第23話 ミリオンパーティーの行く末は⑥

 ミリオンたちは、今回の隊列編成でカイトたちの50メートルほど後ろから山を登っていた。

 Aランクハンターたちの中でも後ろの方になる。


 クソッ、なんで俺たちがこんな後ろなんだ! カイトたちは最前線だっていうのに……なぜ、あんな使えない奴が!!


 ミリオンはイライラしながらも歩き続ける。

 すると前方が何やら騒がしくなった。視線を上げると、遠くに赤い塊が見える。



「レッドドラゴンだ! 撤退しろー!!」



 レッドドラゴンの言葉に、遠くに見える赤い塊がそうなのだと理解した。周りのハンターたちは、一瞬戸惑ったものの、すぐに山を降りはじめた。


 Aランクのハンターでは、そんな大物に敵わないからだ。

 でもミリオンはチャンスだと思ったのだ。


 これでレッドドラゴンの討伐に貢献できれば、国王に認められる! そうすればカイトなんて気にしないで、俺は前みたいに活躍できるんだ!!

 これは、チャンスだ!!


「おい! 俺たちは山を登るぞ!」


「チッ! 何言ってんだ!?」


「レッドドラゴンなのよ! 私たちじゃ、何もできないわよ!!」


「バカなこと言うなよ、ミリオン!」


 他の3人は一斉に反対した。それこそが正しい判断だが、ミリオンは一歩も引かない。



「いいか! ここでドラゴンの討伐に貢献できれば、国王から認められて一気に未来が開けるんだ! いまやるしかないんだ!!」


「でも……ドラゴン相手じゃ……」


「相手がドラゴンだから、認められるんだよ! またあのギルドに戻るのはごめんだ!!」


 その言葉に、3人は何も返せない。全員が同じ気持ちだったからだ。Sランクパーティーからあっという間に落ちていき、周りのハンターからは白い目で見られている。


 討伐もうまくいかなくて、報酬ももらえない毎日だ。現状打破したいと強く思うのは一緒だった。


「チッ! わかったよ、行けばいいんだろ」


「サウザン、行くのかよ? はぁ、それなら俺も行く」


「え、みんな行くなら、私も……行くわ」



「よし、それなら道から少し外れて登って行くぞ。奇襲攻撃をしかけるんだ」



 ミリオンたちはレッドドラゴンを目指して、山を登っていった。急なドラゴンの出没で混乱していて、そのことに気づくハンターは誰もいなかった。






「よし。この辺で様子を見よう」


 ミリオンたちはレッドドラゴンの右斜め前に移動していた。いまはSランクハンターたちが絶えず攻撃を仕掛けている。タイミングを見てミリオンたちも攻撃をするつもりだ。


 レッドドラゴンなんて初めて遭遇したし攻略情報も何もない。なのでいつもの連携ではなく4人同時に同じ場所に攻撃をすれば、ダメージが与えられると考えた。


「ここからだと、ドラゴンの足にしか攻撃できないな」


「チッ! 俺も同じだ」


 トレットとサウザンは武器に魔力を込めて攻撃するスタイルだ。遠距離の攻撃はできない。


「それなら足でいいだろう。ティーンも狙いを外すなよ」


「わかったわ、足ね。ちゃんと狙う————」


 

 突然、熱波が4人を襲った。目の前を炎が走り抜け木々を燃やし尽くしていく。叫び声すら上げられず、その場から動けない。


「……っ!! いま、のは」


 遮るものが何もなくなって、レッドドラゴンから丸見えになっていた。今度はミリオンたちにむけて、大きく口を開けているのが目に入った。



 ———— られる!!



 そこへあらわれたのは、黒い大きな狼だった。金色の瞳が優しく光っている。さらに魔獣があらわれて、ミリオンたちはどうしていいのかわからなかった。


「次のドラゴンブレスがくる。早くオレに乗れ」


 魔獣が人間の言葉を話している。しかも、どこかで聞いたことのある声だ。


「急げ!!」


 切羽詰まった言葉に、ティーンとトレットは慌てて黒狼の首に、サウザンは尻尾にしがみついた。それでも動けなかったミリオンを口にくわえて、黒狼は木々の間をすり抜けていった。




     ***




 山の麓近くまで、わずか数分で駆け降りてきた。

 ミリオンたちを降ろすと黒狼は優しい声で語りかけてくる。


「ここからなら他のハンターたちにすぐ合流できるだろう。すぐに行けよ」


 ミリオンたちはあまりにも現実離れした出来事に、うまく対処できないでいた。黒狼は最後に一言告げて去っていく。



「じゃぁな、ミリオン」



 その声は、聞き覚えがある。何度も何度も、聞いたことがある。ミリオンの頭の中で引っかかっていたものが何なのか、ようやくわかった。




 5年前、街の復興中にカイトが頭のおかしなことを言ってきた。


『伝説の魔獣王リュカオンって、知ってるよな?』


『実は……あのスタンピードの時に、そのリュカオンと魔法で融合して、オレものすごく強くなったんだ』


『冗談じゃない! 本当に融合したんだ。なんなら証拠だって——』




 あれは、事実だったのか? あの黒狼は間違いなくカイトの声で話して、俺の名を呼んでいた。

 そんな……それが本当なら、カイトは魔獣と融合したっていうのか? あの何の役にも立たない融合魔法で?


「今の声……しかもミリオンって言ってなかった?」


「たしかに、言ってた」


「チッ! まさか、今の黒狼は————」



「間違いない、カイトだ」



 魔獣と融合したハンターだって!? そんなの聞いたこともない! 倒すべき敵と融合なんて、あり得ない!!

 そんな奴がSSSランクハンターなんて……ふざけるな!!


「アイツ……この事を他のハンターにも、国王にも報告しなければ!」


「そ、そうよね!」


「それなら、早く他のハンターたちと合流しようぜ」


「チッ! 国王のところまで早く行かねぇと、転移魔法で移動しちまうぞ」

                    

 ミリオンたちは、他のハンターや国王が戻っているであろう、アルマクの街へと足早にむかった。



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