第21話 討伐対象は魔獣ではありませんでした

「リナ……生きてるか?」


「うん、なん……とか。カイトの作った回復薬のおかげ……」


「よし、じゃぁ……ギルドに行こう」



 とても国王からの指名を受けたハンターとは思えないほどゲッソリしたまま、集合場所のギルドへとむかう。

 今回のハンター派遣に参加するものは、ギルドから転移魔法で次の集合場所にむかうことになっていた。


 最終的には180名ほどのハンターと国王軍で討伐して帰ることになっている。






 ギルドに着くと、すでに何人か集まっていた。その中にエリアさんたちがいる。数名のお守り役のSランクハンターが一緒に参加することになっていて、今回はエリアさんたちが担当らしい。


「おはようございます。エリアさんたちも参加するんですか?」


「おはよう! そうなんだ、今回は僕とディーノ、セシルも参加なんだ」


「それは頼もしいです。よろしくお願いします」


 大体いつもは1匹か2匹のSランクの魔獣が対象なので、Sランクハンターがこれだけいれば、よっぽどの事でない限り問題はない。


 そこへミリオンたちが時間ギリギリでやってきた。


「っ! 何でカイトがいるんだよ!?」


 ミリオンは忌々しげに吐き捨てる。他の3人もカイトを睨みつけていた。


「国王に参加しろって言われたから、来ただけだ。ていうか、お前らには興味ないからオレに関わるな」


「はぁ!? 国王だって? 嘘つくんじゃねぇ! カイトのくせに生意気だ!!」


 ミリオンは顔を真っ赤にして、怒鳴り散らしてくる。

 なんだその言い草。どこのガキだよ。お前いくつだよ。


「嘘じゃないよ。僕が実際に手紙を届けたから」


 呆れて何も言えないでいると、エリアさんが助けに入ってくれた。プロキオンのギルドでナンバー2のハンターからいわれれば、ミリオンも反論できない。チッと舌打ちして、離れていった。


「すみません、エリアさん。ありがとうございます」


「ああ、僕は何もしてないよ。事実しか言ってないから」


 イケメンの爽やかな笑顔が目に染みる。何でこの人が、惚れた女に振られるのか本当にわからない。

 ミリオンたちに一ミリも興味のないカイトは、和気あいあいと次の合流地点へとむかったのだった。




     ***




 次の合流地点は王都やプロキオンから遠く離れた、アルマクという街だった。プロキオンよりは小さいがハンターたちがよく立ち寄るのか、オレたちの興味をそそる店がたくさん並んでいる。


 街の外にはテントがずらりと並んで貼ってあり、ハンター派遣で集められた者たちが自由に過ごしていた。




 オレとリナは寝てた。とにかく寝てた。

 本当にさ、あの人たち容赦ないんだよ。リナもセシルさんとリュカオンにしごかれて、フラフラだったんだ。

 どう考えても、Sランクの魔獣の方が簡単だったな。

 そこへディーノさんがテントに駆け込んできて、叩き起こされた。



「カイト!! 寝てる場合ですか!? 起きてください!!」


「う……ん、なんです……か?」


「これ! これです!! この回復薬をカイトが作ったって本当ですか!?」


 ディーノさんが手にしているのは特訓のお礼としてあげた、リジェネ効果のあるオレ特性の回復薬だ。


「そうですけど……それがどうかしたんですか?」


 こんなの誰でも作れるだろ? レシピなら教えてやるから寝かせてほしい。


「これ……これ、どうやって作ったんですか……?」


「えーと、材料はシグラシ草、マナ草、海珠の粉と水です」


「何だと……そんな調合でこの回復薬が……?」


「あ、最後に融合魔法です。それで作れます。じゃ、おやすみなさい」


 なんか騒いでたけど、もう知らん。あと30分でいいから、寝かせてください。




     ***




「ねぇ、ミリオン。あれってカイトがいつも用意してた回復薬じゃない?」


 テントの隙間からティーンが外を覗いている。外の様子に釘付けになっていた。


「あぁ? そんなのどうだっていいよ。道具屋でも買えるだろ」


「待ってよ、ディーノさんがすごい興奮して、カイトが何かしたとか言ってたのよ!」


 俺たちはカイトという名前に反応した。あいつ……回復薬に何かしてたのか? いや、俺たちに何かしてたのか?


「ディーノさんか……ちょっと見てくる」


「あ、私も行くわ!」


 トレットとサウザンは、そのままテントに残ると寝っ転がっていた。






「これはすごい回復薬です! 数時間も回復効果が持続するなんて、初めて見ました!」


「それを、カイトが作ってたのか? 本当にアイツは……早く教えてくれれば、もっと用意したのに」


「これを知らなかったことが、私たちの損失よね」


「レシピは聞いてきたので、できるだけ用意しましょう。あとは融合魔法が使える者を集めて————」



 あれは、Sランクハンターのディーノさんとエリアさん、セシルさんだ。いま、なんて話していたんだ?

 回復効果が数時間も続く? それをカイトが作った? しかも、あの使えない融合魔法でだって!? ディーノさんにレシピを教えたのか!? 媚びを売りやがって!!


 あいつは……カイトはパーティーから抜けても、まだ俺の神経を逆撫でするのか!? カイトがいなければ……カイトさえいなければ、俺たちはこんな事には、なっていなかったのに!!



 ディーノたちの周りにはハンターが集まっていて、ミリオンたちは後ろの方で、会話を聞いていた。

 自分たちがカイトの話をスルーしたことなど、すっかり忘れて見当違いな怒りに震えている。


 それが、余計にミリオンたちを追い詰めていった。




     ***




 そして翌日、いよいよ国王軍とハンターの討伐の出発時刻になった。主催者の国王から挨拶がある。

 いつものように討伐対象の説明と激励をもらい、出発となった。


 今回はサラマンダーの討伐だ。炎をまとったトカゲで魔力も高い。Sランクの魔獣だからランクやスキルによって、ハンターたちの編成がされてゆく。


 国王はもちろん最後尾で国王軍によって警護されていた。

 ハンターランクの高いものは前線へ、ランクの低いものは後方支援へと割り振られ、オレとリナは問答無用で最前線に送られる。


 お守り役のSランクハンターに囲まれながら、サラマンダーのいる山へ登っていった。

 行進は順調だったのだが————



  



「なっ……何だあれ?」

「今日の討伐はサラマンダー、だよな?」

「あんなデカいサラマンダー……なんて、いるのか?」

「うそ、うそ、あれって————」


「ドラゴン……レッドドラゴンだ!」



 そこにいたのは、サラマンダーではなくレッドドラゴンだった。

 魔獣とドラゴンはまったく別物だ。

 10メートルもの体高に、鋭い牙が並ぶ口からは炎が漏れでている。ズシーン、ズシーンと地面を揺らしながら山頂へとむかっていた。



「カイト……あれ、ドラゴンだよね? 初めて見た……」


「オレも……クソッ、ぜんぜん匂いが違うから、わからなかった」


 その時だ。レッドドラゴンがゆっくりと、こちらを振り返った。燃えるような赤い瞳が、オレたちハンターと国王軍をとらえる。

 レッドドラゴンは咆哮をあげ、オレたちにむかってきた。



「撤退!! 撤退しろ!!!!」


 誰かがそう叫ぶ。お守り役のSランクハンターたちは戦闘態勢を取り、ドラゴンを足止めするために山を登っていった。

 オレたちの後ろにいたハンターたちは、すでに山を下り始めている。国王軍にもドラゴンの情報が伝わったのか、撤退を開始したようだった。




「カイト! どうする?」


「オレたちも残ろう。少しでも足止めしないと、他のハンターたちが逃げきれない!」


「わかった! 全力でいく!」


「リュカオン、いざとなったらフォロー頼む」


『任せろ。こんなところで、お前に死なれては困る』


 正直、ドラゴンなんて初めてだ。でもこのハンター派遣で集まってる人たちや、国王を逃すんだ。絶対に止めてみせる!!



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