第8話 ミリオンパーティーの行く末は②
ミリオンたちはパラリシスベアーのいる、山の中腹まで来ていた。この魔獣はSランクに近いAランクだ。
いつもの調子なら、余裕で倒せるはずだった。
だが昨日からつづく魔獣との戦闘にくわえて、睡眠時間も短く万全の状態ではない。
ミリオンたちを支えていたのはSSSランクパーティーになるという野望と、それに付随する個々の欲望だった。
「よし、準備はいいか?」
(俺が! この俺がSSSランクパーティーのリーダーになるんだ!!)
「おう、バッチリだ」
(SSSランクになったら金も女もよりどりみどりだ!!)
「チッ、聞くまでもねぇよ」
(SSSランクになったら聖槍の使い手としてトップハンターに君臨するぞ!!)
「もちろん、任せて」
(うふふふ。SSSランクになればこんなウザい討伐なんてやめて、のんびり贅沢に暮らすのよ!!)
今回の魔獣はマヒ攻撃をしてくる厄介な相手だ。攻撃力や体力はそこまでないのだが、マヒ毒が仕込まれている爪でダメージをくらうと途端に動けなくなる。
マヒ爪の攻撃をくらわないこと、もしくらってもすぐに解毒薬を飲むのが討伐のポイントだった。
「行くぞ! ティーン、魔法攻撃だ!」
「ファイアアロー!!」
ミリオンの号令で、ティーンはパラリシスベアーの弱点である、炎魔法を放った。炎の矢が魔獣の背中につき刺さり、すぐにトレットが両手剣で特大ダメージを狙う。
「おりゃぁ!!」
トレットのダメージで動きが鈍ったところを、サウザンの槍でさらにヒットポイントを削っていく。
最後にミリオンの魔法剣でトドメを刺すのが、いつもの流れだった。今日もいつも通りに、できたはずだった。
「なっ……に? 倒れないぞ!?」
ミリオンは目の前の魔獣が、何もダメージを受けていないことに、気づいた。一気に顔が青ざめる。この至近距離で攻撃をくらったら、マヒしてしまう。
そんなバカな! あれだけ俺たちの連携プレーをまともにくらって、ダメージがないだって!?
パラリシスベアーは虫でも追い払うように腕を振り回している。そして呆然としているミリオンと目があった。
ミリオンがヤバいと思った時にはパラリシスベアーの太い腕にふり払われて、横に吹っ飛ばされていた。
思いきり木の幹に叩きつけられて、一瞬呼吸ができなくなる。
「ガハッッ!」
「「「ミリオン!!」」」
ここ何年もこんなまともに魔獣の攻撃をくらったことはなかった。
「…………な、なんで……?」
ヨロヨロと起きあがり、いま何が起こっているのか整理しようと頭をフル回転させる。
マヒ爪が当たり体がうまく動かせない。
でもいくらなんでもあの連携攻撃を受けて、ノーダメージはないだろう!? 俺たちは何も変わってない……いや、昨日からの魔獣の攻撃で万全の状態ではない。
しかしその分を差し引いても……本当にこのパラリシスベアーはAランクのモンスターなのか? 今の俺たちの実力なら余裕で倒せるはずなのに、ダメージすら与えられないなんて……もしかして、魔獣のランクが間違ってたんじゃないか!?
「ミリオン、大丈夫……?」
ティーンが駆け寄り、そっと解毒薬を飲ませてくれた。でもミリオンはそれどころではなかった。いま浮かんだ可能性に、嫌な汗が背中をつたう。
この魔獣の正しいランクは……? Sランクだとしたら、俺たちでもギリギリかもしれない。いやいや、攻撃が通じないところを見ると突然変異の強い個体で、ランクなんて当てにならないかもしれない。
解毒薬はすぐさま効果を発揮して、ミリオンの身体から毒を取り去っていく。
「ティーン、撤退だ」
「え? ミリオン、何を……?」
「サウザン! トレット! 撤退だ!」
「はあ? ここまで来て、何言ってんだ?」
「チッ、こんなとこでいう冗談じゃねえぞ!」
「あの魔獣、Aランクじゃないかもしれない! ギルドに戻って報告が必要だ!!」
このミリオンの一言で全員の顔が一気に青ざめる。
パーティーランクはSランクになったが個人の能力はそこまで高くないため、連携攻撃でダメージが与えられないとなるとこれ以上戦うのは難しかった。
「クソッ……撤退するぞ!!」
4人はついさっき登ってきた山道を駆け降りていく。後ろからパラリシスベアーの咆哮が聞こえてきて、ミリオンたちの恐怖を煽った。
それでも足を止めれば、興奮状態の魔獣に捕まるかもしれない。必死に走り抜けた。
***
ミリオンたちがギルドに着いたのは日付も変わろうとしている、深夜のことだ。
帰り道でも魔獣たちに襲われたが、逃げれるものは全て逃げてきた。戦う体力なんて残っていなかったのだ。
ギルドはハンターたちのために24時間受付している。この時間でも夜勤の担当者がいて対応してくれるようになっていた。
「おいっ!!」
ミリオンは受付のカウンターをバンッと強く叩いた。
日中と違うのは受付の担当者がかわいい女の子ではなくて、現役ハンターなどの屈強な男性であることだ。
今夜の担当者はSランクハンターのムルジムだった。見た目はヒョロっとしてるが、風魔法と短刀の使い手でトップクラスの実力者であり一流のハンターだ。
足を組んで頬杖をついているムルジムにミリオンは食ってかかった。
「ピーコック山脈のパラリシスベアー! あれはAランクじゃないだろう! レア個体のSランクの魔獣じゃないか!?」
ムルジムの頭の中は、
(何言ってんだ? コイツ)
だった。
(どこの街にパラリシスベアーが、Sランクだなんて言うハンターがいるのか見てみたい。あ、ここにいたな。んー、コイツはたしかミリオンパーティーか? あー、なんかこの前騒ぎ起こしてたなぁ。面倒くさい奴だ)
「……逆に聞くけど、パラリシスベアーがSランクだったという根拠は?」
「それは、Sランクパーティーの、俺たちの攻撃が効かなかったんだ! あんなの絶対Aランクじゃない!!」
(あー、うるせぇな。そんなデカいこえださなくても、他に誰もいないんだから、聞こえてるよ)
やれやれ、とムルジムは対応を考える。
パーティーランクと個人のランクは、決して同じではない。
(Sランクハンターの話なら、もうちょっと真面目に聞くんだけどなぁ……。コイツ、シルバーカードだからAランクか)
チラリと盗み見るハンターカードはところどころ汚れてはいたが、銀色の輝きを放っていた。
命からがら逃げてきたのが伺えて頭を悩ませる。
(んー、どうすっかな。めちゃくちゃビミョーだ。ごく稀に突然変異で、すっごい強い個体が出ることもあるんだよなぁ)
「あー、わかった。じゃぁ、パラリシスベアーのランク修正しておくわ」
「本当に頼むぞ! こっちの命にも関わるんだからな!!」
そう言って、ミリオンは受付に背を向けて出て行く。その動きの一部始終を、ムルジムは観察していた。
(コイツは……本当にAランクなのか? 動作が隙だらけだ……後で別のヤツに調査頼もう)
ミリオンたちのパラリシスベアーの討伐は、こうして失敗に終わった。
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