第48話 国王陛下へ直談判しました

 帰還祝いの食事は少しだけ豪勢だった。チキンステーキがビーフステーキになり、簡素なグリーンサラダが彩り豊かなサラダになり、名もないスープはミネストローネになった。


 そんな食事を堪能し終わると、それぞれが気ままに談話していた。そこでオリヴァーやララの半分報告のような話が耳に入ってくる。クレイグがとても気になっていたようで、詳細を聞き出していた。


「オリヴァー、調査対象はやっぱりここにいたか?」


「んー、色々調べたけどやっぱりこの国にいるな。5年前の魔物の大暴走スタンピードもそいつが仕組んだみたいだ」


 5年前……? それって、プロキオンを襲った、あの魔物の大暴走スタンピードの話か? そいつが仕組んだって? あれは故意に起こされたっていうのか!?



「あの、すまない……オレはプロキオンの出身で、いまの話を詳しく聞いてもいいか?」



 思わず声をかけてしまった。聞き流せるはずない、オレの運命を変えたとも言えることだったから。席を移動して話がしやすい椅子に腰を下ろした。


「そうですか、あの魔物の大暴走スタンピードの被害者でしたか……あまり気分の良い話ではないですがよろしいですか?」


「構わない。オレは真実が知りたい」


 ララの心配する言葉に即答する。母さんに誓い続けた目標を果たすためだ。あの時以上にツラいことなんてない。


 詳しく話を聞くと、オリヴァーとララはレッドドラゴンの出現がきっかけで、調査に出ていたそうだ。この時に魔聖石が使われた話を聞き、鉱山へとむかった。この辺りは多分エリアさんが情報源だろう。

 そこで、ミリオンパーティーの失踪と、白金色の髪の男の目撃情報を得たとのことだった。


「ああ、隊長から聞いてたけど……ミリオンたちなら逃げたんじゃないのか?」


「うーん、それは考えにくいな。あの採石収容所から逃げ出すほどの、実力はないだろ? ミリオンたちが消えた日に白金色の髪の男が、ミリオンらしい男と一緒にいるのを目撃されてるんだが……場所がピーコック山脈なんだ」


 それは、あり得ない事だった。採石収容所からピーコック山脈まで、オレの足でも三日はかかる。いや、連絡役のリュージンさんのような影移動を使えば可能かもしれないけど。




『おそらく、その白金色の髪の男はレグルスだな』




 いままで沈黙を守っていたリュカオンが、突然口を開いた。クレイグが目を見開いて「まさか……」とこぼしていた。


「魔獣王がピーコック山脈にいたなんて……それなら、あの辺の魔獣の変異種が多いのは、偶然じゃないのかもしれない」


 クレイグが珍しく眉間にシワを寄せている。よほどの事態なのだろう。たしかに以前から変異種が多いなとは思っていたんだ。ここ3年はオレの調査も増えていた。もちろん何でもない時もあったけど。


「それで、ピーコック山脈周辺の魔獣調査をしたんです。そこで5年前の魔物の大暴走スタンピードの時も白金色の髪の男が目撃されていて、一旦報告に戻ってきたんです」


「戻ってきて正解だな。男の正体もわかったし」


「そうか……5年前もレッドドラゴンも……変異種もレグルスが仕掛けた可能性があるんだな」


 そうだとしたら、プロキオンの街が襲われたのも、母さんが魔獣に殺されたのもレグルスが原因なのか……。それなら何がなんでも、レグルスを討伐してやる。


『カイト、レグルスのことだ。まだ何かあると考えてよいだろう。狡猾な奴のことだ本来の狙いは隠しているはずだ』


「うん、それなら、こっちから仕掛けたらどうだ?」


『レグルスの居場所が分かるならそれもよかろう』




「それならわかります。いまもピーコック山脈にいます」


「え、それホント?」


 当然のようにララが言ってたけど、本当なんだろうか? だとしたら、これはすごいチャンスなんじゃないか?


「当り前じゃん、誰が調査してきたと思ってんだよ」


「そうそう、オリヴァーは見た目はチャラチャラしてるけど意外とできる奴なんだよ」


 クレイグがけなしてるのか誉めてるのか、わからないフォローを入れる。そしてオレは思い切って提案してみる。


「レグルスを討伐しよう。この国にいるなら、いまがチャンスだ」


「それなら国王陛下に許可をもらわないとダメだね。魔獣王レグルスとなると、特務隊にとっても総力戦だと思うから。討伐計画の調整も必要だな……わかった、僕が掛け合ってくる」


「クレイグ、頼む」


 絶対にどんなことをしても討伐に行ってやる。




     ***




 翌日の就寝前にクレイグがわざわざオレの個室まできて、レグルス討伐の話をしてくれた。出発日の話かと思っていたら全く違う内容だった。


「ごめん、カイト。レグルスの討伐が却下された」


「え……どうして?」


 まさか却下されるとは思わなかった。特務隊って魔獣を狩るのが仕事じゃないのかよ? それがなんですぐ討伐に行かないんだ?

 クレイグもできる限り訴えてくれたそうだが、最終的に討伐の許可は下りなかった。


「レグルスがどれくらいの強さかわからない上に、他の魔獣討伐も放置していくことになるから大きな調整が必要になるんだ。特務隊は国民の為に魔獣討伐をする意味合いが強いから、難しいと言われたよ」


「そうか……それなら、オレが国王陛下に直談判する。それができないなら特務隊をいますぐ辞める」


「……ハハ、カイトが辞めるって言ったら国王陛下も話を聞いてくれるかもね。頼んでいいかな?」


「もちろんだ。明日、隊長に謁見の申請をしてみる」


 そうだ、すでに一度、辞めると言って国王陛下に話を聞いてもらったことがある。あの時はまんまと上手く使われたんだよな……。それでも、どんなことをしてもレグルスの討伐に行ってやる。




     ***




 国王に会いたいと言ってすぐに会えるわけではない。予定が空いていなければ、1ヵ月先の約束になることもある。隊長に謁見の申請をするさいに理由を聞かれたので、レグルスの即時討伐を直接頼みたいと話した。


「いますぐはダメだ。魔獣討伐には国民の生活も深く関わってくる。無闇に計画の変更はできない」


「それなら、オレが国王陛下を納得させたらどうですか?」


「…………いいだろう。国王陛下の指示ならば俺も従おう」


 隊長は少し考えた後で、短いため息とともにオレの提案に乗ってくれた。


「では隊長、国王陛下への謁見を申請します」


「3日後ならいいぞ。俺の報告があるからその時についてこい」


 何だかんだ言っても、ちゃんと部下の話を聞いてくれる。見た目は怖いけど、とてもいい上司なのかもしれない。




     ***




 3日後、オレは隊長の報告についていき、一緒に国王陛下に謁見させてもらった。隊長の魔獣討伐の報告が済むと、国王から声を掛けられる。



「カイト、久しぶりだね。今日はどうした? わざわざリンゼイの報告について来るなんて、よほどの要件なのだろう?」


「国王陛下、お時間を頂き誠にありがとうございます。本日は魔獣討伐のお願いがございます」


「ふむ、私に許可を取るほどの魔獣とは……先日報告を受けたレグルスの件か?」


「はい、レグルスの至急の討伐許可をいただきに参りました」


「他の魔獣の討伐を差し置いて、いますぐに?」


「はい、今ならレグルスの居場所も把握しています」


 ランベール国王は現在の国内の状況と、これまでのカイトや特務隊の実績を踏まえても返答を躊躇ちゅうちょする。


 先日リンゼイと話しあって、結論を出したばかりだった。現在の魔獣王を確実に仕留められるなら、もちろんすぐにでも討伐隊を組んでむかうだろう。

 だが、そうでなかった場合は国内トップのハンターを失い、今後の魔獣討伐にも支障が出てしまう。つまりいま以上に国民が魔獣の脅威にさらされるのだ。



(まぁ、正直なところ確実に倒せるなら、いますぐにでも討伐隊を組みたいんだよね……待て、カイトなら倒せるだろうか。そうだな……実力の証明ができれば許可しようか。無茶な話を聞く交換条件として、私の我儘も聞いてもらおう)



 ランベール国王はひとつのベストと思われる結論だ出した。


「そうだな、リンゼイと勝負して勝ったらすぐ行ってもよい。そして、君はリュカオンと話ができるそうだね。私も話がしてみたいんだ。希望を叶えてくれるなら他の特務隊もサポートに付けよう」


 条件付きだが、レグルスの討伐をさせてもらえそうだ。隊長と勝負か……それに勝てばいいんだな。あとは特務隊の他のメンバーのサポートがあるなら、それもありがたい。


「リュカオン、聞いてたよな? 頼む」


『うむ、奴を確実に葬るためなら仕方あるまい』


 国王がちょっとワクワクして見えるのは気のせいだろうか? そう言えば、この前プロキオンに帰った時にエルナトさんから、国王もSランクハンターだったって聞いたっけ。多分……楽しんでるよな。

 そしてリュカオンが国王にも聞こえるように話しかける。

 


『我がリュカオンだ。国王だとて貴様に従う気はないぞ』



「それは構わない。カイトが私に仕えているなら問題ない。そうか……このように会話していたのだな……」


(うわ! マジで聞こえた! へぇ、これがリュカオンの声か……いっつもエルナトさんに自慢されてて悔しかったけど、これで僕も自慢できるな……ふふふ)


 そんな理由があるとは、この場にいるものたちは誰も知るよしもなかった。



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