第52話 サフィール様の家族に会いました

「セイラ、王都に入ったよ」


昨日から頻繁に喧嘩を繰り返す2人を、必死に宥めながら過ごすこと約1日。やっとクレーション王国の王都に入った様だ。懐かしい街並みが目に飛び込んでくる。


あっ、あれは私がお世話になっていた修道院だわ。皆元気にしているかしら?そんな私の心の声が聞こえたのか


「落ち着いたらあの修道院にも顔を出そう。子供たちやシスターたちにも、僕たちの事を報告したいしね」


「はい、是非行きたいですわ」


キサリーたち、どうしているかしら?元気にしているかしら?懐かしい記憶が一気に蘇る。


「あれが王宮だよ。君がこれから暮らしていく場所だ」


サフィール様が指さした先には、立派な宮殿が。


「僕がお世話になる王宮か。結構立派だね」


すかさず話しに入って来るライム。抜かりないわね。


「ライム殿下、くれぐれもセイラに絡まない様に!ライム殿下の部屋は、セイラの部屋から一番遠い部屋にしたけれど、やっぱり心配だ。セイラ、ライム殿下の部屋には近づいてはダメだからね。それから、君の部屋の隣は僕の部屋だから、何かあったらすぐに僕の部屋を訪ねてくるんだよ。いいね」


ものすごい勢いで、サフィール様にそう言われた。さすがにそこまでライムを警戒しなくても…当のライムも、苦笑いしている。


そんなやり取りをしている間に、ついに王宮に着いた。


「さあ、王宮に着いたよ。僕が抱っこしてあげるからね」


すかさず抱きかかえようとするサフィール様。さすがに他国の王宮で抱っこされるのはマズイ。


「自分で歩けるので、大丈夫ですわ。それに、今から陛下や王妃様に会うのですから」


すかさず抗議の声を上げたが…


「僕の両親は何も思わないよ。それに、万が一慣れない王宮で転んだら大変だからね。さあ、おいで」


そう言うと、私を抱きかかえ歩き始めた。もう、サフィール様ったら!


「サフィール様、ご両親に会う時は降ろしてくださいね。絶対ですよ」


「わかっているよ」


この人、本当に分かっているのかしら?後ろから付いてきている両親も苦笑いしている。


「さあ、この部屋だよ」


そう言うと、私をやっと降ろしてくれた。すかさずシャティが杖を渡してくれる。杖姿なんて見たら、陛下も王妃様も、よくない印象を持たないかしら?どうしても不安がよぎる。


「さあ、行こう」


近くにいた執事がついにドアを開けた。杖を突きながら、ゆっくりと部屋に入って行く。そこには、サフィール様と同じく、金色の髪をした男女が優しい眼差しをして立っていた。あの人たちが、サフィール様のお父様とお母様なのね。あら?隣の女性は?王妃様の隣には、美しい金色の髪に、エメラルドグリーンの瞳をした可愛らしい女性が。彼女はきっと、サフィール様の妹のリリアナ王女ね。サフィール様によく似て、綺麗な方だわ。


「ライム殿下、ミューディレス公爵、夫人、そしてセイラ嬢、ようこそ、クレーション王国へ。私がサフィールの父でクレーション王国の国王だ」


クレーション王国の陛下が挨拶をしてくれた。ふと隣の女性を見ると、笑顔で私を見つめていた。


「クレーション王国の国王陛下、王妃殿下、リリアナ王女、本日はお招きいただきありがとうございます。娘はこの通り、足が不自由でございます。色々とご迷惑をおかけする事も多々あるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」


お父様がすかさず挨拶をした。この場合、身分の高い王太子でもあるライムが挨拶をするべきなのに…ふとライムを見ると、王女の方を見て固まっている。あの眼差し、なんだか嫌な予感がするわね…


「セイラ嬢の活躍は、サフィールから嫌と言うほど聞かされております。我が国の修道院や孤児院改善にも、全力を尽くしてくださったと聞いておりますわ。彼女の様な女性が、サフィールを支えて下さると聞き、私どもは安心しているのです。セイラ嬢、サフィールを選んでくれて、本当にありがとう」


そう言って、微笑んでくれたのは王妃様だ。


「あの…王妃様。私は見ての通り、杖なしでは歩くことが出来ません。そんな私が、この国の王太子でもあるサフィール様と婚約をしても、よろしいのでしょうか?」


不安になり、王妃様に訪ねた。すると、私の側までやって手を握った。そして私の目を真っすぐ見つめると


「あなたの足は、令嬢たちによって毒蛇にかまれたことで負ってしまったと聞いております。その令嬢たちを許し、命を救ったのですよね。自分の足をこんな状況にした犯人を、あなたは許した。さらに社会的弱者でもある、孤児院を頻繁に訪れ、慈悲活動も積極的に行っていると聞いております。王妃とは、弱い者に寄り添い、たとえ自分を傷つけた者であっても許すことが出来る、心の強い人がふさわしいと私は考えております。あなたはまさに、王妃になるべき人よ。足が動かないくらい、大したことはないわ。だから、胸を張ってこの国に嫁いできて。私も陛下も、リリアナも、あなたを歓迎します」


そう言うと、それは優しい眼差しで私を見つめる王妃様。あぁ、サフィール様が誰よりも優しく強いのは、この王妃様の子供だからなのね…


「ありがとうございます。王妃様。ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」


気が付くと、瞳から涙が溢れていた。そんな私を、優しく抱きしめてくれる王妃様。さらに


「セイラ様…いいえ、セイラお姉様とお呼びさせていただいた方がよろしいかしら?私もお姉様を歓迎いたしますわ。どうか、お兄様を支えてあげて下さい」


そう言ってほほ笑んでくれたのは、リリアナ王女だ。サフィール様に負けず劣らず、心優しい女性なのだろう。


「ありがとうございます。リリアナ王女。これから、よろしくお願いいたします」


彼女に向かって頭を下げた。本当にサフィール様の家族は、とても素敵な方たちばかりね。きっとこの人たちとなら、素敵な家族になれる。そう確信した瞬間でもあった。

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