第32話 自己紹介という名の洗礼を受けました①

 オレたちはクレイグさんに連れられて、寮の裏手に設置されている練習場へむかった。

 仕事がない時は、ここでメンバー同士で戦闘訓練をしたり、日々の鍛錬に使っているそうだ。


 Sランク以上のハンターしかいない特務隊でも問題のないように、特殊な結界が張られているので好きなだけ暴れてもいいそうだ。

 これ反応したのはリュカオンだった。


『なんと! 我の魔力でも壊れないのか!? カイト! 早速使ってみるのだ!』


 わかった! わかったから!! これから多分イヤってほど使うハメになるから心配すんな!


 と言って、とりあえず落ち着いてもらった。




「よーし、全員集合ー!!」


 クレイグさんの掛け声で、4人のハンターたちが集まってきた。男女ふたりずつだった。


「こちら、今日から特務隊のメンバーになる、カイト・シーモアくんとリナ・クライトンさんです。みんな一人ずつ挨拶してくれる?」



 最初に口を開いたのは、少し幼さの残る茶髪の少年だった。エメラルドグリーンの瞳が鮮やかだ。ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべている。


「俺、ティノ・トランタだ。ここに来てまだ半年だけどよろしく!」



 続いて肩までの金髪をカッコよくかき上げながら、両手剣を片手で担いだお姉さんが声をかけてくれる。


「私はクレア・カーナー。武器は両手剣を使ってるんだ。煮込み料理が得意だ。よろしくな!」


「ていうか、煮込み料理しか作れないでしょ」


「余計なことは言わなくていいの! ほら、アンタも挨拶しなさいよ!」



 チャチャを入れたのは、紅い髪と瞳が印象的な可愛いらしい感じの女の子だ。その、いわゆる巨乳だ。思わず目線がいってしまったけど、すぐにそらして見ないようにする。


 だってさ、リナの視線が痛いんだ。どこ見てんだと、咎めるような視線が突き刺さってきた。


「はいはーい。ファニー・ボイスだよ。武器は副隊長特製の鉄扇と魔眼なの。主に諜報活動メインでやってるよ」



 最後に口を開いたのは、銀髪に紫の瞳の超イケメンだった。なんと羨ましい……いや、オレは他のところで勝負してるからいいんだ。


「ラルフ・ボルテードだ。魔法を使う」


「「………………」」


「………………」


「「…………」」


 あれ、それだけ? スミマセン、まだ続くと思って待ってました。まったく表情変わってないけど、こういう人なんだろうか?


「あ、ごめんね。ラルフは極度の人見知りでね、慣れたら可愛いくなるヤツだから気にしないで。他のハンターは出張中でいないんだ」


 え、この人可愛くなるの……? まったく想像できませんが。



「それじゃぁ、君たちも自己紹介してくれる?」


「はい、カイト・シーモアです。魔獣と融合してます。武器は片手剣で、雷魔法と融合魔法が使えます」


「リナ・クライトンです。武器は弓で魔法は複数の適性があります。あとマジックイーターですけどコントロールの訓練してます」



 オレたちの自己紹介に「やっぱり国王様って、そういうの好きだよね」とか「あの人どこからこんなレアなヤツばっかり見つけてくんの?」とか話してた。



「ああ、隊長以外は敬語なしで、名前も呼び捨てでいいよ。メンバーみんなそんな感じだから。じゃぁ、ここから本当の自己紹介といこうか」



 え? いま自己紹介おわらなかった? クレイグさん、やけにイキイキした顔してるな。


「オッケー! リナは私たちとハダカのお付き合いするよ!!」


「ええ! ハダカ!? ちょ……なっ……えー! ……」


 リナはクレアとファニーにズルズルと引きずられて、練習場から出て行った。


 オレはというと、3人の男子隊員に囲まれている。

 遠くを見つめながら、いつかのギルドの練習場を思い出していた。

 この国のハンターは、こんなヤツばっかで本当にイヤになる。ついさっき、ここに着いたばっかりだぞ。




「カイトは今日って移動だけだから、回復なんてしなくても平気だろ?」


 ティノがさも当たり前だというように尋ねてくる。うん、たしかに平気だけどなんか基準がいろいろぶっ飛んでそうで怖い。


「うん、大丈夫だけど……何をするんだ?」


「何って、バトルに決まってんじゃん」


 ああ……やっぱりそうだよな。しかもオレに拒否権ないヤツだよね。ええ、それはもうリュカオンが大喜びしまくりだよ。


「じゃぁ、俺からいくな! ほら、ふたりとも外で待ってなよ!」


 ティノが張り切って、他のふたりを外に追い出した。公平を期すために、バトルの見学はなしだそうだ。

 そして練習場には、オレとティノのふたりだけになった。




    ***




「手加減なしでやろうな! いくぞ!」


 ティノがシルバーの細長いスティックのような物を、大きく振りかぶった。すると、その先端からヒュルヒュルと透明のムチが伸びてくる。


 伸縮自在の透明のムチか……そう思って、無効化しようと掴もうとして手を伸ばす。その瞬間、ムチから細い棘が無数につきだした。


「うわっ、危なっ!」


 なんだ? いまムチの形状が変わった?


「あはは! ビックリした? このムチはね、ちょっと変わった武器なんだよね。特殊スキルの『ウンディーネの寵愛』を持ってる俺しか使えない」


「ウンディーネの寵愛……?」


「んー、カイトの能力も教えてもらったから、俺も教えるよ。『ウンディーネの寵愛』は液体なら、なんでもどんな形にも好きに操れる能力なんだ」


「あ、さっきの透明のムチって……」


「そう、水だよ。俺がこの形に操ってるんだ」


 これは、ちょっと面倒な武器を使ってるな。ただ、水魔法なら相性は悪くないはずだ。


「そうか。じゃぁ、そろそろオレからもいかせてもらう」


『カイト! やっとか! さぁ、思う存分暴れるぞ!!』


 こんな張り切ってるリュカオンは、初めてだった。それだけここのメンバーが強いんだろうな。弱いヤツだといつも物足りなさそうだもんな。



青の破雷ブレイク・ショット


水の障壁ウォーター・ヴァント


 雷魔法を放った瞬間、ティノはすぐさま水魔法で防御する。反応速度が速い。さすが特務隊メンバーだ、よく鍛えられている。


青の破雷ブレイク・ショット×10」


 10個の稲妻がいっせいにティノに襲いかかる。逃げる隙は与えない。


完全防御壁オール・プロテクション


 するとティノを取り囲むように水魔法の壁があわられて、オレの雷魔法を相殺した。その間にティノの後ろに回り込み、雷神に魔力を流し込む。

 水魔法の壁ごと、雷魔法をまとった剣でなぎ払った。


「うぇ、容赦ないなぁ」


「手加減なしっていったのはティノだろ?」


 そういうティノの水のムチが、雷神をにぎるオレの手に巻きついて攻撃を防いでいる。これを狙ってたんだ。ニヤリと笑みを浮かべて、最後の一撃を放つ。



放電ディスチャージ



 ティノがしまったと気づいた時には、感電して気を失っていた。


「さて、次はどっちだ?」

             

 最強のハンターになるって決めたからな、サクサクいこう。ティノをクレイグさんに頼んで、次のラルフとのバトルに臨んだ。



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