第34話 皆でピクニックに行きます

「ねえ、今度クラスの皆で、ピクニックに行かない?王都の近くの森に、美しいお花畑を見つけたの。とても綺麗なのよ。近くに湖もあるし」


皆で昼食を摂っていると、向かいに座って食事をしていたアイリが、急にそんな事を言い出した。


「ピクニックか、素敵だね。せっかくだから、この国の自然も見ておきたいし、僕は参加するよ。セイラも行くだろう?」


話しかけて来たのは、サフィール殿下だ。


「ええ、私もぜひ参加させてもらうわ。実は私、ずっと都会にいたから、あまり自然豊かな場所には行った事がないのよね。なんだか楽しみになってきたわ」


「セイラが行くなら、僕も行くよ」


すかさず参加の意を表明する、ライム。ライムはサフィール殿下と一緒に子供たちに剣を教えて以来、頻繁に修道院を訪れている。少しずつだが、自分が何とかしないといけないといった意識を持ってくれている様で、私が行かない時でも、サフィール殿下と一緒に色々な孤児院を回っているらしい。


“ライム殿下なりに、自分に出来る事を必死に考えているみたいだよ”


と、サフィール殿下が教えてくれた。なんだかんだ言って、ライムの事を気にかけてくれているサフィール殿下には、本当に頭が下がる。彼は本当に、立派な国王になりそうね。


ついサフィール殿下を見つめてしまった。


「セイラ、急に僕を見つめてどうしたんだい?」


急に私の方を向いたサフィール殿下。


「べ…別に見つめてなんていませんわ。それよりも、ピクニック、楽しみですわね」


急に振り向くのですもの、びっくりしたわ。なんだか心臓の音がうるさい。私の心臓、一体どうしちゃったのかしら?


「それでは週末、皆でピクニックに行くという事で」


こうして、週末皆でピクニックに行く事が決まった。その時だった。


「そのピクニック、私たちも行ってもいいかしら?」


話しかけて来たのは、かつてリアムの婚約者候補だったフェミナ様だ。隣にはサリー様もいる。婚約者候補が一旦白紙になったため、随分大人しくなった2人。時折私たちに話しかけてくる様になった。


「ええ、構わないわよ。一緒に行きましょう」


せっかくなら2人ともこの機会に仲良くなりたい、そう思い、了承した。


「ありがとうございます、セイラ様。それでは当日、よろしくお願いいたしますね」


そう言うと、2人は去って行った。


「ねえ、セイラ。2人を呼んでよかったの?あの子たち、昔随分あなたに酷い事を言っていたのに」


マリーが心配そうに訪ねて来た。


「ありがとう、マリー。でも、彼女たちも随分大人しくなったし、同じクラスなのだから、せっかくなら仲良くしたいわ」


「セイラがそう言うなら、私たちはいいけれど…」


そう言って苦笑いしている。結局サリー様とフェミナ様も一緒に参加するという事でまとまった。


早速家に帰ると、ピクニックに行くための洋服選びを開始する。う~ん、森に入っていくから、シンプルな服装がいいわよね。このワンピースとかでいいかしら?


「お嬢様、クローゼットの前で真剣な表情をされて、一体どうされたのですか?」


私があまりにもクローゼットの前で考え込んでいるので、見かねたシャティが話しかけて来た。


「実は今週末、王都の外れの森にピクニックに行く事になったの。それで、どんな衣装がいいかなって思って」


「ピクニックですか?森にお出かけになられるのなら、やはりシンプルなワンピースが宜しいかと。それから、歩きやすい靴を履いて行かれるとよいですよ。このローシューズなんて、いかがですか?」


なるほど、確かに森に出かけるのだから、歩きやすいローシューズがいいわね。


「ありがとう、シャティ。それじゃあ、この花柄のシンプルなワンピースと、ローシューズにするわ。それから、帽子もかぶっていった方がいいわよね」


よし、準備は出来たわ。後は当日を待つだけね。なんだかとても楽しみになってきたわ。


そして迎えた週末。


花柄のワンピースに身を包み、髪を一つにまとめ、帽子をかぶる。


「どう?変じゃないかしら?」


「とてもよくお似合いですよ」


そう言って、シャティがほほ笑んでくれている。問題なさそうね。


早速馬車に乗り込み、まずは待ち合わせ場所でもある学院を目指す。そこから、馬車4台に乗り込み、出発するのだ。


学院に着くと、既に皆が来ていた。


「皆、おはよう。ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」


「おはよう、セイラ。皆今来たところだから、大丈夫だよ。さあ、馬車に乗り込もう」


なぜかライムに手を引かれ、馬車へと乗り込み、私を隣に座らせた。ん?なぜライムの隣なの?確か今日は、令嬢チームと令息チーム、2台ずつ馬車に乗り込む話しになっていたはずだけれど…


「ライム殿下、今日は喧嘩をしない様に、男女別々で乗り込むことになっていたでしょう?どうして君は、そんなに自由なんだい?」


すぐさまサフィール殿下が私たちの馬車に乗り込んできて、抗議の声を上げる。


「そうだったかい?それはすまない。でも、他の馬車に皆乗り込んだみたいだし、まあいいじゃないか?ほら、他の馬車はもう出発したよ。僕らも行こう」


確かに他のメンバーは、既に馬車に乗り込んだみたいね。仕方ない、このまま3人で出発ね。でも…


なぜか反対隣にサフィール殿下が座って来て、とてもきつい…


「サフィール殿下、こっちは定員オーバーだ。向かいに座ってくれ」


「ライム殿下が向かいに座ればいいだろう?君だけセイラの隣なんて、おかしいだろう?」


また始まった…いつもの喧嘩が…

孤児院に行くときも、毎回こんな感じで喧嘩をしている。こんな時は。


スッと立ち上がり、向かいの席に座る。お互い譲る事をしない2人にいつも折れて、私が向かいに座るのだ。毎回毎回、同じことをして本当に飽きないわね…


やっと落ち着いたところで、窓の外を見ると、いつの間にか美しい緑が広がっていた。


「セイラ、あの森が今日行く森だよ。サフィール殿下も初めてだろう?」


ライムが指さした方向には、大きな森が!あんな大きな森、初めて見たわ。なんだかワクワクしてきた!

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