第31話 サフィール殿下はやっぱりサフィさんでした
サフィール殿下が留学して来てから、2週間が過ぎた。なぜかサフィール殿下とライムが、何かにつけて張り合っている。ダンスの授業でもどちらが先に私と踊るのか、火花を散らしているのだ。
孤児院にたびたびやって来ていたサフィさんは、どちらかと言うと落ち着いていたのだが、今は…
そして今日も、何かにつけて私に絡みまくる2人に既に疲れきってしまった。でも今日は久しぶりに孤児院に行く日。さあ、子供たちに癒されに行くか!そんな思いで馬車に乗り込もうとした時だった。
「セイラ、今日は孤児院に行くと言っていたね。僕も一緒に行ってもいいかな?せっかくだから、この国の孤児院の状況も見ておきたいんだ」
話しかけて来たのは、サフィール殿下だ。
「ええ、構いませんわ。一緒に行きましょう」
早速2人で馬車に乗り込み、孤児院へと向かう。
「セイラとこうやって2人で馬車に乗るのは、クレーション王国の街に買い物に行った以来だね」
「そうですわね。それでこのブレスレットを、殿下が買ってくださったのよね。懐かしいわ」
あの時は、初めてみたクレーション王国の街に、かなり興奮したのよね。お金が足りなくて、結局子供たちにお菓子しか買えなかった。あの時、改めてお金の大切さを実感した。
クレーション王国の子供たちは、元気にやっているかしら?ふと子供たちの事を考えてしまう。
「セイラ、そのブレスレット、今でもずっと付けてくれているんだね。嬉しいよ」
「もちろんですわ、これは殿下から貰った友情の証ですもの。それにこのブレスレットを付けていると、クレーション王国の皆と繋がっている気がするのです。クレーション王国の子供たちは、元気ですか?」
このブレスレットは、私の大切な宝物なのだ。
「友達の証か…」
そう言って少し寂しそうに笑ったサフィール殿下。その顔を見た瞬間、なぜか胸がチクリと痛んだ。何だろう…この気持ちは…無意識に俯いてしまう。
「ごめんね、セイラ。そんな顔をしないでくれ。子供たちも元気にしているよ。そうそう、帰国するときに、子供たちにおもちゃとぬいぐるみをプレゼントしたんだってね。子供たちが嬉しそうに見せてくれたよ」
「まあ、私のあげたプレゼントを、大切にしてくれているのですね。嬉しいわ」
「当たり前だろう。あの子たちにとって、君はもう大切な家族みたいなもんなんだ。またクレーション王国に来たら、顔を出してあげて欲しい」
「もちろんです。必ず皆に会いに行きますわ」
サフィール殿下とクレーション王国にいる子供たちの話しをしたら、一気にあの時の記憶が蘇ってきた。家族か…そんな風に思ってもらえているなんて、嬉しいわ。またいつか、必ず皆に会いに行かないとね。
そんな話しをしているうちに、孤児院に着いた。
「孤児院に着きましたわ。さあ、参りましょう」
早速2人で孤児院の中に入って行く。するとすぐに院長が出迎えてくれた。
「まあ、ミューディレス公爵令嬢様。よくいらして下さいました。あなた様の立ち上げていただいた協会からの補助で、今ちょうど建物の修繕工事を行っておりますところですのよ。本当にありがとうございます」
「それはよかったですわ。古着も少しずつ集まってきている様ですし、子供たちがより良い環境で生活できる様、これからも精進して参ります」
「ミューディレス公爵令息様といい、本当にありがとうございます。あら?そちらの方は?」
「彼は…」
「初めまして、私は隣国、クレーション王国の王太子、サフィール・ファズ・クレーションと申します。今日はこの国の孤児院の状況を拝見したくて、セイラに連れて来ていただきました。早速子供たちに会わせていただいても宜しいですか?」
「まあ、隣国の王太子殿下まで!子供たちはこちらにおります」
急いで子供たちの元に向かおうとする院長。そんな院長に
「院長、どうか子供たちには、私の正体を明かさないでください。子供たちの本来の姿を見たいので。それに今日はセイラの友達として来ましたので、どうか気を付かなわいでください」
そう言ったサフィール殿下。彼は自分の正体を明かすことで、子供たちが遠慮してしまう事を知っているのだろう。さすがね。
早速子供たちの元に向かうと
「あっ!セイラおねえちゃんだ!」
嬉しそうに子供たちが私に飛びついてきた。
「セイラおねえちゃん、となりのおにいちゃんはだれ?」
すぐにサフィール殿下に気が付いた子供たち。さあ、なんて紹介しようかしら?そう思っていると
「僕はセイラの友達のサフィだよ。今日は僕も一緒に遊んでもいいかな?」
そう言って、子供たちにほほ笑んだサフィール殿下。今日はサフィさんで行くらしい。
「もちろんよ、サフィおにいちゃん、こっちでごほんよんで」
「このじおしえて」
一斉に子供たちがサフィール殿下に群がる。もちろん、笑顔で対応するサフィール殿下。その姿はまさに、クレーション王国で見た、心優しいサフィさんそのものだった。やっぱりサフィール殿下は、サフィさんだったんだわ。
その姿を見て、心が温かいもので包まれる。
「セイラおねえちゃん、どうしたの?」
サフィール殿下を見つめていると、私に声を掛けて来た子供たち。
「セイラおねえちゃんは、サフィおにいちゃんがすきなの?」
こてんと首をかしげ、そんな事を聞いてくる子供たち。
「何を言っているの?私は別にサフィ…さんの事を…そんな風には…」
「セイラおねえちゃん、おかおがあかいわ」
「ほんとうだ。あかい」
そう言って子供たちがからかってくる。もう、この子たちったら。
「急に騒ぎ出して、どうしたんだい?」
他の子供たちを連れ、不思議そうな顔で聞いてきたのは、サフィール殿下だ。ちょっと、何でこのタイミングで来るのよ!
「あのね、セイラおねえちゃん、サフィ…んぐぐ…」
急いで子供の口に手を当てた。
「なんでもありませんわ。さあ、あなた達、あっちでご本を読んであげるわ、いらっしゃい」
子供たちを連れ、急いで本を持って移動する。なんだか変な汗が出てしまったわ。もう、子供って本当に正直だから嫌になる!
ん?正直?て、何を言っているのかしら。私はサフィール殿下の事を、お友達だと思っているのよ。決して好きだなんて言う感情はないわ。本当に子供たちったら…
結局変に動揺してしまい、その後も落ち着かない時間を過ごしたのであった。
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