第28話 ミリオンの行く末は⑧

 翌日、闘技場にはアトリアの街中のハンターや、住人たちが押しかけていた。この一週間でレッドドラゴン討伐の話が広がり注目を集めていたのだ。


 レッドドラゴンを倒すほどのハンターが魔獣と融合している。一方、今回の決闘の相手は元パーティーメンバーで危険性を訴えていると話題だった。




「それでは互いに最善を尽くせ。始め!!」


 よく晴れわたった青空のもと、国王の号令でカイト対ミリオンパーティーの決闘が始められた。

 埋め尽くされた観客席の中に、オレはリナの姿を見つける。「カイトー! やっちゃってー!!」と応援する声もちゃんと届いて、フッと笑顔になる。



「ずいぶん、余裕そうだなぁ?」


 ミリオンが忌々しげに睨んでいた。

(何でここにいるんだ! 奴らは何やってるんだ! 持っていた武器や防具も全部売って、金をかき集めて依頼したっていうのに!! わざわざ一日早く来て、奴らを探すのも苦労したんだぞ!!)



「あら? 今日の装備って剣だけ……? ププッ、防具を買うお金もないの?」

(何よ! ミリオンがカイトが来なくなるっていうから、お気に入りの防具も渡したのに! ぜんぜん話が違うじゃない!)



「なんだよ、ランクだけ上がっても稼げてねえのか? まぁ、あんな使えない女とふたりパーティーじゃなぁ」

(あの酒場のバーテンから金を払って情報聞いたのに、ガセだったのか? いや、そもそもミリオンたちはちゃんと依頼したのか!?)



「チッ! 早く化けの皮を剥がせよ! カイト!」

(クソッ! 予備の剣も防具も金にしちまったのに、どうすんだ!? プロに頼むからって、トレットと必死になって依頼先を探したのは何だったんだ!!)



 ティーンとトレットが以前のようにオレを小馬鹿にしてくる。そしてサウザンも同じだ。

 ……コイツら、オレが抜けてから3ヶ月ちょっと経つのに何も成長してないな。いや、3ヶ月と言わず8年前からあんまり変わってないか。

 リナに手を出さなければ、そのまま放っておいてやったのにな。



「防具がないのはハンデだ。それよりオレが棄権してなくて焦ったか?」



 4人の動きがピタリと止まり、目が泳ぎまくってる。狼狽えすぎだし、今ので自分たちがやりましたって自白したようなもんだ。


「何のことだか知らねぇよ!」


「チッ! 喋ってないで始めるぞ!」


 トレットとサウザンが同時に飛びかかってくる。

 その初動を見て、こう思った。


 遅っ!! とにかく遅っっ!!!!


 相手してたのがドラゴンとかSランクハンターの皆さんとかばっかりだったからか、ギャップに戸惑ってしまった。

 うーん、どうしたもんか。おお、そうだ、回復薬を飲ませながら戦うか? 少しはマシになるんじゃないか?


 トレットとサウザンの攻撃を避けたついでに、4人の口に回復薬を突っ込んでいく。そしてコイツらだけに王者の素質を発揮した。


【いますぐ口にある回復薬を飲み干せ】


 4人ともオレの命令に逆らえず、回復薬を飲み干した。そして納得できないような表情を浮かべている。


「カイト……いま、何をした!?」


「別に、オレ特製の回復薬を飲めって言っただけだろ?」


 ミリオンが食ってかかるが、サラッと流して終わりにする。これで少しはコイツらと楽しめるか?

 すぐに終わったんじゃ、つまらないからな。そんな簡単に終わらせるつもりはない————



「ほら、早くかかってこいよ。いつもの連携はどうした?」



「クソッ! すぐに本性を引きずり出してやる!!」


「ほんっとムカつくわね! ファイアストーム!!」


 そして、オレの目の前に赤い炎の渦が放たれた。




     ***




 ティーンのファイアストームを皮切りに、トレットとサウザンが距離をつめる。その間に俺は剣に魔力を流し込み、炎をまとう魔法剣を準備する。

 剣から炎が燃え上がるタイミングで攻撃すれば、敵はひとたまりもないはずだった。


 ましてや相手は人間だ。いくら魔獣と融合してるからって、身体は生身のはずだ。防具も何もつけていないのに、なぜ傷ひとつ……火傷ひとつ負ってないんだ!?




 ミリオンたちは何が起こったのかわからずに、目の前にいるカイトを呆然と見つめている。


「もう終わりか? ほら、何度でも来いよ。相手してやるから」


 カイトが小馬鹿にしたように、手のひらを上に向けてクイクイと手招きする。一気にミリオンの頭に血が昇る。


「クソッ! カイトのくせに生意気なんだよ!! ティーン、もう一度だ!!」


「ファイアストーム!!」


 そうだ、ティーンのファイアストームは強力なんだ! これで動きが止まるはず!!


 ミリオンは剣に魔力を注ぎながら、注意深くカイトの動きを見ていた。カイトはティーンの魔法を雷魔法一発で相殺して、切りかかってきたトレットとサウザンの攻撃をヒラリとかわしていた。

 ミリオンも切り込んだが、同じようにステップを踏んだだけで避けられている。カイトは眉ひとつ動いてない。



「クソッ、なぜ当たらないんだ!」


「当たってしまえば吹っ飛ぶのに!」


「あと少しで本性を引きずり出せるはずだわ!!」


「チッ! 逃げてばっかりいないで、受け止めろよ!」


 回復薬が効いているはずなのに息が上がってくる。ミリオンたちはギリギリと奥歯をかみしめながらカイトを睨みつけた。



「そうか。じゃぁ、望み通り全ての攻撃を受けてやる」


「は? 全ての攻撃を受けるだって!? カイトはバカなのか!? そんな事できるわけない!!」



うなれ、雷神」



 カイトが引き抜いた剣は、青い光を放ち美しく輝いた。魔法文字が光り、青い稲妻がバチバチと躍り出ている。ミリオンたちも思わず目を奪われた。


「どうした? 怖気づいたか?」


 この言葉に4人は顔を真っ赤にして、いきり立った。




「黙りなさい! ファイアストーム!!」

 

 ティーンは残りの魔力を全て込めて、炎嵐を放った。

 カイトは左手を差しだして、そのまま受け止める。炎が左手を焼き焦がす前に、超自己再生で回復していく。

 この能力を知らないミリオンたちは、何が起きているのか理解できなかった。


「化け物め!!」

「ガハハ! これで終わりにしてやる!!」


 トレットもサウザンも全魔力を込めて、剣撃を繰り出した。


 ガキィィン!! と剣のぶつかり合う音が響き渡る。闘技場はすでに静まりかえっていた。カイトの一挙手一投足に釘付けになっている。


 雷神で受け止めたカイトは、そのまま青い稲妻を放ってふたりの武器をはじき飛ばした。


「っ!!」

「そんなっ! 片手で俺たちの攻撃を……」


 ミリオンは剣から燃え上がる炎に、さらに魔力を注いだ。強烈な熱波を放つ剣をカイトに叩き込む。

 剣がぶつかり合った瞬間、ボオオオンッッと炎がより激しく燃え上がった。


 はじけ飛んだ炎にミリオンは目をつぶる。肺が焼かれそうな熱い空気をやり過ごし、ゆっくりと瞼を上げた。


 その視界に映ったのは、自分をまっすぐに見つめる漆黒の瞳だ。あれだけの炎を浴びても、何事もなかったように平然としている。


「そん……な、いまのでもダメ、なのか……?」




 今のが、ミリオンの全力の攻撃だった。

 ミリオンはようやく目の前の事実に気づいた。


 カイトは俺よりもはるかに強い。SSSランクハンターに間違いはない……そして魔獣の魔力もコントロールできている。

 俺たちがSランクパーティーになれたのは、カイトがフォローしていたからだ————


 ずっとずっと目を背けてきた事実から、逃れようがなかった。そして、その事実に打ちのめされた。


  

 ミリオンたちに最後に残された希望は、カイトの危険性を暴いて国王軍に入ることだけだった。



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