第24話 セイラから逃げられたと思っていたのに~ライム視点~

物心ついた時から、王太子として両親の寵愛を受けて育った。使用人や友達にも恵まれ、幸せな生活を送っていたのだが、僕には1つ悩みが。それは、セイラの存在だ。


この国で一番権力を持ったミューディレス公爵家の令嬢でもあるセイラは、我が儘で傲慢で、権力を武器にやりたい放題。他の令嬢に金切り声で文句を言ったり、時にはメイドに暴力を振るう事もあった。


そんなセイラが、僕は大嫌いだった。僕は母上の様に、優しくて美しい女性と結婚したいんだ。それなのに、母上はなぜか僕とセイラを婚約させようと必死だ。確かにセイラは見た目は美しいが、性格が強烈。僕が少しでも別の令嬢と話をしただけで、それはそれは醜い顔で文句を言ってくる。


その歪んだ顔は、はっきり言って美しいとはかけ離れた、まさに鬼のような顔だ。あの顔を見ると、怖くて背中が凍り付く。あんな恐ろしい顔の令嬢とだけは結婚したくない。そんな思いが膨らんでいく。


そして迎えた僕の12歳の誕生日パーティーの日。この日、僕の婚約者としてセイラが紹介される予定になっていた。でも僕は、どうしてもセイラと結婚したくなくて、涙ながらに母上に訴えた。


セイラと結婚するくらいなら、廃嫡して平民になるとまで言った。ここまで言えば、さすがの母上も僕の為に動いてくれるだろう。そう思ったのだ。


でも、その言葉をセイラとセイラの父、ミューディレス公爵に聞かれてしまった。セイラ顔負けの恐ろしい顔で、僕たちに文句を言う公爵。怖くて縮こまるしかない。でも、あれだけ公爵を怒らせたんだ。きっとこの婚約話は流れる、そう期待している自分もいた。


そんな中、部屋に入って来たのはセイラだ。きっと僕に向かって怒鳴り散らすのだろう、そう思っていたのだが…


「ライム、あなたの大切な誕生日に問題を起こしてごめんなさいね」


そう僕に謝ったのだ。あのセイラが謝るなんて…結局この日は、婚約者が決まることなく僕の誕生日パーティーは無事終わった。ただミューディレス公爵の怒りはすさまじく、僕とセイラを婚約させることは二度とない。どうか別の婚約者を立てて欲しい。そう言って来たらしい。


さらにセイラの兄でもあるジャックからは

「セイラが今まで本当に失礼な事をして、大変申し訳ございませんでした。さすがのセイラも、殿下の言葉にはこたえた様です。でも、あなた様は悪くはありません。どうか妹の事は気にせず、婚約者をお選びください」


そう言って謝られたのだ。これは僕にとってありがたい流れになったぞ。早速婚約者選びを始めないと。そう思ったのだが、母上が


「万が一公爵やセイラちゃんの気が変わって、ライムの婚約者になってもいいと言ってくれるかもしれないわ。だから婚約者は決めず、婚約者候補として何人かの令嬢を選ぶ事にしましょう」


そんな事を言い出したのだ。母上は何を言っているのだろう。僕はセイラとは絶対に結婚しないと言ったのに…まあいいか、婚約者候補の中から、早急に婚約者を決めればいい。そう思って、早速婚約者候補を選んだ。


セイラの様に気が強い女性は嫌だ。そんな思いから、比較的おっとりとしていて身分も高い、サリー嬢・フェミナ嬢・ルイーダ嬢の3人を候補として選んだ。でも婚約者候補になった途端、彼女たちは豹変。


急に傲慢な態度に出始めたのだ。僕が少しでも他の令嬢と話をしようものなら、3人がかりで排除する。さらに、僕に猫なで声ですり寄り、陰でメイドたちを顎で使う。他にも言う事を聞かない貴族たちに、自分は殿下の婚約者候補だ、逆らったらどうなるかわかっているのか?などと脅すようになった。


その為、他の貴族や使用人たちからは、たびたびクレームが来るようになった。それでもセイラよりかはマシだろう、そう必死に言い聞かせた。


現にセイラは、あの後ショックで自暴自棄になり暴飲暴食して、見るも無残な姿になっているとか、精神的に病んでしまい、領地で療養している等の噂が飛び交っている。どうやら公爵家の人間から情報が洩れている様で、きっと事実なのだろう。


そんな女とだけは、結婚なんてしたくない。とにかく、一番マシな令嬢を選ばないと…


そうは思っても、どんどん僕の婚約者候補たちの暴走は続く。ついに母上からも


「さすがにこのままだとまずいわ。一旦婚約候補を白紙に戻しましょう」


そんな事まで言われた。でも、もうすぐ貴族学院の入学が迫っている。もしセイラが学院に入学してきたら…そう思ったら、やはり防護壁が欲しい。


「とにかく、彼女たちには僕から話をするから、もう少し様子を見て欲しい」


母上にはそう伝えた。でも、あんなにも傲慢な令嬢たちに文句を言う勇気はない。結局何もしないまま、入学式を迎える事になってしまったのであった。

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