第38話 飛べない不死鳥が仲間になりました

「オレのところに来たいのか?」


「はい、カイトさんのところがいいんです。お願いできませんか?」


 まさか、そんなこと言われるとは思わなかった。聖獣ってどういう扱いになるんだろう? 寮につれて行けるのか?


「戻りたいとか、ないのか?」


「さっきお話しした状況なので、特に戻りたいとも思いません」


「そうか……」


 たしかに、さっき聞いた話は本当ならウラノスはどれほど辛い思いをしてきたんだろう。そんなヤツをオレは放っておけない。……痛いほど気持ちがわかるから。

 リナにも視線をむけると、問題ないとうなずいてくれた。



「わかった。ウラノス、お前の都合のいい間だけオレのパーティーに入れよ。そうしたら少なくとも衣食住は心配しなくていいから」


「本当ですか!? ありがとうございます!! ありがとうございます!! 役立たずですが、精一杯がんばります!!」


「…………聖獣も仲間にするなんて、さすがカイトだよ」


 あれ、なんかレモニーさんの顔が引きつってる。いや、でもこんな不憫な不死鳥おいて行けないだろ? というか、不死鳥の姿だと目立つな……。


「あのさ、ウラノスは人の姿になれないのか?」


「ごめんなさい、私は魔力の扱いが下手くそで空も飛べないんです。得意のはずの聖魔法と炎魔法も使えなくて……」


『カイト、こいつはまだ未成熟なのに魔力が多すぎて、上手く操れんのだ。そうだな、リナが魔力を吸ったらちょうどよいのではないか?』


「そうなのか? リナ頼める?」


 リュカオンの声はレモニーさんには届いていないので、不思議そうな顔をしている。ウラノスには声が聞こえているのか、キョロキョロ辺りを見まわしていた。


『リナの訓練にもなって、一石二鳥だな。ククク……』


「リュカオンが鬼すぎる……」


 リナはゲンナリしながらも、マジックイーターの魔力吸引量を調整し始めた。ウラノスはリナが手をかざすと、どんどんスッキリした顔になっていく。


「え? え? 何をしたんですか?? なんだか今までにないくらい、調子がいいんですけど!」


「こんなもんかな? ウラノス、いま私が魔力を吸ったから、ちょっと魔法使ってみて」


「えええ!? 本当ですか!? そんなことできるなんて……じゃぁ、試してみます」


 ウラノスはリナの膝から降りて、何もない空中にむけて魔法を放った。



聖なる雨ホーリー・レイン



 その下には観葉植物があって、淡い金色の光が降り注いでいる。光を浴びた枯れかの葉は緑色に復活して、垂れ下がりそうだった枝はシャッキリと上をむいていく。


 正しく回復魔法がかけられていた。しかも、聖魔法が得意な不死鳥だけに効果は抜群だ。


「ウソ!? ちゃんとできた!?」


『そうだ、お前はまだ年若い聖獣であろう。未熟ゆえ魔力が扱いきれておらんのだ』


「そうだったんだ……というか、この声の主はどなたですか?」


『リュカオンだ。千年前は魔獣王と呼ばれていた』


「リュカオン!? 聞いたことあります!! 近寄ってはいけないと……あ、もう遅いですね」


 たまりかねたレモニーさんが、訳がわからないと声をかけて来た。


「ねえ、さっきから話が飛び飛びでよくわからないんだけど……」


「リュカオン、あとでレモニーさんと一戦交えるから頼む」


 そうだよな、申し訳ないことをした。こう言えばリュカオンが喜ぶから、声が聞こえるようになるはずだ。実際に特務隊のメンバーもあの洗礼のおかげで話せるようになったからな。まぁ、みんなそこそこ驚いてたけど。


『そうか! そういうことなら早く言うのだ!』


「うわ! なんだ!? 誰だ!?」


『レモニーといったか、我はリュカオンだ。あとでカイトと戦うと聞いておる。よろしく頼むぞ』


「あー、そうか! そういうことだったんだ! わかった、いいよ。カイトと手合わせもしよう」


 パーティーメンバーの他は、戦ったヤツとしか話さないとか……ズルいぞ、リュカオン。


「じゃぁ、ウラノスは人の姿になれるか試してみてよ。念のため聞くけど、女の子でいいんだよな?」


「はい! 間違いありません!」


「それなら、私が準備を整えてあげる。一旦宿屋に戻るね。ウラノス、おいで」


 そういってリナとウラノスは医務室を後にした。




     ***




 オレとレモニーさんはギルド長の執務室にきて、ウラノスに関する報告をしていた。隣国の聖獣ともなると扱いが難しい。下手をすると戦争の火種になってしまう。


「なんだと! 聖獣なのに魔獣を呼び寄せる餌にしていたのか!? そんな奴らはハンターではない!!」


 ああ、ルクシーンさんもエルナトさんと同じ熱いタイプの人だ。ギルド長になる条件なんだろうか。何にしても人選に間違いがなくて助かる。


「それでそのハンターたちが、蛇のマークが付いたバンダナを身に着けていたと、ウラノスが話していたんですが、何か知ってますか?」


「それは隣国のハンター組織スネークシャドーの奴らだな」


「カイトは知らないかな。隣国のカーネルハーンはギルドではなく、ハンターは個々で組織を組んでいるんだ。その中でも悪名高いのがそこさ。他の組織には入れないような犯罪者が集まってて、金を払えばなんでもやるって聞いたよ」



 レモニーさんが丁寧に教えてくれた。

 へぇ、国が変わればハンターの所属も変わるんだな。でも犯罪者が集まるって……それは危険な組織なんじゃないか? 少なくともウラノスにしたことを、オレは許せないけどな。……潰すか、そんな組織。

 オレが不穏なことを考えていると、ルクシーンさんが口を開いた。



「何にしても、隣国も絡んでくるならギルド本部と国王陛下にも報告しないといかんなぁ。カイトも特務隊の方に報告するよな?」


「はい。まずはウラノスのこともありますし、今回の経緯を隊長に報告します。なのでルクシーンさんは、隣国の情報をメインに報告してもらえると助かります」


「そうだな、それでいこうか。レモニー、他のSランクの奴らも集めてくれ。最新の情報を精査したい」


「了解しました! カイト、またあとでな!」


 レモニーさんはさっそうと執務室から出て行った。オレも続こうとしてルクシーンさんに呼び止められる。


「カイト、よかったら聖獣の適性チェックしていかないか? そして、その情報を俺にも見せてほしい」


「はい、いいですけど……ふたりが戻ってきたらギルドの受付に声かけます」


 むしろルクシーンさんが見てみたいんだろうな。聖獣の適性チェックなんてする機会ないもんな。ここではよくしてもらったし、恩返しの意味もこめてやっていこうか。




     ***




「リナ! ……と、ウラノスだよな?」


 リナと一緒にギルドにやってきたのは、燃えるような紅い瞳に、黄色から赤へグラデーションがかかった髪をなびかせる美女だった。リナの服を着せてもらったのか、ふわりと舞う白いワンピースがよく似合っている。見た目の年齢はリナより少し下くらいだ。


「カイトさん、これならお邪魔にはなりませんか? 私がついて行っても大丈夫でしょうか……?」


「うん、問題ないよ。もしダメって言われても、オレが何とかする」


「はぁぁ! よかった! リナさん、ありがとうございます! ちゃんと人間に見えるように、着飾ってくださったおかげです!」


「ふふふ、ウラノスの洋服を選ぶの楽しかったよ!」


「よし、じゃぁ、ウラノスはこのまま適性チェック受けよう」


「適性チェック……? 何ですかそれ?」


「魔力量とか使える魔法とか調べるんだよ。ついでにハンター登録とパーティー申請もしていこう」


「はい! よろしくお願いします!!」




     ***




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 ウラノス・ニックス female 18


 魔力量 測定不能(SSS)



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 うん、聖獣だもんな。そうだよな。オレの補正も入って倍になってるしな、納得の結果だ。ちなみに姓はなかったので、適当に登録しておいた。




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 ウラノス・ニックス female 18


 適性検査結果 

 聖魔法 炎魔法

 聖属性超強化 炎属性超強化


 特殊:聖獣不死鳥 聖獣の加護 

    幸運の女神



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 聖獣って意外とスキルは多くないけど、強化がハンパない。超強化って初めてみたな。種類は多くないけどひとつひとつが強力ってことか。

 幸運の女神って……ああ、だから毎回魔獣から逃げ切れたのか。



「これは……お役に立てますか?」


「えー! 全然大丈夫だよ! 聖属性の回復魔法って強力なんだよ。ウラノスはすごいね!」


「うん、充分だよ。ほらギルド長の面談にいこう」


「はい!」



 こうしてルクシーンさんの面談を受けて、ウラノスは無事オレのパーティーメンバーになった。そしてアトリアへと戻り報告をしたのだが、そのあと国王に呼び出されることになる。



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