第27話 本気でブチ切れました

 私はただ、フカフカのベッドを堪能していた。

 もちろん部屋のベッドもいいんだけど、高級宿屋の高級ベッドは堪らなかった。




 今回はカイトのパーティーメンバーということで、私まで国王陛下が招待してくれた。すっごいラッキーだ。カイトと出会ってから、私は今までで一番人生を謳歌している。

 あの時あきらめないでよかった!!


 ちなみに部屋を探したものの、カイトの家の2階が想像以上に居心地よくて引っ越しをやめた。ちゃんとカイトにも了承もらったから、問題はないと思う。

 

 うん、嫌がってる感じはなかった……はず。嬉しそうに照れてたとは思う。年上の人が照れてるのカワイイと思った記憶が……いや、いまはそれどころじゃなかったわ。





 カイトが買い物に出かけても、ベッドが気持ち良すぎてサラサラの肌触りのシーツにスリスリと頬を擦り付けていた。

 すると、少ししてからノックの音が聞こえてきたんだ。


「失礼いたします。ルームサービスをお持ちしました」


「あ、はい。いま開けます」


 てっきり、これも国王陛下が手配してくれたんだと思って自分から扉を開けたの。本当にバカだった。


 そこにいたのは、宿屋の人の格好をした人相の悪い男の人たちだった。ルームサービスなのにカートとかは何もなかった。あれ? って思った時には魔力封じの腕輪をつけられて、ロクな抵抗もできずにさらわれてしまったんだ。




 こんなことでカイトの足を引っ張りたくないのに!

 迂闊な自分がイヤになる。だって、私だってカイトの力になりたい!

 カイトは私が必要ないくらい強いけど、私は一人じゃまともに戦えない。特訓はしてもらったけど、まだまだ半人前なんだから。


 こんな面倒な私じゃ、カイトに嫌われちゃうかも————


 込み上げてくる涙を、ぎゅっと目をつぶってやり過ごす。こんなところで泣きたくなんかない。こんな奴らに弱みなんて見せたくない。



「なぁ、ボス。この女、結構な上玉だぜ」

「そうだな……依頼主からは殺すな、としか言われてないな」

「じゃぁ、俺がこの女もらってもいいか?」

「何言ってんだよ。ボスである俺が最初だ」

「なんだよ、興味なさそうだったのに」

「お前と話してたら、その気になったんだよ」



 この空気は……ヤバい。魔法が使えない私は、ただの町娘よりは少し戦える程度だ。ボスと呼ばれた男がゆっくりと近づいてくる。ニヤニヤと笑っていて本当に気持ち悪い。


「明日の昼過ぎまではヒマだからよ、俺たちと気持ちいいことしようか」


 ニタリと笑う男に、ゾワゾワと鳥肌がたった。


「近寄らないで!!」


 それでも私はハンターだ。素早さを活かせば、逃げ切れるかもしれない。手は後ろ手に縛られてるけど、足は自由だ。


 男が伸ばしてきた手を、スルリとかわしてドアの方へと走り出す。もうひとりの男が止めに来るのはフェイントをかけて避けた。

 ドアに体当たりしようとして、何かに弾き飛ばされた。


「きゃっ! えっ、なに!?」


「お前バカだなぁ。逃げられないように、結界張ってるに決まってるだろ?」


 ボスと呼ばれた男に腕を掴まれて、埃まみれのベッドに投げ飛ばされた。


「ゴホッ! ゴホッゴホッ!」


 これ、少しくらい綺麗にしてよね!! 思いっきり埃すいこんじゃったじゃん!! ああ! さっきまでのフカフカヘッドとは全然違う!!


「ったく、手間かけさせんじゃねえよ!」


 そう言って、男は私の上にのしかかってきた。ニヤけた顔が気持ち悪くて、さっき我慢した涙がこぼれそうになる。

 やだ、やだやだ! こんな奴らに触られたくない!!

 カイト以外に触られるのはヤダ!!




「カイト!! 助けてっ!!!!」




 その瞬間、ドゴォォォォ————ンという轟音とともに扉が吹っ飛び、私の上に乗っていた男の顔にクリーンヒットした。

 男はそのまま扉と一緒に壁に叩きつけられて、気を失っている。



「悪い、遅くなった」



 艶のある黒いサラサラの髪と漆黒の瞳。いつも羽織っている濃紺のマント。私の唯一のパーティーメンバー。


「カイト……来てくれた……うっ、ぎでぐれ……ううっ!」


 カイトの姿を見て安心した私は、ボロボロと流れおちる涙を止められなかった。



「大丈夫か? ケガは? その、イヤなことされて……ないか?」


 カイトは泣きじゃくる私に駆け寄り、優しく声かけてくれる。私を縛り付けていたロープを解いて、魔力封じの腕輪も外してくれた。思わずカイトに抱きついてしまう。震えていた手は、その温もりに落ち着いていった。

 優しく抱きしめてくれたカイトは「もう大丈夫だからな」といいながら、頭をなでつづけてくれている。



 そして、もうひとりの男にむけて青い稲妻を放って、聞いたことないような低い声で「動くな」と命令した。あ、これは、ものすごーく怒ってる。私の涙もピタリと止まった。

 多分、私でも止められないヤツだ。えーと、犯人たち大丈夫かな……?



「……リナ、悪いけど騎士団に通報してくれるか? こいつらを引き渡さないといけないから」


「え……いいけど。カイト、怪我させちゃダメだよ……?」


 ムダかもしれないけど、止めてみる。


「大丈夫、そんなことしないよ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」


「わかった、それなら行ってくるね」


 カイトは男たちを睨んでいて、私には視線をむけなかった。少し気になったけど騎士団へと通報するために走った。




     ***




【……お前、オレの質問に正直に話せ】


 オレは王者の素質を発揮しながら、意識のある男に命令をする。リナが騎士団を連れてくるまでに、聞き出したいことがある。


「は……はい」


(何だ……? コイツの話に逆らえない……もし逆らったら、殺される!!)


「リナの誘拐の依頼人を見たか?」


「はい、この小屋まで依頼に来ましたから……」


「どんな見た目だ?」


「えぇと……背は170後半くらいで、赤毛の男です。目の色は薄茶だったと……思います」


「ひとりで来たのか?」


「女も一緒でした。そっちはオレンジの髪と眼で……あと、胸がデカかったです」



 やっぱりな、ミリオンとティーンだ。見た目も一致するし、ここにも残り香があるからな。なんでこんなにすぐ足のつく真似をするんだ?

 アイツら本当にアホだな。



【今オレに話したことを、騎士団にも話せ】


 今はまだ、騎士団に犯人を教えるつもりはない。この街の住人じゃないから、調べるまで時間がかかるだろう。明日の決闘を邪魔されたくないからな。


 ミリオンパーティー……あいつらはオレの手でぶっ倒す。



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