第35話 ホワイトキングベアー15体の討伐に行けといわれました

「南の街、アルキオーネですか?」


「そうだ、そこにAランクの魔獣ホワイトキングベアーが15体出現してる。ギルドにはSランクハンターもいるが、数が多くて苦戦しているそうだ」


 この日は朝一で隊長の執務室に呼ばれていた。リナとふたり特務隊の初任務だ。かなり気合いが入る。


 ホワイトキングベアーはSランク寄りのAランクではあるけど、2、3体程度ならSランクハンターで問題ない。

 でも15体なんて、普通じゃない。しかも主な生息地は隣国だ。これは何かがあったのだろうか?


「調査も必要ですか?」


「さすが、察しがいいな。原因もわかるようなら頼む。移動距離があるから馬車か馬を用意する」


「足は大丈夫です。オレが黒狼で移動すれば速いので」


「そうか、何かあればアルキオーネのギルド長に相談しろ。話は通しておく」


「了解しました。では早速行ってきます」


 部屋から出ようとドアノブを握った時に、忘れかけていた名前を隊長が口にした。


「カイト、先日の決闘のあと流刑地送りになったミリオンパーティーだが、その収容所から姿を消したと報告があった。大方逃げ出したと思うが、念のため伝えておく」


「……わかりました。ありがとうございます」


 ミリオンたちが消えた……? 流刑地がキツすぎて逃げ出したのか? でも……アイツらが逃げ出せるほど警備はゆるくないはずだ。まぁ、どこかで見つけたら流刑地に戻すだけだな。


 わずかな疑問があったが、忘れたい気持ちの方が強くて、そのまま記憶の片隅へと追いやった。そして、南の街アルキオーネへとむかったのだった。




     ***




 南の街アルキオーネは、隣国との国境近くにある街だ。たまに国境を超えて魔獣がやってくるが、頻度としては多くない。


 オレは黒狼の姿で草原を走り抜けた。リナはオレの首のあたりにしがみついて「はぁぁ! モフモフ!」とかいっている。そういえば、セシルさんも一度黒狼に乗せたら大喜びしてたな。

 ……黒狼の方が女子には人気あるんだろうか? それは……ちょっと複雑だ。オレは人間の男としてモテたい。




「カイト——、リナ——!!」


 アルキオーネの街に着くと、レッドドラゴンを討伐した時にいたハンターが出迎えてくれた。この人はたしかバトルアックス使いのレモニーさんだ。尻尾をぶった斬るって張り切ってたのを思い出す。ポニーテールの似合う褐色肌の美人だ。


「レモニーさん、お久しぶりです。お元気そうですね」


「カイトもね! 特務隊に入ったんだって? すごいじゃん!!」


 そういって背中をバンバン叩いてくる。豪快な人だ。


「リナは魔力のコントロール上手くなったかい?」


「はい! まだまだですけど、みなさん協力してくれるので楽しみながら訓練できてます」


「よかった! じゃぁ、詳しく話すからギルドにいこう。ギルド長が待ってるんだ」




 この街のギルドは地下1階から地上3階建のレンガ造りで、魔獣の襲撃にそなえて堅牢な造りになっている。レモニーさんに着いていくと、疾風の槍神と呼ばれたギルド長のルクシーン・ドナルドが出迎えてくれた。


「よく来てくれたなぁ! お前が噂の黒狼のハンターか!!」


 ここのギルド長は声が豪快を通り越してかなり大きいけど、悪い人でないのはわかる。この上司にしてあの部下か……この街はこういうタイプが多いのだろうか。


「カイト・シーモアです。よろしくお願いします」


「私はリナ・クライトンです。よろしくお願いします」


 リナはいろんな街を旅してきたからか、あまり気にならないようだ。オレも見習おう。


「それで、早速ですみませんが、ホワイトキングベアーについて聞けますか?」


「そうだな! ではお茶でも飲みながら話そう」




 ホワイトキングベアーはもともと隣国のカーネルハーンとの国境にある山が生息地で、いままでも年に数回は出没していたらしい。オレが知っていた情報と同じだ。

 ところが今回出没したのは15体だ。群れで行動しているので、数が多すぎて駆逐できていないとのことだった。こんな規模の群れは見たことがないそうだ。


「わかりました。それじゃぁ、とりあえず討伐してきます。あと原因も調査するので、誰か案内をお願いできますか?」


「それなら私が行くよ!」


 オレたちはレモニーさんの案内で、ホワイトキングベアーの出没した山の麓まで黒狼でむかった。






「これは……クセになるな……!」


「そうなんですよ! わかってもらえて嬉しいです!!」


 なんの話かって、黒狼に乗っての移動についてだ。人間ふたりなら乗せられるから、レモニーさんも乗せて来たんだ。やっぱり、オレよりも黒狼の方が好感度が高い気がする。何でだ……。


「あー、ごめんね。ちょっと想像以上に乗り心地がよくって、リナと盛り上がっちゃたよ」


「やっぱり、カイトのモフモフは最高なんだよ!」


「……ホワイトキングベアーはどの辺ですか?」


 オレは現実から目をそむけたくて、魔獣の話をする。そうだ、マジメにお仕事しよう。


「こっちだ。この先にアイツらが群れを作っているんだ」


 レモニーさんはハンターの顔に戻って、山の中へと入っていった。




     ***




「この下を見てくれる?」


 案内された先は崖になっていて、崖下には川が流れている。岸辺には岩も転がっているが、ホワイントキングベアーたちは川で餌をとったりしてのんびり過ごしているようだ。……ノンキなもんだ。


 数が多いなら広範囲魔法で一発だけど、せっかくだからリナにも活躍してほしい。黒狼の評価上がりそうでイヤだけど、あの作戦でいこう。


「リナ、ここから降りるから黒狼に乗ってくれ」


「ええ!? ここから降りるの!?」


「カイト、他にも道はあるんだぞ。私が案内するから!」


「え、これくらいなら一瞬ですよ? リナも訓練だと思って頑張ろう?」


 爽やかな笑顔で、鬼畜なことをいってる自覚のないカイトだった。




     ***




(いや————!!!! やっぱりムリ! ムリムリムリィィィィ!!!!)


「いまだ! リナ、川に氷魔法を打ってくれ!!」


 カイトは黒狼になってリナを乗せて、垂直に近い崖を駆け降りる。というより飛び降りるに近かった。ギルドや特務隊のSランクハンターたちにすでに毒されているカイトは、これが普通なんだと認識している。


「リナ! リナならできるから!!」


(カ、カイトがいうなら……私もできるんだよね?)


 そして、ここにも毒されたハンターがひとり誕生した。残念なことに、見守っているハンターもSランクだ。こうして毒されたハンターたちは、それを後輩へと引き継いでいくのだ。



氷華乱撃アイシクル・ディート!!」



 リナの放った矢は次々と川にいたホワイトキングベアーを凍りつかせていく。そして崖下に着地したところで、今度はカイトが青い稲妻を放った。



青い衝撃ライトニング・ショック


 

 この一撃で残っていたホワイトキングベアーはすべて倒した。崖上から見ていたレモニーは感嘆する。


「はー! 私たちが四苦八苦したものを、あんなに簡単に倒しちゃうなんて……まいったね」






 ホワイトキングベアーの討伐証明と素材を回収してレモニーに渡し、カイトとリナは調査を始めた。


「カイト、匂いで何かわかる?」


「そうだな……コイツらの来た方向ならわかる。何かあるかも知れないから行ってみよう」


 匂いのする方はこっちだな……うん? ここから匂いが分かれてる。ひとつは隣国へつづく獣道だ。もうひとつは、あの洞窟か?


 ホワイトキングベアーの匂いを頼りに、さらに山奥へと進んでいたカイトは立ち止まる。獣道からそれて、3メートル進んだ先にポッカリと口を開けた洞窟があった。


「リナ、ここから匂いが分かれてるんだ。あの洞窟につづいてるみたいだから、行ってみてもいいか?」


「うん、あんなところに何かあるのかな?」



 洞窟の前まで来てその理由に納得した。入口には結界が張られているが、その奥に鳥形の弱った魔獣がいたのだ。


「この魔獣を狙って、ホワイトキングベアーはここまで来ていたのか」


『カイト、これは魔獣ではないぞ。聖獣、不死鳥フェニックスだ』


「聖獣!? 不死鳥って……なんでそんなのが、ここにいるの?」


「訳あり……なのかもな」

             

 そこにいたのは隣国カーネルハーンでは神に近い存在とされている、聖獣不死鳥だった。



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