第26話 王都アトリアに来ました

「うわぁ、ここがアトリア! 王都は初めて来たよ!」


「オレも初めてだ。デカい街だな……とりあえず、宿屋に荷物置きにいこう」



 明日は国王に設定された、ミリオンたちとの決闘日だ。そのためにオレたちは闘技場のある、王都アトリアにやってきた。リナも一緒にと招待されている。


 そうだ、あの国王とミリオンで、勝手に話をすすめて決めてしまった決闘だ。ホント、国王の決定事項って逆らえないからイヤなんだよ。


 それからオレを縛って連れていった近衛騎士は、地方に異動させたらしい。騎士団長が「責任もって処分した」と報告してくれた。

 ハンター派遣の統括責任者の話を隣で聞いていて、オレが危険だと勘違いしていたらしい。別にそんな気にしてないけどな。


 移動はリナのつよい希望で黒狼の姿だ。もういろいろバレちゃったし、堂々と街道を走りぬけてきた。

 もしかして、これは今後の移動はこのパターンで決まりなのか? あれ、オレってもしかして便利な足って認識か?


 うーん、まぁ、リナなら乗せてもいいか。めちゃくちゃキラキラした笑顔で楽しそうだったしな。

 あんなに喜んでくれるなら、悪い気はしない。






 オレたちは国王が準備してくれた宿屋で、受付を済ませる。ミリオンたちは王都の反対側にある宿屋らしい。顔を合わせないように配慮してくれたんだろうか?


「なんか……いいのか、こんな部屋使って」


「カイト!! ベッドがヤバい! こんなフカフカ初めてだよ!」


 宿屋の入り口からして、立派だなとは思ったんだ。部屋に通されてみると、そこはスイートルームだった。


 スイートルームだけあって設備もすごい。扉は魔道具が設置されていて、専用のカードか室内からじゃないと鍵が開かない仕組みになっていた。

 豪華なベッドルームもふたつある。下手したら家の一階部分より広い。

 お風呂の湯船は大人三人が入れるくらい大きかった。


 倹約生活が身についているオレには、逆に落ち着かない。

 このテーブルの上の盛りだくさんのフルーツも、全部食べていいみたいだ。

 リナに言われて、オレも自分のベッドに寝っ転がってみる。



 天国だ。今なら、母さんに会えそうな気がする。



『カイト、正気に戻れ!』


 リュカオンの声にハッと我にかえった。


「このベッド……ある意味危険だな」


『ふざけてないで、明日の準備でもするのだな』


「うん、そうするわ」


 そうだ、レッドドラゴンの討伐で、剣がダメになったからここで買おうと思ってたんだ。


「リナはこのあとどうする? オレは武器屋行くけど」


 いまだにベッドでゴロゴロ転がってるリナに声をかける。


「待って、いまは……このベッドの魅力から離れならない!」


「はは、わかったよ。じゃぁ、オレひとりで行くよ。晩飯までには戻ってくるから」


「うん、いってらっしゃい!」


「行ってくる」




     ***




 余程あのベッドが気に入ったのか……報酬もだいぶ溜まってるから、誕生日にでも買ってやろうかな。帰ったら誕生日がいつか聞いておこう。


 そんなことを考えながら、武器屋に入った。

 ここはギルド長が勧めてくれた店で、品揃えがよく価格も良心的とのことだ。


「いらっしゃいませ! 今日は何をお探しですか?」


「あの、片手剣を……雷魔法使うので雷耐性ついてるといいんですけど」


 にこやかな笑顔で店主が声をかけてくる。もうひとつ、これも伝えろと言われていたな。


「あと、エルナト・ヘイズリーさんから紹介されたんです」


「え! エルナトさんですか!? ああ、では君がカイトくんか!」


 にこやかだった店主はさらに破顔して、店の奥から布に包まれた細長いものを持ってきた。



「実は、エルナトさんから頼まれててね。カイトくんがくるのを待っていたんだ」


「これは……?」


「この剣は『雷神』と言ってね。雷魔法の伝導がよくて、威力が1.5倍になるんだ」


 布の中から出てきたのは、目の覚めるような青い剣身の片手剣だった。剣身の中心には、剣先まで魔法文字が書き込まれている。

 グリップと鞘は濃紺でオレの手にしっかりと馴染んだ。


「これは、いいですね」


「そうだろう! カイトくんのために用意した剣だからね。代金はエルナトさんから貰ってるから、そのまま持っていっていいよ」


「えっ!? いや、そんな」


「いいから、いいから。あの人の自己満足に付き合ってあげてよ。でないと、私が叱られてしまうからね」


 だってこれ、多分、いやかなりいい値段すると思うけど。

 オレが受け取らないと、店主さんも困るのか……帰ったらギルド長にたくさん感謝しよう。


「それなら……ありがたく頂きます」


 そう言ってオレは武器屋を後にした。

 ずいぶん早く用事が済んでしまったから、明日に備えてゆっくり休もう。そう思い、リナの待つ宿屋に戻ったのだ。




     ***




「リナ、戻ったよ」


 部屋に入ると違和感を感じた。静まり返る部屋は、物音ひとつ聞こえない。そして知らない匂いが残っている。

 リナの返事がない。いよいよ熟睡してしまったのか?


「リナ?」


 リナの部屋を見ても、そこにはいなかった。どこかに出かけたのか……? そうだったとしても、リナの性格から黙って出かけるのは考えにくい。


 リビングに戻ったオレは、テーブルの上に置かれた紙切れに気がついた。



 そこに書かれていたのは————


 カイト・シーモア、パーティーの女は預かっている。無事に返して欲しければ、明日の決闘は棄権しろ。


 ————つまり、オレに負けろって言いたいんだな。




 こんなの、誰が犯人かすぐにわかるじゃないか。何考えてんだ? アイツは! まだオレから奪うつもりなら、もう容赦しない。明日、決着をつけてやる。

 だけど、その前にリナを取り戻す!


    

 オレは黒狼の姿になって、リナと見知らぬ匂いを追いかけた。



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