第22話 ドラゴンブレスは強烈でした
ドラゴンの足止めにむかったのは、エリアさんたちを含めたSランクハンターが12人と、オレとリナだった。
「それじゃぁ、街のギルドごとでチーム組んで動こう」
「うん、その方がやりやすいね」
「俺たちヘルクリスは右手から行くよ」
「ウチらナオスは左手から」
「僕たちプロキオンは人数が一番多いから、前方にする」
「それなら、私たちアルキオーネは後方ね。あのぶっとい尻尾ぶった斬ってやる!」
この国の4大都市のギルドに所属する、Sランクハンターだ。経験豊富で実力者ばかりだった。
オレたちはエリアさんと共に、ドラゴンの正面で体制を整える。
「リュカオン、ドラゴンと戦ったことあるか?」
『アースドラゴンならあるな。ただのデカいトカゲだ』
「そ、そうか……でも、何でいきなりレッドドラゴンがあらわれたんだ?」
「あ、それ僕も気になっていたんだ。リュカオンは何かわかる?」
先日の特訓のおかげで、リュカオンはこのギルドのSランクハンターたちに、すっかり馴染んでいた。
『アレはサラマンダーが魔聖石を飲み込んで、進化したものだな』
「え! 魔聖石!? この辺にそんなの採れるとこあった?」
魔聖石はなかなか採掘されることのない、貴重な素材だ。武器や防具に使用すると、魔力増幅効果が付与される。間違って魔獣が体内に取り込んでしまうと、今回のように上位種に進化することもある。
「もしかすると、誰かが故意に与えたのかもしれませんね」
ディーノさんの言葉に、沈黙が流れる。そんなこと、誰がするんだ? 少なくともオレたち人間じゃないことは確かだ。
『まさか……アイツか……?』
「話はここまでよ、来るわ!」
セシルさんの声に、それぞれ攻撃のモーションに入る。
「
「輝け、シリウス」
「
「
最速の攻撃でセシルさんの矢がレッドドラゴンの右足に当たる。かなりの衝撃があったのか、足を止めた。そこへ間髪入れずに、ディーノさんの魔法とリナの氷の矢が追い討ちをかける。
その間にエリアさんがドラゴンの足元まで移動して、聖剣で切りつける。
「うわっ! 硬っ!!」
少ししか切り傷がついていない。でも、充分だ。エリアさんの後に続いて、オレはわずかについた傷に剣を差し込み、思いっきり魔力を解放する。
「
剣から青い稲妻を打ち込み、距離を取る。レッドドラゴンは沈黙したまま動かない。気絶したのかマヒしたのか、今がチャンスだ。
この隙に他の街のハンターたちも、猛攻撃を仕掛けている。カイトは嗅覚と聴覚で周囲の状況を探っていた。
ほとんどのハンターたちは避難し終わってるみたいだな。これなら、もう少し暴れても大丈夫か?
「エリアさん、このドラゴンって討伐しても大丈夫ですか?」
「は!? レッドドラゴンを討伐するって、出来んの?」
「多分、最大火力のヤツ使えば」
「マジか……どんだけ……いや、出来るならやっちゃって! こんなの危なくて放置できないし」
「わかりました。じゃぁ、少し離れてて————」
風に乗って、ハンターたちの匂いが運ばれてくる。その中に、嗅ぎなれた匂いがあった。
え、この匂い……! ウソだろ!? 避難してなかったのか!? アイツらの実力じゃ、レッドドラゴンには敵わない!!
「エリアさん、逃げ遅れたハンターがいます!」
「どこだ!?」
「ギャオオオオオォォォォ!!!!」
レッドドラゴンが意識を取り戻し、受けた攻撃の痛みに叫び声をあげる。大きく尾を振りまわして、ハンターたちを蹴散らした。
その目には怒りの炎が灯り、オレたちにむかって大きく口を開けている。
『ドラゴンブレスだ!!』
リュカオンの声に、全員が防御に徹した。灼熱の炎が吐き出され、山を焦がしていく。見れば山の4分の1が丸裸になっていた。
オレはアイツらが隠れている方に視線をむける。
全員の無事を確認したが、ドラゴンはすでに次の攻撃の体制に入っていた。
その先に、アイツらが、ミリオンたちがいる。
物みたいに扱われた8年が頭をよぎって、動くことができない。例え助けたとしても、また色々言われるかもしれない。
でもそこでギルド長の言葉がよみがえる。
『ランクや能力なんて関係ない、何かのために、誰かのために自らの体を張るから、ハンターは尊敬され愛されるんだ! それができないなら、ハンターと名乗るな!!』
覚悟を決めた、オレはハンターだ。
ドラゴンの攻撃からアイツらを守るには、人間の足じゃ間に合わない。せっかく打ち解けられたのに、気味悪く思われるかもしれない。でも、これしかない!
「エリアさん、10分だけ時間稼ぎしてもらえますか?」
「10分ね、了解!」
その言葉にうなずく。青い稲妻がバチバチとカイトから放たれ、黒狼の姿に形を変えた。丸裸の斜面を駆け抜けていく。一瞬だけリナの方を見たら、驚いた顔してた。
今度こそ気持ち悪いって、思われたかもしれない。
でも、それでもオレは、絶対に後悔しない。
***
正直、ビックリしたよ。
さすがにこの僕、エリア・ガルディナでも予想すらしてなかったね。
カイトがいきなり黒狼に変身して、駆け出していくんだもんな。ハンターを初めてから10年が経つけど、すごいもの見た気がする。
ちょっと寂しそうな悲しそうな目をしてたけど、きっと後ろ向きなこと考えてたんだろう。カイトのことだから。
まったく、僕たちを誰だと思ってるんだろうね? そんなにケツの穴の小さい男じゃないんだけどな。
「さて、10分間は僕だけ見てなよ、レッドドラゴン」
聖剣シリウスに魔力を流し込む。それに応えて刀身は、アイスブルーの光を放った。
それと同時に魔力で身体強化もかけていく。
「
そしてカイトが差し込んだ剣に足をかけて、ドラゴンの体を駆け上がり、強烈な一撃を叩き込んだ。
「焼き尽くせ、シリウス」
魔力の込められた聖剣を振り抜くと、青白く輝く光の斬撃が放たれる。それはドラゴンの喉元にあたり、ドラゴンブレスをせきとめた。
赤い瞳がギロリとエリアを追う。レッドドラゴンの意識は、エリアにしかむいていない。
「はっ! これは堪らないなぁ!」
ほんの少しでも気を抜けば、すぐに喰われてしまう。そんなギリギリの状況を、エリアは楽しんでいた。
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