第31話 プロキオンからアトリアへと引っ越しました

 ミリオンとの決闘が終わったオレは、宿屋に戻って早速リュカオンとリナにスカウトの相談をした。


「私は大丈夫だよ! カイトとパーティー組んでれば楽しいし!」


『強い魔獣が倒せるなら、その方がヤツらの駆逐が早くなるぞ』


 と、ふたりとも拍子抜けするくらいあっさりと賛成してくれた。なんか……悩んだのはオレだけみたいだ。

 それなら思い切って国王軍に入ってみようかと決意する。なにせ最終目標は最強ハンターになるのと、魔獣の駆逐だからな。


 翌日には王都アトリアの騎士団を通して、国王に入隊すると告げた。一度プロキオンに戻って、いろいろと整理してからまた戻ってくることになった。




     ***




「カイトが国王軍に行くとか、実感わかねぇな」


 オレがずっと住んでいたプロキオンの家は、ムルジムさんが管理がてら住んでくれることになった。母さんとの思い出がつまった家だから、処分したくなかったんだ。

 今日は家の明け渡しの日だ。


「まぁ、近いですから月に一度は戻ってきますよ。母さんの墓参りもしたいし」


「そうか……その時はここに泊まるんだろう? 美味い飯食わせてやるからな!」


「あはは、楽しみにしてますね! じゃぁ、この家をよろしくお願いします」


「ああ、任せとけ!」





 プロキオンを出発する前に、8年間通ったギルドにも顔を出した。


「あ! カイトさん! もう出発ですか?」


 マリーさんが寂しそうに声をかけてくれる。


「そうなんです。街を出る前にご挨拶したくて……ギルド長に会えますか?」


「もちろんですよ! 部屋に案内しますね」




 ギルド長の部屋に案内されると、そこにはエリアさんやディーノさん、セシルさんも集まってくれていた。


「えっ、みなさん集まってくれたんですか? ……ありがとうございます」


「当たり前だろ! ウチの優秀なハンターの門出だからな」


 やっぱりエリアさんの爽やかな笑顔はキラキラしている。この人のおかげで、被害者が出ることなくレッドドラゴンを倒せたんだ。感謝しかない。


「カイト、たまにはプロキオンに戻ってきてください。その時はぜひ声をかけてくださいね」


 ディーノさんはオレがここで働きやすいように、いろいろ手を回してくれたのは知ってる。本当にありがたかった。


「カイト……リナ、私のこと忘れないでよぉぉぉ!」


「うぅ……お姉さまーー!!」


 セシルさん……最後までモフモフって言われてたけど、可愛がってくれたんだよな。意外と涙もろい人なんだな。



「ギルド長……本当にお世話になりました。雷神も大切に使います。ありがとうございました」


「いや、僕はただ恩を返しただけだよ」


「? そんなのないと思いますけど?」


「そんなことより、これからも君たちの活躍を期待しているよ」



「「はい!」」


 こうして、24年過ごしたプロキオンの街をそっと旅立った。




     ***




 アルファルド王国、国王直轄軍特殊任務隊。


 それが俺たちが配属される部隊だった。命令権があるのは国王のみで、他の組織の命令系統には属さない。この特務隊には現在8名のフリーハンターが所属している。

 それぞれが特殊スキルを持っていて、魔獣討伐のプロ中のプロだ。


 オレとリナは特務隊の寮に入ることになった。独身の者は寮に入る決まりで、結婚すれば自分の好きな部屋に住めると説明を受けた。

 いまは国王軍の敷地の入り口で、案内してくれる隊長を待っている。


 リナとの共同生活は楽しかったけど、ちょっとした事故もあったし、ちょうど良かったと思う。

 あれは、本当にヤバかった。もうリナに酒は飲ませない。

 オレも飲んでたとはいえ、気がつかなかったのは失態だった。深酒はやめよう。





 10分ほど待っていたら、ひとりの精悍な男性がえらわれた。


「カイト・シーモアとリナ・クライトンだな。俺は特務隊の隊長リンゼイ・マクズウェルだ。お前らの上官になる。命令は絶対だから、そのつもりでな」


「「よろしくお願いします」」


 190センチメートルはある長身に、鍛え上げられた身体は迫力がある。眉間に刻まれた深いシワも、逆らうことは許さないと言ってるみたいだ。


「よし、これから寮に案内する。所属ごとに建物が分かれていて、お前たちはあの黒い建物だ」


 隊長の目線の先には、壁も屋根も漆黒に塗られたレンガ造の建物があった。隊長に続いてオレたちもエントランスホールに入った。


「クレイグ!!」


「はいっ! あれ、もう新人が来たんですか?」


 隊長が大声で呼ぶと、人の良さそうな青髪の青年が顔を出した。


「何言ってんだ、時間通りだ。どうせ武器の改造に夢中になってたんだろう」


「うは、バレてる」


「いつものことだからな。ほら、こいつらが新人だ。クレイグから挨拶しろ」



「僕はクレイグ・アラン。この特務隊の副隊長です。武器の事なら僕に聞いてね。よろしく!」


「カイト・シーモアです。魔獣と融合してます。よろしくお願いします」


「リナ・クライトンです。マジックイーターという特殊体質です。よろしくお願いします」



「うはー! 今回も面白い人材仕入れてきましたね!」


 ニコニコと笑う様子は隊長と正反対だ。これでバランス取ってるんだろうか? うん、何かあったら副隊長に聞こう。


「本当に国王陛下あのひとは、そういうのに目敏いからな」


「それじゃぁ、他のメンバーにも挨拶に行こうか。まずは部屋に案内するから荷物おいてきてね」


「じゃぁ、あとは頼んだぞ。俺は執務室に戻る。……洗礼はほどほどにな」


「はい、了解でーす」



 ん? いま隊長はなんて言った? 『せんれい』って言ってなかったか? なんだろう……イヤな予感しかしない。

 リナも『せんれい』を受けるのか? たしかにSランクのハンターだけど、ちょっと心配だ。


 リナは建物の中をキョロキョロ見回していて、いまの言葉に全く気が付いていない。

 クレイグさんから部屋の場所を教えてもらって、荷物を置いてくる。先に送ってあった分は、運び込んでくれていたみたいだ。



「よし、じゃぁ、みんなのところに行こう!」


 クレイグさんのウキウキした笑顔が、やたら眩しい。ちなみに、その右手に持ってるゴッツイ両手剣は何に使うんですか?

 ねぇ、クレイグさんは副隊長だから、新人には優しくしてくれるんですよね?



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