第47話 私の出した結論【後半】

そして、ゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい。私はあなたとは結婚できません。もちろん、ライム殿下が嫌いない訳ではないのです。でも…ごめんなさい。どうしても、あなたと歩む未来が見えないのです…」


堪えていた涙を抑える事が出来ず、涙が頬を伝う。抑えていた感情が一気に爆発したのだ。そんな私を見たライムが、私の側にやって来た。


「…セイラ、君の気持ちはわかったよ…もし12歳の誕生日の時、僕が君を拒まなかったら、今頃君は僕の婚約者だったんだよね?」


「そうかもしれない、でも…あの日あなたが私を全否定しなければ、きっと私は昔のまま我が儘で傲慢な女のままだったと思うの。ライム、あなたのおかげで、私は生まれ変わることが出来たの。だから、あなたには今では感謝しているわ。本当にありがとう」


「やっと僕の事、昔みたいに“ライム”って呼んでくれたね。ありがとう。君が出した答えだ。素直に受け入れるよ。でも…やっぱり辛いね」


そう言うと、ライムの目から涙が流れていた。


「ごめんなさい、ライム。きっとあなたにも、素敵な女性が現れるわ」


「僕にも現れるかな?」


「もちろんよ」


あんなに憎くてたまらなかったライム。でも今は、素直に幸せになって欲しいと思っている。


「ありがとう、セイラ。それじゃあ、サフィール殿下が待っているから、僕はもう行くよ」


そう言うと、ライムは部屋から出て行った。そして次にやって来たのは、サフィール殿下だ。少し不安そうな顔のサフィール殿下。


「セイラ、今日は来てくれてありがとう。返事を聞かせてもらっていいかな?」


「はい、サフィール殿下と初めて会ったのは、クレーション王国の修道院でしたね。あの時は、初めて同じ歳の子とお友達になれて、とても嬉しかったことを覚えています。一緒に街に買い物に行ったり、誕生祭の時には星空を見たりして、本当に楽しい日々を過ごしました。もう二度と会えないと思っていたサフィさんが、まさか私に会いにこの国に留学してきた時は、かなり驚きましたわ。それも、隣国の王太子だったのですからね」


「君だって身分を隠して修道院にいたのだから、お互い様だろう」


「そうですね。今思えば、あの時から私の中で、あなたの存在が大きくなっていたのかもしれません。学院にいらしてからは、事あるごとにライム殿下と喧嘩していたかと思えば、孤児院に出向き、優しいサフィさんの顔を見せてくれたり、ライム殿下に王太子としての自覚を持たせてくれたりしていましたね。そんな中、私が毒蛇に襲われ、足が動かなくなったのです」


あの時は本当にショックだった。でも…


「あの時あなたは、“セイラはセイラだよ”と言ってくれましたね。あの言葉に、私は救われました。たとえ足が動かなくても、私は私なんだ。そう思える事が出来たのです。そして先日、私の足になると言ってくれたサフィール殿下。この人となら、どんなに辛い事でも乗り切れる。そう思いました。サフィール殿下、私もあなた様の事を、心から愛しております。足が思う様に動かず、これから苦労を掛ける事もあるでしょう。でも、サフィール殿下となら、ともに歩んでいける、そんな気がするのです。こんな私ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


今思えば、きっとクレーション王国にいた頃から、サフィール殿下に好意を抱いていた。でも、ずっと気が付かないフリをしていた。でも今は、もう自分の気持ちに嘘を付きたくはない。私は、サフィール殿下が好きだ。彼と一緒に、ともに歩いて行きたい。


「あぁ…セイラ!ありがとう。こんなに嬉しい事はない!本当にありがとう」


そう言うと、私を抱きしめたサフィール殿下。私も手を回し、彼に抱き着く。そしてそのままどちらともなく離れたと思ったら、お互いの顔がゆっくり近づき、そのまま唇が重なった。


初めて感じる温かくて柔らかい感触に、自然と涙がこみ上げてきた。ゆっくり離れた私たちは、お互いを見つめ合った。


「セイラ、本当にありがとう。もう二度と離さないよ。そうそう、ずっと言おうと思っていたのだけれどね。君の腕に付いている対のブレスレット、あれは恋人や夫婦が、ずっと一緒にいられる様にと、願いを込めて付けられるブレスレットなんだよ」


「えっ?そうだったのですか?」


「うん、だから、セイラがずっと付けていてくれていたのが嬉しくてね。ありがとう、セイラ」


そう言うと、それはそれは嬉しそうに笑ったサフィール殿下。まさか、このブレスレットにそんな意味が込められていたなんて。でもこのブレスレットのおかげで、またサフィール殿下と出会え、これからも共に歩んでいけるのかもしれない。そう思ったら、なんだかブレスレットが尚更愛おしく感じた。


「クレーション王国に着いたら、もっと本格的なブレスレットを君にプレゼントしようと思っている。そんな安物じゃなくてね」


「あら、私はこのブレスレットで十分ですわ。だってこのブレスレットは、初めてサフィール殿下が買ってくれた、私の宝物ですもの」


「セイラは嬉しい事を言ってくれるね。わかったよ、それじゃあ、このブレスレットをずっと付けていよう。それから、セイラ。僕たちはもう心が通じ合ったのだから、殿下呼びはやめてほしいな」


そう耳元で囁くサフィール殿下…ではなくて、サフィール様。


「わかりましたわ、ではサフィール様と呼びますね」


サフィール様の手をそっと握る。お互いの腕には、対になったブレスレットが付いていた。この手を離さない。どんなことがあっても。



~あとがき~

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

当初の予定通り?サフィール殿下とくっつきました。

※ライムと結ばれる、どちらとも結ばれない等を望んでいた方々、ごめんなさい!!

もうしばらくお話が続く予定になっておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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