第41話 シャドースネークのボスはSSSランクでした

「ここか……」


 目の前には、金色の絢爛豪華な両開きの扉がある。雷神をしっかりと握りしめて、ゆっくりと扉をあけた。すぐそばから染み付いた血の匂いが漂ってくる。


 扉が10センチメートルほど開いたところで、湾曲した刃物がカイトに襲いかかってきた。すかさず雷神で受け止める。



「……せっかちだな」


「クヒヒッ! お前強いなぁ! りがいがあるよ!」


「お前がここのボスだな?」


「だったら何だ?」


 蛇のマークののついたバンダナを頭に巻いて、大きな鎌をオレに振り下ろしている。

 カイトは雷神に魔力を込めて、青い稲妻を放った。たしかに放ったのだが————



「マジックドレイン」



 ニヤリと笑ったボスは青い稲妻の魔力を吸収して、それを自分の魔力に変換した。


「ドレイン……闇魔法使いか」


 クレイグさんも武器にドレインの効果つけてたよな。コイツは自分で吸い取るのか。うーん、人間は武器みたいに破裂……しないよな?

 闇魔法が使えるハンターってほとんどいないから、イマイチどんな魔法が使えるのかわからない。


「ふーん、お前変わった魔力だな。こんなの初めてだ。ま、何にしても俺には効かねぇけどな」


「…………」


「それよりも、せっかくここまで組織大きくしたのによぉ。またやり直しだぜ。餌集めからだもんな、やれやれ」


「指示を出していたのは、お前で間違いないんだな」


「そりゃそうだろ! 俺はここのボスだしな。あいつらの頭じゃこんないいアイデア思いつかねえよ。国王だって効率がいいって喜んでたぜ?」



 いいアイデア……? 少年ハンターや聖獣を餌にするのが、いいアイデアだと? コイツはここで倒してもまったく問題なさそうだな。遠慮なくやらせてもらおう。……国王も喜んでいたか……そっちも潰してよさそうだ。



 次々と攻撃を繰り出していくが、その度に魔力を吸い込んでシャドースネークのボスはニヤニヤと笑っている。


「どうした、どうした? もっと打ち込んでこいよ! ま、俺はSSSランクだから効かねえけどなぁ! クヘヘヘ!」


『カイト、コイツは相当な魔力量だ。おそらくドレインで吸収できる量も、多いのだろう。だが、それだけだ。魔力量が多いだけなら、我の敵ではない』


「そうか……吸収する器もデカイのか。うん、それなら一撃で沈める」


 魔力量なら負けない自信がある。SSSランクなら、あのレベルの魔法でも問題ないだろ。城が崩壊しないように出力先を調整すればいいかな。

 魔力放出の照準を目の前の敵に合わせて、威力も少し抑え目にする。そして、魔力を放った。



青雷の鉄鎚オーバー・キル



 王座の間の天井を突き破って、青い光がシャドースネークのボスにまっすぐに降りた。


「マジックドレイン!!!!」


 たしかにマジックドレインは魔力を吸いとった。だが一度に吸いきれない魔力は、当然ダメージを与える。いままでドレインだけで敵を倒してきたシャドースネークのボスは、雷魔法の攻撃になす術なく倒れていった。


「ガッ! ウソ……だろ……こ、んな……」


「……言ってなかったけど、オレもSSSランクだ。残念だったな」


 最後に悔しそうな表情を浮かべて、そのまま意識を失って床に転がった。何事も経験って大事だな。みんなに感謝だ。




「カイト様、お疲れ様です。国王陛下から伝言です」


 相変わらず心臓に悪い登場の仕方で、リュージンさんが声をかけてきた。いつもタイミングがバッチリなんだよな。……狙ってるな、これは。


「はい、何ですか?」


「不死鳥の長、フェニン様に取り次ぎを頼みたいとの事です。また、シャドースネークの件は、このあとリンゼイ隊長が処理を引き継ぎます。隊長が到着するまでは、私が監視します」


「わかりました。あ、地下牢にいる少年ハンターたちは解放してもいいですか?」


「ふむ、少年ハンターは証人ですから、こちらで保護しましょう」


「怖がってるので、早く解放してやりたいんです。いま連れてきます」




     ***




「クソッ! 何だよ、コイツ女のくせにしぶといな!」


「男も女も関係ないと思うけど……とにかく、絶対に逃がさないから!」


 いまリナが追いつめているのは、バトルアックスを武器に炎魔法を使うSランクハンターだった。実力が近いため、戦闘が長引いている。距離を保ちながら攻撃しているが、強力な炎魔法で応戦してくるのだ。


(うーん、いまいち決め手に欠けるんだよなぁ……)


 そこでリナはあることを思いつく。試したことはないが、特務隊のラルフの魔法を見て、真似できないかと思ったのだ。


(あの強い炎魔法さえ何とかなれば、最大威力の氷魔法で倒せると思うんだよね。これでダメだったらカイトを呼ぼう)


 最終目標はウラノスを連れて帰ることだ。自分の意地よりも、確実な方法を選択しないといけない。

 リナは弓を構える。1本は弦にハメ込んで敵にむけ、もう1本はすぐに連射できるように右手の小指と薬指で持っている。

 それぞれの矢に魔法を付与していった。



水氷の矢ダブルアロー!」



 バトルアックスから吹き出した炎は、1本目の水魔法の矢を飲み込んで急激に勢いをなくしていた。間髪いれずに2本目の矢がシャドースネークのハンターに襲いかかる。予想外の攻撃に、一瞬反応が遅れた。それが命取りだった。

 氷魔法が付与された矢はハンターの右肩に突き刺さり、あっという間にその手足を氷漬けにしていく。


「よかった! 成功した! リュカオンにしごかれた甲斐があった!!」


 あの鬼のような師匠の訓練に耐えているのだ。ふたつの違う魔法を操れるくらいには、魔力のコントロールが上達していた。

 だがリナは、それがすでに普通の魔力コントロールの域から、逸脱していることに気づいていなかった。




     ***




 オレは地下牢にむかって急いだ。途中、残りのハンターを全部片付けたリナと合流する。


「ええ! 少年ハンターもウラノスみたいに捕まってたの……? そんな……酷すぎるよ」


「これからはこっちで保護するって言ってたから、大丈夫だと思う。早く解放してあげよう」


「うん! カイト、早く行こう!!」


「うん、急ごう!」



 地下牢の扉を開けると、一番奥の牢屋で固まっている少年ハンターたちはビクリと肩を震わせた。きっと、これまでたくさん怖い思いをしてきたんだろうな。

 ハンターなんて辞めてもいいから、伸び伸びと笑顔で過ごしてほしい。


「待たせたな。全部片付いたから、もう出てきて大丈夫だ。このあと守ってくれる人が上にいるから、一緒に行こう」


「本当に……?」

「僕たち自由になれるの?」

「でも、首輪はついたままだし……逃げられない」


「ああ、ボスを倒したからもう大丈夫だよ。首輪も外してやるから」


 そう言って、一番前にいる少年の首輪を外してやった。すると、他のふたりもオレのそばに寄ってきたので、すぐに首輪を外してやる。


 初心者の少年ハンターばかりなのは、きっと体力が多くて逃げるためのスキルがあったからだろう。ウラノスの幸運の女神みたいなスキルか、素早さが高くないと魔獣からは逃げきれない。

 ハンターになったばかりの初心者が、高ランクハンターから声をかけられて舞い上がってしまうのも、よくわかる。

 あっさり信用してついてきたら、こんな目に遭わされたんだろう。


「あんまり得意じゃないけど、いま回復するね。ヒール!」


 リナの回復魔法で、少年たちは少しだけ元気を取り戻した。このまま笑顔を取り戻してくれることを祈るばかりだ。

 リュージンさんへ少年たちを引き渡して、オレたちは炎極の谷へと戻っていった。



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