第48話 今後について話し合います
「そろそろ部屋から出ようか。きっと君の父上も待っているはずだよ」
そう言うと、私を抱きかかえたサフィール様。
「自分の足で歩けますわ」
そう訴えたものの…
「僕がセイラを離したくはないんだ。きっと外には、ライム殿下も待っているだろうしね」
すかさず私の頬に口づけをし、さらに強く抱きしめるサフィール様。そしてそのまま部屋から出ると、サフィール様が言った通り、ライムがいた。後ろにはお父様もいる。
「セイラ、サフィール殿下を選んだんだね。でも、彼なら諦めがつくよ。サフィール殿下、どうかセイラを幸せにしてやってほしい」
「もちろんだ、必ず幸せにするよ」
お互いギューッと握手を交わしていた。そして、ライムはその場を去って行った。ライム、ありがとう。あなたのおかげで、私は変わる事が出来たのよ。ライムの後ろ姿を見つめながら、心の中でお礼を言った。
「ミューディレス公爵、今後についてお話しをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、こちらこそお願いいたします。王宮では何ですので、我が公爵家にお越しください」
一旦場所を公爵家に移す様だ。抱きかかえられたまま、馬車へと乗って公爵家を目指す。なぜだか片時も私を離そうとしないサフィール様。それとなく離れようとしても
「どうして僕から離れようとするんだい?せっかく思いが通じ合ったんだから、ずっと一緒にいよう」
そう耳元で囁かれてしまった。向かいに座るお父様も、複雑な表情をしている。もう、サフィール様ったら、いくら思いが通じ合ったからと言っても、親の前でイチャイチャするのはさすがに恥ずかしいわ。
そう思っている間に、屋敷に着いた。予想通りサフィール様に抱っこされたまま、屋敷に入る。
「あなた、セイラ、それにサフィール殿下も。さあ、どうぞこちらへ」
お母様が出迎えてくれた。きっと私の気持ちを知っていたお母様が、今日サフィール様がいらっしゃるだろうと予想して、屋敷で待っていてくれていたのだろう。客間に向かうと、お兄様も待っていた。
そのままソファーに下ろされ、すかさず隣に座るサフィール様。本当にずっとべったりだ。
「ミューディレス公爵、夫人、ジャック殿、今日はセイラとの今後についてお話ししたいと思い、こちらにお邪魔させていただきました。結論から申します。セイラは近々、クレーション王国に連れて行こうと思っております」
「そうですか。きっと殿下なら、そうおっしゃると思っておりました。ですがクレーション王国も我がミュンジャス王国も、16歳にならないと結婚できません。あなた様もセイラも、まだ14歳。急いでクレーション王国に連れていかなくても、宜しいのではないでしょうか?」
「確かにそうですが、セイラにはできるだけ早く、クレーション王国の生活に慣れてほしいと思っております。王妃教育もありますし。それに何より、僕がセイラと一緒にいたいのです。我が儘を申し上げていることは重々承知しておりますが、どうかご承諾をいただけないでしょうか?」
そう言うと、私の肩をギューッと抱き寄せたサフィール様。
「殿下の気持ちは分かりました。セイラ、お前はどうしたい?」
急にお父様が私に話しを振って来た。いつも私の意見を尊重してくれるお父様の事だ。きっと今回も、私の意見を尊重してくれるのだろう。
「私は…できればサフィール様と一緒に、クレーション王国で生活をしたいです。特に私は足が不自由ですので、早めにクレーション王国の生活に慣れたいと考えております。それに…私もサフィール様と一緒にいたいので…」
私ったら、何を言っているのかしら…恥ずかしいわ。急に恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「あぁ、セイラ。ありがとう。大好きだよ」
そう言うと、何を思ったのか、私の頬に口づけをしたのだ。びっくりしてサフィール様の方を見ると、満面の笑みを浮かべていた。いくら気持ちが通じ合ったからって、家族の前で口づけをするなんて…抗議の声を上げたいが、完全にパニックになってしまい、声にならない。
「わかりました。では、近々セイラをクレーション王国に向かわせます。私どもも、クレーション王国の陛下や王妃様に挨拶をさせていただきたいですし」
「ありがとうございます。公爵。では、僕は一度国に戻り、またセイラを迎えに来るという形でよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
その後、詳しい日程を決め、1ヶ月後に私もクレーション王国に向かう事で、話しはまとまったのであった。
そしてその日の午後。
「ミュンジャス王国の国王陛下、王妃殿下、それからライム殿下、半年間お世話になり、ありがとうございました。またクレーション王国にも遊びに来てください」
サフィール様がクレーション王国に帰るため、皆で見送る。
「こちらこそ、色々とありがとうございました。ライムにもいい刺激になった様です。セイラ嬢の事、どうかよろしくお願いいたします」
陛下がサフィール殿下に頭を下げている。
「サフィール殿下、君のおかげで僕も王太子としての自覚が芽生えたよ。本当にありがとう。まだまだ未熟だけれど、もっと色々な事を経験して、立派な国王になるよ」
「ライム殿下の活躍を、クレーション王国から見守っているよ」
どうやらサフィール様とライムにも、深い友情が芽生えた様だ。
「セイラ、またすぐに迎えに来るから、待っていてくれ」
「はい、お待ちしておりますわ」
別れを惜しむ様に、ギューッと抱きしめてくれるサフィール様。私もギューッと抱き付く。この温もりも、しばらくお預けね。
「それでは、僕はこれで。本当にお世話になりました」
皆に頭を下げ、サフィール様が馬車に乗り込んでいく。ゆっくり走り出す馬車に向かい、手を振る。サフィール様も窓を開けて、手を振ってくれている。
サフィール様の姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けたのであった。
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