第29話 徹底的にやりました

「うーん、魔力切れ……か? じゃぁ、これを飲め」


 カイトは魔力の回復薬を、ミリオンたちに与えた。今度は命令しなくても素直に飲んでいる。


 回復したミリオンたちは、怒涛の攻撃を仕掛けてきた。よほど国王軍に入りたいのか、必死になっている。

 この必死さを訓練にむけてれば、もうちょっと違ったのにな。



 でも、もう遅い。もう二度とリナに手を出そうと思わないように、徹底的に叩き潰す! ここまでオレを怒らせたんだ、覚悟しろよ?



 ミリオンが先陣切って攻撃を仕掛けてくる。最初からかなりの魔力を剣に込めて、炎を撒き散らしながら振りかぶってきた。カイトは雷神で受け止めて、蹴りを一発入れて弾き飛ばす。

 ミリオンは闘技場の上を転がっていった。


「グハッ……!!」


 腹に入った蹴りで、息ができないのか起き上がれず動けないでいる。

 ちょっと待て、いまのは魔力なんて込めてないただの蹴りだぞ? 大袈裟じゃないか?


 次に来たのはサウザンだ、連携も何もなく闇雲に攻撃して来ている。雷神で受け止めた瞬間、トレットが後ろから両手剣を振り下ろしてきた。


 カイトは体の向きを変えて、サウザンの槍でトレットの両手剣を受け止める。ほんの少し魔力を込めて雷魔法を使ってみた。


放電ディスチャージ


「ウガッ!」

「グッ!」


 あ、ヤバい、マヒしちゃったか? まさかこれでマヒするとは思わなかったな……まぁ、少ししたら回復するだろ。仕方ない、ティーンの相手するか。攻撃は……最後の最後にしよう。


「ファイアストーム!!」


 背後から炎嵐が襲いかかるが、それを左手で受け止めた。


「魔法はあと何発打てる?」


「え……? あと何発って……5、6発なら……」


「わかった。ロスタイムなしでいいから、打ってこい。全部受け止めるから」


「なっ! バカにしてっ!!」


「早くしろ」


「ファイアストーム!」「ファイアストーム!」「ファイアストーム!」「ファイアストーム!」「ファイアストーム!」


 5発の炎嵐がカイトに押し寄せてくる。服を焦がしたくなかったので、雷神を鞘におさめて両手で次々と受け止めた。


「はぁっ……はぁっ……早く、本性あらわしなさいよ……」


「そ、そうだ! 魔獣は……危険なんだ」


 ミリオンが何とか起き上がって、剣を構える。


「オレはオレだ。それより、もう体力も魔力もないだろう? 回復薬やるから飲めよ」


 4人分の回復薬を飲ませつつ、このあとも何度も何度も繰り返し攻撃させた。

 何をやっても、どんな風に攻撃しても、一切ダメージを与えられない。自分たちの攻撃がまるで通用しない事実を、カイトは何度も刷り込んだ。




「チッ! 何でだ!?」


「何なんだよ……本当に、化け物じゃねぇか!!」


 サウザンとトレットが悲鳴をあげる。

 何言ってんだ、オレの8年間とリナの恐怖に比べたら屁みたいなもんだろ?


「もう……もう……魔法打ちたくない……」


「クソッ! クソッ! これが化け物じゃなくて、何なんだよ!」


 ミリオンたちの襲いかかる手が鈍くなってきた。刷り込みが効いてきたのか、身体が拒否を始めたようだ。

 でも、ここで終わりじゃぁ、つまらないな。


【体力と魔力がある限り、オレに攻撃してこい】


 王者の資質を使って強制的に、ミリオンたちを動かした。根性が足りないんだよ、根性が。あれだけのことやってきたんだ、もっとしぶとく噛み付いてこいよ。


「ひっ!」

「イヤ……イヤッ!」


 ミリオンたちの顔色が一気に青くなる。彼らの意思には関係なく、身体が動いてしまって止められない。マヒから回復したトレットとサウザンも攻撃を仕掛けてきた。

 大量に持っていた回復薬が尽きるまで、延々と続けられる。闘技場はすでに静まりかえっていた。


 ミリオンたちの精神はもはや破綻寸前だった。カイトの持ってきた回復薬もついに底を尽きる。


 あーあ、回復薬がなくなったな、ここまでか……。


 目の前のミリオンたちの瞳にはすでに光がなく、終わらない現実に打ちのめされていた。もう言葉すら話せないようだ。




「そろそろ終わりだ」




「チッ! ウガアアアア!!」


「いちいち舌打ちするの、ウザいんだよ」


 連携も何もなく飛びかかってきたサウザンを、一撃で場外へふっ飛ばす。壁に強打されたサウザンは気を失った。ずっと言いたかった事もいえた。



「うらああぁぁ!」


「損得しか考えないヤツはいらない」


 次はトレットだ。両手剣の攻撃を雷神で受け止めてなぎ払う。その時にほんの少し青い稲妻を放つと、感電して気絶した。言われたことを言い返せてスッキリだ。



「ひぃぃっ!! ファイアストーム!!」


 ティーンが放ったファイアストームを、雷神の一振りで消しさる。手で受け止めてもよかったが、それすらも面倒だった。


「魔法使いなら、魔法で倒そうか」


 ティーンの顔が一瞬で青ざめる。


青の破雷ブレイク・ショット


「ギャァぁぁぁ!!」


 だいぶ力を加減した雷魔法で、ティーンも悲鳴を上げて気絶した。



 闘技場に立っているのはミリオンだけだ。オレの発した命令に忠実に従って、剣に魔力を込めている。


「うああぁぁ!!」



「もう二度とオレの前にあらわれるな」



 ミリオンの剣から炎が激しく燃え上がった。

 オレも雷神に魔力を込めて、青い稲妻を走らせた。剣と剣がぶつかり、眩い光を放つ。


 光が収まるとミリオンの剣が真っ二つに折れていた。雷魔法を受けたミリオンは、立ったまま気絶している。


 カイトは静かに雷神を鞘に収めて、国王に視線をむけた。






「決闘はここまで! ただいまの瞬間をもってカイトの勝利とする!!」


 ここで国王が高らかに決闘の終了を告げた。



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