第32話 家族はサフィール殿下を気に入った様です
「セイラ、そろそろ日も暮れて来た。帰ろうか?」
「ええ…そうですわね…」
まだ動揺が収まらない私。ダメだわ、しっかりしないと!
「サフィおにいちゃん、またあそびにきてね」
すっかり子供たちは殿下に懐いた様で、嬉しそうに手を振っている。サフィール殿下も、笑顔で手を振り返していた。すると何を思ったのか、女の子たちが私の元にやって来たと思ったら
「セイラおねえちゃん、サフィおにいちゃんのこと、がんばってね」
そう言ってにっこり笑ったのだ。この子たち、変なところばかりませているのだから!そもそも私は、サフィール殿下の事を、そんな風に思っていないのに!そう抗議しようと思った時だった。
「さあ、セイラ、帰ろう!」
私の手を取り、歩き出したサフィール殿下。その姿を満面の笑みで見送る子供たち。ちょっと殿下、こんな事をしたら、増々子供たちに誤解されてしまうわ!そう言いたいが、言える訳がない。
1人動揺する中、馬車に乗り込む。
「セイラ、どうしたんだい?少し顔が赤いね。熱でもあるのではないのか?」
「い…いいえ、何でもありませんわ」
もう、子供たちが変な事を言うから、変に意識しちゃうじゃない!
「やっぱり顔が赤いよ。心配だから、今日は家まで送ろう」
「いえ、本当に大丈夫…」
「いいや、よくない。とにかくセイラが心配だ!」
そう言い切られてしまった。結局家まで送ってもらう事になった。
「お屋敷に着いたよ。歩けるかい?」
心配そうに私に手を差し伸べてくれているが、私は病気ではないのだから、問題なく歩くことが出来る。でも、この気遣いが嬉しい。
「ありがとうございます、サフィール殿下」
殿下の手を取り、屋敷に向かって歩き出す。そう言えばクレーション王国で一緒に街に出た時も、こうやって手を繋いで歩いたのよね。このつなぎ方、懐かしいわ…
玄関まで来ると、なぜかお父様とお母様、お兄様も待っていた。きっとシャティがサフィール殿下も一緒にいらした事を伝えたのね。
「サフィール殿下、お初にお目にかかります。娘を送ってきてくださったのですね。ありがとうございます」
すかさず挨拶をしたのはお父様だ。
「初めまして、ミューディレス公爵・夫人。ちょっとセイラの体調がよくないの様なので、家まで送らせていただきました。セイラ、大丈夫かい?さっきより随分と顔色も戻って来たみたいだけれど…」
「わ…私は別に体調など悪くないですわ!」
すかさず反論するが
「でも、真っ赤な顔をしていたではないか?それにまた顔が赤くなっている。早くベッドで休んだ方がいい。それでは私はこれで失礼いたします」
ぺこりと頭を下げて、馬車に戻ろうとするサフィール殿下。
「お待ちください、殿下。わざわざセイラを送って頂いたのです。宜しければ、中でゆっくりして行ってください」
サフィール殿下に、お父様が声を掛ける。
「ありがとうございます、ミューディレス公爵。でも、もう遅いし、セイラも体調があまり良くない様ですので、今日は帰ります。セイラ、とにかくゆっくり休んでくれ。それでは」
そう言って馬車に乗り込み、そのまま帰っていった。
「さあ、セイラ。家に入ろう。それでお前、本当に体調が悪かったのか?」
不思議そうに聞いてきたお父様。
「いいえ、殿下が勘違いしただけですわ。私はこの通り、元気です」
顔が赤かったのは、子供たちが変な事を言ったから、変に意識してしまったためだ。
「それならいいのだが。それにしてもサフィール殿下は噂通り、お優しい方の様だな。セイラをわざわざ送ってくれたし」
「そうね、それにとても紳士的で礼儀正しいし。セイラの事も随分と気遣ってくれていたしね」
「サフィール殿下は自国にいた時から、修道院や孤児院を定期的に見て回っていたらしい。そう言えばお前、クレーション王国に行っていた時に、サフィール殿下に会っていたらしいな。そのブレスレットも、クレーション王国にいた時に、お揃いで買ったそうではないか」
ちょっとお兄様、変な事を言わないでよ。そもそも両親には、私が修道院にいた事は内緒なんだから!すかさずお兄様を睨む。ハッした顔をして、ごめん!と言わんばかりの顔をしている。
でもきっと、わざと言ったのね。なんとなくそんな気がした。
「まあ、セイラはサフィール殿下と知り合いだったのね。それで帰国後急に孤児院などを援助する協会を立ち上げたのね。それにお揃いのブレスレットまで付けているなんて。どうしてすぐにお母様に教えてくれなかったの?既に好きな人がいるなら、話しは早いわ。すぐにクレーション王国の王宮に使者を送り、2人の婚約を認めてもらいましょう」
ちょっと待って、なんでそんな話しになるのよ!さすがに止めようとしたのだが…
「そうか、セイラはサフィール殿下が好きだったのか…隣国に嫁いでしまうのは寂しいが、セイラの幸せのためだ。致し方ない。それにサフィール殿下なら、セイラを安心して託せるな」
なぜかお父様までそんな事を言い出した。
「ちょっと待ってください。サフィール殿下と私は、ただの友達です。とにかく、早まるのはやめて下さい!」
確かにサフィール殿下は、私に好意を抱いてくれている様だけれど…でも私は、正直まだ自分の気持ちがわからないでいるのだ。
「そう言えば、今貴族学院ではセイラは巡って、ライム殿下とサフィール殿下が熾烈な争いをしていると言っていたな。さすが俺の妹だ。2人の王太子に好かれるなんてな」
「まあ、そうなの?さすが私の娘ね。セイラ、私たちはあなたの気持ちを最優先したいと考えているの。もちろん、どちらかを選ばなくてもいいのよ。自分の思うままに生きなさい」
そう言ってにっこり笑ったお母様。お父様もお兄様も頷いている。それにしてもお兄様ったら、余計な事をペラペラと話すのだから。でも、相変わらず家族が私の気持ちを最優先してくれるのは有難い。
その後も両親とお兄様は、サフィール殿下の話しで盛り上がっていたのであった。
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