第47話 長期出張してたハンターが戻ってきました

 休暇が明けてカイトたちは、いつものように討伐や訓練に明け暮れていた。

 ある日訓練が終わり寮に戻ると、エントランスが何やら騒がしい。


「あ————!! ようやく帰ってこれたぁぁぁぁ!!」


「オリヴァー、煩いですよ。もう少し静かにしろと、何度言ったらわかるんですか」


「あぁ!? ララこそもう少し可愛げのある態度とったらどうなんだよ!? この子みたいにさぁ!」


 オリヴァーと呼ばれたこげ茶色の髪の青年がグイッと抱き寄せたのは、たまたまその場に居合わせただけのリナだった。


「へ? なに!?」


 訳がわからいリナは、青年の腕から抜け出そうとするが今度は両腕をつかまれて、ますます逃げ出せなくなってしまった。


(何で!? ただ、練習場から戻ってきただけなのに、なんでこうなってるの!?)


「ていうか、君めちゃくちゃ可愛いね! 俺のカノジ————」


 そこまで言ったところで、目の前に鮮やかな青い剣身の剣が振り下ろされた。同時に身動きできないほどの殺気をむけられていると気づく。


「リナを離せ」


 オリヴァーはリナの腕からパッと両手を離し、今度は殺気の主に満面の笑みで話しかけた。


「おー! お前が新人のカイトだな! 報告は聞いてるよ。じゃぁ、この子はリナで、もうひとりは……あ! あの子だな!」


「オリヴァー! 帰って来たのか……って、さっそく騒ぎを起こしたらダメだろ!」


 ここで最後に練習場から戻ってきたクレイグが、副隊長らしく一応は注意をしてくれた。そこでカイトはまだ会っていない隊員がいることを思い出した。リナに馴れ馴れしくしていたのは正直気に入らないが、隊員ならばと剣を収めた。


 帰ってきた……あぁ、長期出張に行っていたっていう隊員か。たしか名前は……。


「カイトとリナとウラノスね? 初めまして。私はララ・オルランド。こっちの煩いのはオリヴァー・メルケルです。こんなのだけど、よろしくね」


「あぁ、よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」


 俺たちの返答を聞く前に、オリヴァーがララに食い付いていた。


「こっちの煩いのってのは失礼じゃない!? 俺これでもガラスハートなんだけど」


「それなら粉になるまで砕いてあげますよ」


「ララ! ひどすぎる!!」


 さりげなくオレの背中にリナを隠して、ふたりの様子をうかがった。なるほど……軽い感じのオリヴァーを、ララが毒舌で抑え込んでるんだな。だけど、初対面の隊員に会ったということはだ。


「ララがひどすぎるから、カイト、俺と戦って慰めてくれ!」


 ……そうなるよなぁ。あ、リナもララとクレアに連れて行かれた。ウラノスはオレとオリヴァーのバトルが見たいらしく、この場に残っている。よし、晩飯の時間も近いからサクッと終わらせよう。

 オレたちはいま出て来たばかりの練習場へと戻ったのだった。




     ***




「それで? リナはカイトの恋人なのですか?」


「え!? こ、恋人!?」


「あはは! ララは思ったままに口にするからね。でも裏表がなくていい子だよ」


 私はやはりというか、ですよねというか、ララとクレアにお風呂に連れ込まれた。そう、特務隊の女性隊員恒例のハダカのお付き合いだ。ちなみにウラノスはカイトのパーティーメンバーではあるが、聖獣ということもあって特務隊員ではない。


 一緒にお風呂に入ったりしているけど、私みたいなキワドイ質問攻めにはあっていない。それでも問題なく特務隊の隊員たちと過ごしている。……この差はなんなの。ねぇ、このハダカのお付き合いって本当に必要なの?


「ええ、さっきのカイトの対応は明らかにリナに対して、好意を持っているようでしたので……お二人がそういう関係なら邪魔しないようにオリヴァーも管理しないと」


「いや……恋人、ではないけど……」


 カイトが……私に好意を持ってる? 本当かな? カイトは何だかんだで、みんなにも優しいから自信なかったけど……。


「それなら、オリヴァーがリナを、私がカイトを恋人にしても問題ないですね」


 ん? なんでそんな組み合わせになるの? なんで私がオリヴァーとで、なんで……なんでララがカイトの恋人なの!?!? っ! まさか……ララがカイトを好きになった……の?


「あ、あの……ララはカイトが……好き、なの?」


「私がカイトを? いいえ、あくまで可能性の話です。私はいまのところ好意を持っている男性はおりません」


「あ、そう……」


 明らかにホッとした私をクレアが見逃すはずもなく、私の神経を逆なでする一言を放ってくる。


「じゃぁ、私がカイトの恋人になろうかな」


「~~っ!! ダメ! 絶対ダメ!!!!」


「えー、なんでよ? 恋人じゃないなら関係ないじゃん」


 クレアは絶対わかっていってる! もう! ズルイよ! 本当は他の女の子が黒狼に乗るのも嫌だし、仲良さそうに話してるのもめちゃくちゃ気になるし、そもそも他の女なんて近寄るなって話だし!

 まぁ、ウラノスは聖獣だからギリギリ許せるけど。


「わかってるくせに! 私はカイトが好きなの! 誰にもあげないから! カイトは私のなの!!」


 リナの絶叫が風呂場に響き渡ったのだった。




     ***




「よーし! じゃぁ、始めようぜ! あ、俺は炎魔法使うから、よろしく!」


「……バラしてよかったのか?」


「カイトは雷魔法を使って、黒狼に変身するんだろ? フェアにやりたいんだよ」


 その言葉にハンターとしては悪いヤツではないと理解した。

 他のメンバーは、練習場にきて観戦することにしたらしい。見るだけで学べるものもある。特務隊はそんな貪欲なハンターたちの集まりでもあった。


「そうか、それなら遠慮しない」


「おう! 行くぞ! ファイアボール!」


 オリヴァーが放ったのは、初歩的な魔法のファイアボールのはずだった。だが、実際に放たれたのは巨大な火球で直径が3メートルもある。


「デカっ!!」


 カイトは思わず叫んだ。


「俺の特殊スキルは『地獄の業火』だ。炎魔法ならどんな魔法を使っても、威力が50倍になるんだ。楽しいだろ?」


 また変わったスキルだな……威力が50倍か。大魔法なんて使われたらキツいかもな。


『ふむ、たしかに一発の威力は大きいが、消費魔力も多いようだな。乱発はできないだろう』


「それなら避けまくって、最後に一発打ち込むか」


 リュカオンと攻撃の方向性を決めている間も、オリヴァーは次々とファイアボールを放ってくる。3メートルの火球を避けながら、カイトは反撃のチャンスをうかがっていた。


「どうした! そっちからは攻撃してこないのか!?」


『生意気な小僧め……黒狼になれ、カイト』


「おぉ、今日はリュカオンがやる気だな」


『黒狼になったら、そのまま炎魔法に突っ込め』


 は!? あの3メートルの火球に!? 突っ込む!? リュカオンの言いたいことはわかるよ。あの程度の炎魔法なんて、我の回復力があれば問題ないとか言うんだろ!


『わかっておるなら、早く飛び込め。ほら丁度来たではないか』


 ホントに、なんでこんなにスパルタなんだよ!!


 と心で叫びつつもカイトは黒狼に変身して、炎魔法に突っ込んでいった。驚いたのは見学していたメンバーたちだ。

 そして魔法を放ったオリヴァーは、火球の中からあらわれた黒狼に誰よりも驚いた。あまりの衝撃に何もできず、黒狼に倒され牙を突きたてられる。


「うわー、ありえねぇ!! なんで火の玉の中から黒狼が飛び出てくるんだよ!?」


「とりあえず、オレの勝ちでいいか?」


「あー、そうだな。カイトの勝ちだ」


 その言葉にカイトは人型に戻る。いい加減腹が減りすぎて、どうにもならない。


「よかった。オレもう腹減りすぎて限界……飯食いたい」


 こうして、少し遅くなったがオリヴァーとララの帰還祝いも兼ねて、全員で夕食を共にすることになった。

 そして、そこで出て来たのはリュカオンの宿敵、レグルスの名だった。



                   

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