第40話 炎極の谷にやってきました
隣国カーネルハーンとの国境沿いにある不死鳥の住む炎極の谷は、岩山ばかりの荒れ果てた地面をさらしていた。
黒狼になったカイトはリナとウラノスを乗せて、その谷へ降り立つ。
途中までは使者と一緒にむかっていたけど、どんどん顔色が悪くなっていった。責任持って連れていくからと、何とか納得してもらってカーネルハーンの国王に報告に行ってもらった。どうかそのままゆっくり休んでて欲しい。
「ここでいいか?」
「はい、多分……あ、ツワイス……」
「え……まさか、ウラノス……なのか?」
ウラノスの視線の先には、1匹の不死鳥がいた。お互いに驚いているようだ。
「お前……人型になれたのか……?」
「うん、いまは空も飛べるよ」
「っ!! そんな……」
不死鳥の顔色なんてよくわからないけど、どうもショックを受けているようだ。そうだよ、リナの助けがあるとはいえ、ウラノスだって頑張ったんだよ。
「再会したところ悪いけど、この後どうすればいいんだ?」
「あ……こっちだ、ついて来て」
オレたちは不死鳥の長、フェニンの元へ案内された。
ウラノスはひとことも話さない。多分思うところがあるんだろう。オレもリナも、そっと見守ることにした。
「よく戻って来てくれましたね、ウラノス」
不死鳥の長はひときわ大きく、翼からは常に炎がゆらゆらと燃え上がっている。熱い……とにかく熱い。こっそりアイスシールド張ってもらったらダメだろうか?
「戻って来たのではありません。ケジメをつけに来ました」
「ケジメ?」
「はい! 私はカイトさんのパーティーメンバーです。私の居場所はそこなんです! もうここには戻りません!!」
ウラノスの強い意思表示に、フェニンはしばらく無言で考え込んでいる。フェニンから放たれる熱波で、ウラノスのワンピースはパタパタとはためいていた。
「わかりました。それでは、その者たちがウラノスを預けるのにふさわしいか、試させてもらいます」
……何で突然こっちに話が飛んで来るんだ? 解せん。
「カイト……ですね? 貴方にはウラノスを守る力があると示すために、ある組織を潰して来てほしいのです」
「ある組織ってどこだ?」
「シャドースネークです。私の可愛い不死鳥をよりによって魔獣の餌にしたなんて……許せません」
おぉ、これは、かなりお怒りのご様子だ。一気に炎が噴き出て、熱波がすごい。
「それなら、問題ない。オレも潰す気でいたからな。いい口実ができた」
「では、よろしく頼みます。私には、この国の民を傷つけてはならない制約があるのです」
「え、でもこの国を焼き尽くすって……」
「民さえ傷つけなければ問題ありません」
「お、おう、任せておけ」
そう言って、黒狼の姿になってリナと一緒に谷を駆け上がっていった。
***
「カイト様、国王陛下から伝言です」
突然、オレの影から連絡役のリュージンさんから声をかけられた。わかるけど毎度毎度、心臓に悪い。
「シャドースネークの拠点はこちらです。そして、思いっきりヤレとの事です。では」
それだけ言って、また影の中に消えていく。
谷から出たところで、依頼していたシャドースネークの拠点の情報を持って来てくれた。仕事が速い。だけど、ここまでの流れがスムーズすぎる。いつからオレを使うつもりだったんだ、
「それじゃぁ、リナ。思いっきりぶっ放していこうか」
「やったー! いつもいつも抑えてたから、だいぶストレス溜まってたんだよね!」
『……リナ、暴発だけはさせるな』
「了解です!」
目の前にあるのは、炎極の谷のある山裾に広がる森だ。この森の中に、ポツンと古城が立っている。そこがシャドースネークの拠点になっていた。オレたちは木の上から古城の様子を伺っていた。
ガラの悪そうなハンターたちが出入りしている。みんな一様に蛇のマークのついたバンダナを付けていた。
「よし、一発目はリナがやっていいよ」
「え! いいの!? わかった、じゃぁ、最大火力でやっちゃうね!」
『ふん、雑魚相手ではつまらんな。我は寝ておる。起こすなよ』
最新は訓練ばかりで、あんまり一緒に戦ってなかったからオレはちょっとワクワクしている。いつも頑張っていたリナが、どれくらいできるようになったのか、楽しみだった。
「
氷魔法をまとった矢が放たれて、古城の壁に当たった。そこから無数の氷でてきたイバラが壁を突き破って、次々と触れたものを凍らせていく。
クレイグが改造してくれた弓は、リナの得意な氷魔法の威力を1.5倍に高めてくれるものだ。魔法効果が半端ない。なかなかエゲツない攻撃だな、うん。もう半分は城の中も凍ってるんじゃないか?
「はー、スッキリ!」
まぁ、その笑顔が見れたならいいかなと思ってしまう。
「じゃぁ、オレもいくぞ。
青い稲妻が躍りでる雷神を握りしめて、拠点に切り込んでいった。ウラノスの首輪に残っていた、ハンターの匂いは覚えてる。5人とも必ず見つけ出してやる。
むかってくる敵匂いをかぎわけながら、打倒していく。
違う……違う……違う! どこにいる? ウラノスにあんなことをしたヤツらは!
その時だ。ふわりと探していた匂いが鼻をかすめた。
「見つけた……」
そのハンターを追いかけて、城の地下までやってきた。ここは……牢屋か? 話し声が聞こえる。
「おい、早く逃げようぜ!」
「何言ってんだよ! こいつらどうするんだよ!?」
「そんなのどうだっていいだろ! ボスに言われてやってただけなんだからよ!」
「早くしねえと、ここも見つかっちまう!」
「ひぃぃっ!!!!」
「どうした? 逃げないのか?」
逃げようと振り返ったハンターは、オレを見て腰を抜かしていた。
そのハンターたちの後ろにいたのは、ウラノスと同じように首輪のつけられた数人の少年ハンターがいた。こんなことは誇り高いハンターとして、それ以前に人としてすることではない。
「お前ら……ハンターじゃないな」
「おい! 全員でいっせいに攻撃するぞ!」
「わかった!」
「よし、いまだ!!」
オレの内側から湧き上がる怒りを、そのまま王者の覇気として解き放つ。ハンターたちは一歩もその場から動けなくなった。ブルブルを震え始めるものもいる。だけど、コイツらもボスに言われたと話していたな。元凶はそっちか。
【ボスはどこだ? 言え】
「ボ、ボスは……王座の間に……います」
(何だ……逆らえない!?)
オレは王者の資質で居場所を聞き出した。王座の間か……途中で会うやつに聞き出せばいいか。
「
一撃の雷魔法で5人をまとめて沈めた。
牢屋の奥で震えている少年ハンターたちに声をかける。
「怖かったな。すぐに解放してやりたいけど、まだ残党がたくさんいるんだ。あとで助けに来るから、ここで待っててくれないか?」
「……わ、わかりました」
さっきの5人が牢屋の鍵を持っていたので、開けておいていつでも逃げられるように準備しておく。
「ボスって、たしか資料では頬に3本の傷があるって書いてあったな」
王座の間にむかおうと地下から上がると、リナが1階のハンターを全て倒したところだった。
「カイト! 1階のハンターは倒したよ。次はどうする?」
「オレはここのボスを倒しにいきたい」
「じゃぁ、私は出口を塞いで他のハンターを倒しまくるよ。後でまた合流しよう」
「うん、頼む。何かあったら大声で呼んで。駆けつけるから」
リナはかすり傷ひとつ負っていない。武器の補正も入って、氷魔法ならSSSランクのハンターと変わらない強さだから、問題ないだろう。
オレは王座の間へとむかった。
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