第35話 森は素晴らしいです
「とても大きな森ですね。私、森に入るのは初めてなんです。なんだか楽しくなってきましたわ。でも、あんな大きな森に登れるかしら?」
体力には自信があるが、山登りはしたことがない。大丈夫かしら?
「すぐ近くまで馬車で行くから大丈夫だよ。それよりも、森にはクマやオオカミ、毒蛇なんかもいるからね。まあ、今日行く場所は森の入り口だし、護衛騎士たちもいるから大丈夫だよ」
なるほど、森には色々な動物がいるのね。気を付けないと!それにしても、ライムってこんなに物知りだったかしら?
「ライム殿下は、森について詳しいのですね。よく森には行くのですか?」
「イヤ…僕はあまり森とかは好きじゃないんだ…ただ、セイラがものすごく楽しみにしていたから、少しでも知識を増やしておきたくて…」
恥ずかしそうにそう呟いたライム。私の為に、色々と調べてくれたのか…
「ありがとうございます、ライム殿下。私は森について何も知らなかったので、勉強になりましたわ」
あのライムが、私の為に何かしてくれるなんて。なんだか心の奥が温かい気持ちになった。
「さあ、セイラ、そろそろ森の中に入って行くよ。ほら見てごらん。鳥がたくさんいる。クレーション王国の王宮の裏にも、大きな森があるんだ。よかったら今度、連れて行ってあげるね」
急にサフィール殿下が、話しかけて来た。クレーション王国の王宮か。ほとんど修道院にいたうえ、街に出たのも数える程度。王宮は見た事がなかったわね。
「ほら、セイラ、あそこに赤い鳥がいるよ。あっちには狐の親子だね」
「狐ですって?まあ、なんて可愛いのかしら」
生で動物を見たのは、修道院にいた頃に見たドブネズミくらいだ。あの時は恐怖でしかなかったけれど、狐は可愛いわね。
他にも、リスやウサギなど、可愛らしい動物たちを見る事が出来た。しばらく走ると、馬車が停まった。目的地に着いた様だ。
ゆっくり馬車を降りると…
「なんて空気が美味しいのかしら。それになんて綺麗な湖なの。あら?奥にはあんなにも綺麗なお花たちがたくさん咲いているわ」
目の前には太陽の光をキラキラ浴び、美しい輝きを放っている大きな湖。その奥には、どこまでも続くお花畑が広がっていた。こんな森の中に、こんなにも美しい場所が広がっていたなんて。
私が感動している間に、他の馬車に乗っていた友人たちも降りて来た。
「ねえ、素敵な場所でしょう?この湖、ボートもあるのよ。せっかくだから乗りましょう」
フェミナの提案で、ボートに乗り込んだ。もちろんここでも
「セイラ、僕と乗ろう」
「いいや、僕とだ!」
ライムとサフィール殿下が、喧嘩を始めてしまった。さすがに皆、あきれ顔だ。
「セイラ、あの二人は放っておいて、私たちと乗りましょう」
フェミナ様とサリー様、さらに、アイリの4人でボートに乗り込んだ。
「「あっ、セイラ」」
二人が叫んでいるが、時すでに遅し。既に私たちが乗ったボートは、出発した後だった。
「見て、あそこに大きな魚がいるわ。それにしても、綺麗な湖ね。湖の中が透けて見えるわ」
「本当ですわね。でも、この湖、思ったより深いですわよ。落ちたら大変ですから、気を付けてくださいね」
そう言って教えてくれたのは、サリー様だ。なるほど、水が澄んでいるせいか、全く深い感じがしないわね。まあ、万が一湖に落ちても、護衛騎士もいるから大丈夫よね。
ふと隣のボートを見ると、なぜかサフィール殿下とライムが2人でボートに乗りながら、喧嘩をしていた。あの2人、仲がいいのか悪いのか分からないわね…
「セイラ様、ライム殿下の事で嫌な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。私たち、あの後猛烈に反省いたしましたの。もうライム殿下と婚約したいだなんて、微塵も思っておりませんので、安心してくださいませ」
そう言ってにっこり微笑んだサリー様。隣でフェミナ様も頷いている。
「もう過ぎた事なので、気にしないで。せっかく同じクラスなのだから、これからは仲良くしましょう。私の事は、普通にセイラと呼んで。あと、敬語もなしで大丈夫よ。それから、私はライム殿下と婚約を結ぶつもりはないから、それだけははっきりと言っておくわ」
2人にはっきりと告げた。
「わかったわ。それじゃあ、私たちの事も呼び捨てで大丈夫よ。でもいくらセイラが嫌と言っても、きっとこのままいけば、セイラがライム殿下の婚約者で決まりよ。ねえ、サリー」
「フェミナの言う通りよ。セイラならきっと、素敵な王妃様になれるわ」
「でも私は…」
「もう岸に付いてしまったわね。次はあっちのお花畑に行きましょうよ」
そう言うと、サリーとフェミナはボートから降りてしまった。私はライムと婚約なんてするつもりは、微塵もないのだけれどな…まあ、また後で訂正すればいいか!
「あの2人、あまり人の話しを聞かないタイプだものね。噂では2人とも、まだ殿下の婚約者に返り咲くことを夢見て頑張っているって聞いたけれど、あの様子だともしかすると、諦めたのかもしれないわね。さあ、私たちもお花畑に行きましょう」
「そうね、あんなにも綺麗なお花がたくさん咲いているのですもの。そうだわ、子供たちに摘んでいってあげたら喜ぶかしら?」
「もう、セイラはすぐに子供たちの話しになるんだから。でも明日には枯れちゃうわよ」
そう言って笑っているアイリ。確かにアイリの言う通り、枯れてしまうか。それなら、押し花にするのもいいわね。
そんな事を考えながら、アイリと2人、お花畑に向かったのであった。
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