第30話 セイラに会いたい~サフィール視点~

早速執事が協会と斡旋組合に連絡を取った。でも、思う様な成果は得られなかった。協会にはセイラと言う名前のみで現金を寄付していたし、斡旋組合でも、色々な事情があるという事で、個人情報の提示は求めていないとの事。


ただ、銀色の髪の男性が手配していったとの事。銀色の髪の男性か…そう言えば、セイラも銀色の髪をしていた。


「殿下、きっと遠くの国から来ている可能性は低いかと思います。こうなったら、隣国の貴族たちの情報を集めて参りますので、少々お待ちください。修道院に来たことを考えると、高くても伯爵程度でしょう。とにかく、各国の伯爵・子爵・男爵を中心に調べましょう」


そう言って各国に調査団を派遣してくれた執事。まさかここまでしてくれるとは思わなかった。ただ、どの国も沢山の貴族を抱えているうえ、僕が持っている情報は、セイラと言う名前で銀色の髪に紫色の瞳をしている13歳の少女という事のみ。


この情報を元に、各国の貴族たちを調べるのだから、物凄く大変な作業だ。もちろん僕も、調査団の報告書をくまなくチェックし、セイラらしき人物がいないか確認する。


でも、中々有力な情報がつかめない。いっその事、各国の王族に協力を求めるか?そう考えたが、そんな大事にしたら、セイラに迷惑がかかるかもしれない。そんな思いから、自分たちで情報収集する事にしたのだ。


セイラが国に帰ってから、もうすぐ半年になろうとしていた。あまりにもセイラらしき人物が見つからないので、1ヶ月前から公爵や侯爵まで広げて調査を行っている。それでも、有力な情報が入ってこない。


この半年、セイラを思わなかった事は1日もない。会いたくて会いたくてたまらなくて、何度もブレスレットを見つめる。このブレスレットは、セイラと初めて街に行った時に、お揃いで買ったもの。


もうセイラは付けてくれていないかもしれない。それでも僕にとっては、唯一セイラと繋がっていられる大切なものなのだ。


「セイラ、君は今どこにいるんだい?僕は君に会いたくてたまらないよ…セイラ…」


ふと窓を開けると、満点の星空が広がっていた。誕生祭の日、セイラと一緒に見た星空だ。あの時は間違いなく幸せだった。星空を見ていたら、自然と涙がこみ上げて来た。


とめどなく溢れる涙を止める事が出来ず、1人静かに声を殺して泣いた。涙を流したのは、いつぶりだろう。その時だった。


「殿下、夜分遅くに失礼いたします。セイラ様らしき人物が見つかりました」


やって来たのは、執事だ。


「何だって!それでセイラは、どこの国の貴族だったんだ」


セイラが見つかった。ずっと待ち望んでいた言葉を聞き、興奮せずにはいられない。つい執事に詰め寄ってしまった。


「落ち着いて下さい。セイラ様は、隣国ミュンジャス王国の公爵令嬢でございました」


「公爵令嬢だって…どうしてそんなにも身分の高い女性が…」


あり得ない、公爵家と言えば、王家の次に権力を持った家だ。もしかして、セイラは公爵家から迫害を受けていたのか?


「セイラは無事なのか?まさか公爵家で邪険に扱われていたのではないのか?」


「いいえ、その様な事はありません。とにかく、この資料をお読みください」


セイラについての報告書を渡された。食い入るように読む。そこに書かれていたのは、以前のセイラは物凄く我が儘で傲慢だったこと。しかしミュンジャス王国の王太子の誕生日の時、王太子に婚約を拒まれてから、1年半近くも社交界から姿を消した事。


そして1年半後貴族学院に入学したセイラは、別人のように人が変わり、孤児院などを支援する団体を立ち上げ、兄と一緒に積極的に慈悲活動を行っていると言う旨が書かれていた。


「セイラ様は美しい銀色の髪に紫の瞳をした女性との事です。さらにお兄様も銀色の髪をしている。1年半社交界から姿を消していたという点から見ても、この修道院でお過ごしになったセイラ様で間違いないかと。それと、セイラ様と一緒に修道院にいらした、シャティと言う方ですが、どうやらセイラ様の専属メイドの様です」


なるほど、全てが繋がった。間違いない、セイラは隣国、ミュンジャス王国の公爵令嬢だったんだ。


さらに報告書を読むと、今ミュンジャス王国の王太子が、セイラとの婚約を結びたくて行動しているらしい。ただセイラの父、ミューディレス公爵が猛烈に反対しているとの事。


「こうしちゃいられない。一刻も早く、セイラに会いに行かないと!デラス、明日父上と母上に話をする。手配をしておいてくれ」


「かしこまりました」


セイラが見つかった今、一刻も早く会いたい。それにしても、まさかセイラが公爵令嬢で、すぐ隣の国にいたなんて。でも隣国の公爵令嬢なら、父上や母上もきっと反対しないだろう。


結局この日は、興奮してあまり眠る事が出来なかった。


翌日、早速父上と母上に、セイラの事を話した。僕がどれほどセイラを愛しているのかを熱弁したのだ。すると…


「あなたがシスターに恋をしていた事も、そのシスターが国に帰り辛そうにしていた事も全て知っています。そもそも、私がデラスに彼女を探すよう指示を出したのですから」


そう言ってほほ笑んだ母上。父上もこっちを見てほほ笑んでいた。まさか2人とも、全てを知っていたのか?


「私も陛下も、あなたを誰よりも大切に思っているのです。親でもある私たちが、何も知らないと思っていたら大間違いですよ」


「そうだぞ、サフィール、既にミュンジャス王国にはお前が留学できる様、話を付けてある。ただし、期限は半年だ。半年の間に決着を付けろ。もちろん、権力で無理やり手に入れる様な真似はするなよ。まああの公爵なら、お前がいくら権力を振りかざしたところで屈しないだろうがな」


そう言って笑った父上。


「父上、母上、ありがとうございます。必ずセイラに選んでもらえる様、精一杯努力します」


これでセイラの元に行ける。待っていてくれ、セイラ。もうすぐ君の元へ向かうから。

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