄もその事は理解してくれていて、私が生涯独身だったとしても生活できる様、今基盤を整えてくれていますのよ」


きっともっと良い言い方があったのだろうが、ここは濁さずはっきり言った方がいいだろう。そう思ったのだ。


「あの時のライムはまだ子供だったから…それにライムもあの日の事は後悔しているのよ。なぜあんな事を言ったのかって。まあ、ひとの気持ちは変わるものね。貴族学院卒業までは、まだまだ時間があるし」


王妃様は、何を言っているのかしら?すかさず反論しようとしたのだが


「王妃様、あちらにミューラ侯爵夫人がいらっしゃるわ。さあ、行きましょう」


業を煮やしたお母様が、王妃様を連れ出してくれた。


「セイラちゃん、またいつでも王宮に遊びに来てね。待っているから」


そう叫びながら、去っていった王妃様。


「セイラ、大丈夫か?気持ちはわかるが、相手は王妃様だ、もう少しオブラートに包んで話をしろ」


隣にいたお兄様に怒られた。

さあ、協会の宣伝もしっかりしたし、お兄様と少し休憩しよう、そう思った時だった。

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