第39話 国王に呼び出しをくらいました

 ウラノスを連れてアトリアへと戻ってきたオレは、すぐに隊長に報告をした。ウラノスは特務隊の隊員ではないが、オレのパーティーメンバーということで入寮を許された。

 まぁ、ダメだったら特務隊を辞めてプロキオンに帰ろうと思ってたけど。


 他の隊員とも打ち解けて、ウラノスは毎日楽しそうにリナと魔力操作の訓練をしていた。

 そして1ヵ月がたつ頃、オレは隊長に呼び出された。



「え? 国王に謁見ですか? 隊長も付き添いで来るんですか?」


「ああ、このあと13時からの予定だ。謁見室の前で集合にするから、遅れるなよ」


「わかりました」


 何だろう? 練習場に戻る時間はないから、このまま謁見室に行くか。

 オレは国王との謁見に使われる部屋へとむかった。




     ***




 時間まで待ったあとに名前を呼ばれて、両開きの重厚感のある白亜の扉が開かれる。その先には正面まで深紅のカーペットが敷かれていて、国王の座る玉座へと続いていた。

 隊長に続いて国王の前まで進んで、膝をついて最大の敬意をしめす。



「リンゼイ・マクズウェルとカイト・シーモア、参上いたしました」


「ああ、待っていたよ。さて、これからは私と君たちの3人で話がしたい。構わないかな?」


「はい、構いません」


 国王が片手をあげると、左右に並んでいた近衛騎士たちがいっせいに下がっていった。ファルコ団長だけは国王のそばから離れない。


「ファルコだけ残ると言って聞かなくてね。すまないが彼だけは許してくれ」


 そりゃ、国王陛下だもんな。当然だと思うよ。逆にフランクすぎるんじゃないかな。



「先日リンゼイから聖獣不死鳥の報告を受けたな。そこでカイト、聖獣は隣国で神とも崇められている神聖なる生物だ。至急元に戻したい。よってパーティーから外して隣国へ帰してくれ」



 何だって……? ウラノスを隣国に帰す?

 何度も聞いたけど「ここがいい」って笑ってたんだぞ。「もうあんなひどい国には帰りたくない」って。



「カイト? 聞いているか?」


 隊長が返事をしないオレに声をかける。


「国王陛下、僭越ながら確認したいのですが……その聖獣が隣国でどのような状況だったのかもご存じですか?」


「もちろん、すべて聞いている。だが、これは国際問題だ。そう簡単ではないよ」



 そうか……アレを聞いてもそんな判断をするのか。それなら、オレの取るべき行動はひとつだ。オレの大切なパーティーメンバーを、国王だろうと奪わせない!!




「それなら、特務隊を辞めます。ウラノスを帰すつもりはありません」




 オレは王者の覇気を使って、決して引かないことを伝える。国王は目元をピクリと動かしただけで、何でもないようだ。隣のファルコ団長が剣に手をかけているが、その距離でオレに傷を負わせるのはムリだ。



「それは戦争を意味する。カイトは私に戦争を起こせと言っているのか?」



「そんなことは言ってません。ただ、本人が帰りたくないのに、無理矢理帰すのはできません。オレの大切なパーティーメンバーです。手を出すなら誰が相手だろうと容赦しない。そいつごと葬ってやります」



 隊長は鋭い視線をオレにむけて、すぐに戦闘態勢を取った。そうだ、相手が国王だろうと葬ると宣言したんだ。誰が相手でも負けないけどな。



「なるほど、では私に協力してもらおうか。ウラノスに対する脅威を葬ってもらおう」



 ニヤリと笑う国王にまさかと思う。そうだ、ハメられた。何をするつもりかわからないけど、国王の作戦に自ら志願してしまったんだ。

 クソッ! ヤラれた!! 最終的にウラノスのためになるならいいけど、なんか悔しい!!


 隊長もため息をついている。このやり取りを見せるために同席させたんだ。国王ってさすが……腹黒いな。



「仕方ない、しばらくカイトは国王陛下に貸します。ちゃんと返してくださいね」


「……返さないとダメか?」


「ダメです。うちもまだ長期出張のものが戻ってないので、人手不足です」


「むぅ、ダメか……では、カイト、追って指示を出す。下がってよいぞ」


「……失礼します」


 もしかして、国王は隊長には弱いのか……? はぁ、どんな指示かちょっと恐ろしいけど、やるしかない。




     ***




 国王から指示が出たのは、それから1週間後のことだった。国王との連絡役のリュージンさんが伝えてくれる。闇魔法の使い手で、影移動であちこち空間移動できるらしい。便利な魔法だ。




「え……? 隣国から使者が来てるから、そいつと一緒に行けって?」


「はい、国王陛下からはそのように伺っております」


「イヤです! カイトさん、私あの国には帰りたくありません!!」


「ねえ、カイト、国王陛下は何か考えがあるのかな?」


「うん、どうも何か考えてるらしいんだけど、教えてくれなかったんだよな。ウラノス、何があってもオレが守ると約束するから、一緒に行ってくれないか?」


 ウラノスはうつむいて黙り込んでしまった。いつもはこんな我儘なんて言わないんだ、それだけ嫌なんだよな……。


「リュージンさん、返事は明日でもいいですか? 無理強いしたくないんです。あと、使者はなんて言ってきてるんですか?」


「承知しました。使者は炎極の谷から不死鳥の長フェニンの使いが来て、ウラノスを谷に戻せと言って来たそうです。もし戻さなければ、国を焼き払うと……必死に探して、ようやく居場所を突き止めたと泣いてましたよ」


 おぅ……それは見つけたら泣いちゃうかもな。でも国を焼き尽くすって、そもそも置き去りにしたのは別の不死鳥じゃないか。ここにも何か食い違いがあるのか?


「じゃぁ、申し訳ないんですけど、また明日お願いします」


 リュージンさんは「大丈夫ですよ」と言って、影の中に消えていった。



「ウラノス、ちょっと話をしようか」


「……はい」




     ***




 オレはウラノスを連れて練習場の屋根の上にのぼった。ここは穴場で、アトリアの街を一望できるんだ。他の人に、特にリナに聞かれたら恥ずかしいから、こんなところを選んだ。




「オレさ、最初はFランクのハンターで融合魔法しか使えなかったんだ。でも諦めずに練習したおかげでリュカオンと融合してこんなに強くなれた。そしてリナと出会って、ウラノスも仲間にできたんだ」


「Fランクのハンター? そうなんですか?」


「そうだよ、元のパーティーメンバーからも追放されたし」


「……追放されたんですか? カイトさんが?」


「うん、でもそこで決心したんだ。もう何も奪われないように強くなるって」


「……私には、そんなの……できません」


 ウラノスは膝に乗せた手をかたく握っている。



 そうだな。いままで、たくさん傷ついてきたんだよな。わかるよ。オレも本当に強くなれたのは、きっとリナがオレの仲間になってくれたからだ。だから、ウラノス、お前がひとりじゃないって気付いてほしい。



「ウラノスはひとりじゃないだろ? オレもリナもリュカオンもいるだろう? みんなで戦おう。ウラノスの居場所を奪われないように」



「……私を、役立たずの私でも仲間だと認めてくれるのですか……? ずっとここに居てもいいのですか?」


「ウラノスはウラノスだろ。役立たずとか関係ないよ。もうオレのパーティーメンバーなんだから、ずっとここに居ればいいだろ」


 ウラノスの紅い瞳から涙がひとすじ流れる。そのまま目一杯溜まった涙は流れつづけた。


「私っ……いつか出て行かなければと、思っていたので……居ていいんだ……」


「うん、そのために、一度決着つけてこよう」


「決着……もし、どうしてもの時は手伝ってもらえますか……?」


「任せとけ!」


「はい! よろしくお願いします!!」


 涙を流しながら笑うウラノスの笑顔は、輝いていた。

 そして、翌日にリュージンさんに同行すると返事をして、オレたちは炎極の谷にむかった。



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