第9話 ギルド長の依頼はキメラの討伐でした

 ギルド長の依頼はキメラの討伐依頼だった。

 ピーコック山脈での目撃情報があるものの、常に移動しているようでどこで出くわすかわからない。

 そのためSランクのパーティーかソロハンターしか入山できないと、受付のマリーさんから聞いた。


 移動は黒狼の姿になれば早いので、他の人に見つからないように裏道を走り抜ける。ほんの2時間ほどで山の麓までやってこれた。


「匂いで追えば、すぐ終わりそうだな」


 人間の姿に戻って山の中を歩き回った。

 途中で出会った魔獣は片っ端から倒していく。討伐証明の部位といい素材があれば回収していった。



「グアオオォォォ!!」


 咆哮を上げてむかってきたのは、パラリシスベアーだ。マヒ爪さえ気をつければそんなに危険な相手ではない。

 振り上げられたマヒ爪をヒラリとかわして、青い稲妻を一撃くらわせる。


青の破雷ブレイク・ショット


「ギャアアオオォォォ!!」


 断末魔の叫びを上げながらパラリシスベアーは倒れていく。ミリオンたちが歯が立たなかった魔獣をあっさり倒し、討伐証明のマヒ爪を回収してキメラ探しを再開した。




「ん? この匂い……コイツがキメラだな」


 食べ物が腐ったような匂いを感じとる。強い魔獣は大体こんなイヤな匂いだ。獲物を多く捕食してるから、こんな風になるんだと思う。


 ライオンのような体、背中に山羊の頭、そして尻尾は蛇になった魔獣を見つけた。翼がついていないということは、メスだ。オスだと、コウモリのような翼がついている。


『ふん、すばしっこいだけの毒と魔法しか使えないヤツだ。我なら余裕だ』


「そうだな。まぁ、サクッと片付けてギルド長に報告しよう」



 カイトはキメラにむけて右手をかざして、青い稲妻を放つ。


青い一撃ブルー・インパクト


 青い稲妻がキメラにむかって一直線に走った。突然の攻撃にキメラは動けなくなる。リュカオンの雷魔法は一定の確率でマヒの効果を付与できる。

 今回は上手くいったようだ。すぐにトドメを刺そうと右手をかざしたら、頭上から火の玉が降ってきた。



『カイト!』


「うわっ! 危なっ!」



 バックステップで避けて見上げると、翼のついたキメラが咆哮を上げながら続けて火の玉を放ってきた。木の間をすり抜けながら避けていく。

 最初に攻撃したメスのキメラも復活して、2匹で火の玉をオレにむけて放ってきた。


「オスもいたのか! キメラって群れを作るのか!?」


『もしかすると繁殖期かも知れんな。だとしたら奴らは相当イラついてるぞ』


 何……だと!? オレなんて万年独り身なのに、アイツら繁殖期だって!? ふざけんな! イラつくのはこっちだっつーの!!


「よし、全力で一瞬でケリつけよう」


『……いつになくヤル気だな』


 最後のリュカオンの一言はスルーして、魔力を解放する。



青い衝撃ライトニング・ショック



 オレの両手から出た青い稲妻は、キメラに直撃して焼き焦がしていく。オーバーキルな一撃で、無事に討伐をおえた。


「さ、帰ろうか。リュカオン」


『我には物足りない相手であった』


 討伐証明のコウモリのような翼と、蛇の尻尾を回収してギルドへと戻った。




     ***




「え? キメラを討伐してきた? いやいや、ピーコック山脈ですよ? どんなに早くても往復で2日はかかりますよね?」


 ギルドの受付嬢、マリーさんは信じてくれない。まぁ、裏技使ったからそれは仕方ない。


「じゃぁ、討伐証明出すから鑑定してもらえる? それで問題なかったら、ギルド長に取り次いで欲しいんだけど」


 報酬がもらえたらこんな街すぐにでも出て行ってやる。母さんの墓参りで月に一度戻るだけにしよう。


 ハンター愛用の空間魔法のかかった巾着袋から、回収した討伐証明を出していく。


 ヒヒグマの右手×3

 ジャイアントラビットの耳×5

 パラリシスベアーのマヒ爪×1

 角猪の角×2

 キメラの翼×1

 キメラの尻尾×1


「えっ……! 本当にキメラの翼と尻尾!? 2匹も!?」


「うん、鑑定頼むね。オレ食堂で飯食ってくるから」


「は、はい…………」






 呆気に取られているマリーさんにお願いをして、ギルドの中で運営されている食堂にむかった。安い美味い腹いっぱいをモットーに提供される料理は、ハンターたちに人気だ。



 B定食を頼んだオレはいつものように端の方に座って、ひっそり食事を堪能していた。


「お、カイトじゃん。こんな時間に珍しいな」

 

「ムルジムさん! いま討伐から戻ってきたとこなんです。これから夜勤の受付ですか?」


「そうなんだよ。面倒くせぇことに今週は俺が担当なんだよなぁ」


 ムルジムさんはオレの父さんに恩があるといって、ハンターになった頃からよく面倒を見てくれている。オレにこんな風に話しかけてくれるはこの人だけだ。


「そうだ、カイトに頼みがあるんだよ。調査やってくんない?」


「え、いいですけど……今度はなんの調査ですか?」


 ムルジムさんからは、魔獣ランクの見直しや生息数などの調査を何度か依頼されていた。きっとオレの境遇を心配して、仕事を回してくれてたんだと思う。


「ピーコック山脈のパラリシスベアーなんだけど……」


「あぁ、それならさっき討伐してきました。マヒ爪も提出しましたよ」


「は!? マジか!!」


「はい、倒した感じでは、Aランクど真ん中でした」


「ハハッ! そうか、いや、それならいいんだ。カイトがそういうなら、間違いないだろう。今までも頼んだ仕事は完璧だったしな。ていうか、なんでカイトがFランクなのかむしろ謎だ」


 ムルジムさんは度々そう言って、僕を励ましてくれていた。その言葉に何度となく救われてきたんだ。

 一流のハンターならランクだけじゃなく他の情報も全てを使って判断するんだと、熱く語ってくれたこともあった。


「お前さ、再チェック受けないの?」


 そうだ、何年も前からムルジムさんから言われてたんだよなぁ。リュカオンのことがバレたらマズいと思ってたからな。……案の定、速攻でバレたけど。


「受けました。そうしたらギルド長から討伐行ってこいって言われて、戻ってきたところです」


「おお! ついに受けたか! で、ランクは?」


「うーん、まだ正式には決まってないんですけど、魔力的にはSSSでした」


「あー、やっぱりな! 適正は?」


「完全融合魔法と雷魔法、あとは強化系が一通りです」


「だからあの身のこなしかぁ、いやぁ、納得したわ!」


 なんだかよくわからないけど、ムルジムさんは「うんうん」言っている。

 完食して腹もふくれた頃に、検査の担当者だったハンナさんがオレを呼びにきてくれた。




「カイトさん! すみません、お待たせしました!」


「いえ、ちょうど食べ終わったとこです」


「あ、ムルジムさんもここだったんですね。ちょうど良かった、一緒に来てもらえますか?」


「は? なんで俺も?」


「ギルド長がお呼びなんです。お願いします」


「ふーん、そうか。じゃぁ、カイト、行くか」


「あ、はい。お願いします」


 そしてオレとムルジムさんは、なぜか練習場に連れて行かれた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る