第42話 ウラノスのケジメがついたようです

 カイトたちが炎極の谷に戻ると、すごい熱波が襲ってきた。


「えっ! 熱っ! アイスシールド!」


 リナがオレの分もアイスシールドを張ってくれる。おお、涼しいな、これは。オレが使えるのは雷魔法と融合魔法だけだからとても助かる。


「リナ、ありがとう。……この熱気は何が起きてるんだ?」


「何だろうね、フェニン様が怒ってるのかな?」


「うーん、とりあえず報告と伝言を伝えに行こう」




 結果、怒っていたのはフェニンではなく、ウラノスだった。しかも、なぜかツワイスとかいう不死鳥と空を飛びまわり戦って……いや、灼熱の炎を吐きながら追いかけている。あんなに怒ってるウラノスは初めて見たな。

 隣のフェニン様はただ静観しているだけだ。さっぱり状況がわからない。


「あの、シャドースネークの壊滅は終わりました。あとウチの国王陛下から伝言があります」


「カイト、リナ……ありがとうございます。アルファルド国王から伝言ですか?」


「詳細はわかりませんが、話がしたいそうです」


「そうですか……わかりました。貴方がそう仰るのなら、アルファルド国王と話してみましょう。そうお返事ください」


「ありがとうございます。……ところで、何がどうしてこうなっているんですか?」


 国王の話なんかより、こっちの方が気になるんだけど。ウラノスは何であんなに怒ってるんだ?


「実は……」


 フェニンはオレとリナが出発した後のことを話し出した。




     ***




 リナとカイトが私の依頼によって炎極の谷を出発したあと、それでもウラノスがどうにか戻って来れないかと考えを巡らせた。

 不死鳥の長と呼ばれて長いことやってきたが、今回のような事は初めてだった。


 たまに脱走したりする不死鳥はいたけれど、みな自力で帰って来れたし、人間が私たちに危害を加えることなんてまずなかった。

 このようなことが起き始めたのは、現国王が即位してからだ。現国王はハンター上がりで、実力は確かなものだが、強ければ正義と考えている節がある。


 最近のカーネルハーンの様子を見ても、シャドースネークのようなハンターたちが英雄として魔獣を討伐しているのだ。いまのところ結果は出ているが、この先はこの国自体が荒れていくのは確かなことだ。


 自分の寿命が来て後継者に任せるときに、そんな国を託したくはない。

 どれくらい先になるかわからないけれど、おそらく後継者はウラノスだろう。それならば制約に引っかからないようにして、管理者を変える必要がある。


 いまの管理者たちには、どんな不死鳥でも私の可愛い子供達だと知らしめたから、とりあえずこれ以上は悪くならないだろう。


 ウラノスの憂いを払い、ここを故郷だと思ってもらわなければ……。


「ウラノス、今回のことは私の管理不足です。辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい」


「フェニン様! なんで謝ったりなんか……」


 ツワイスがフェニンの謝罪に驚いている。この子ももちろん私の大切な不死鳥だ。でも悪いことをしたなら謝罪をするという事を、正しく教えられていないらしい。あとで教育担当者に確認しなければ。


「ツワイス、悪いことをしたら謝罪すると教えられていませんか?」


「それはもちろん、知ってます!」


「ならば、貴方はなぜ謝罪しないのです?」


 バツが悪そうにツワイスはうつむいた。それでも謝りたくないらしい。


「ツワイス、外の森に飛べないウラノスを置き去りにしてくることは、正しいことですか?」


「正しく……ありません」


「何故そのようなことをしたのですか?」


「……飛ばなきゃいけない環境になれば、飛べるかもしれないと思って……だって、こいつだけ飛べないのおかしいし、どんだけバカにしても泣くだけで努力しないし! 頑張りが足りないから飛べなかったんだろ!?」


「違う! 私は頑張ってた! 何度も何度も飛んで……でも、どんなに頑張っても……少ししか飛べなかった」


 ウラノスは涙目になりながら訴える。

 ええ、そうね、私は知っている。何度も何度も挑んでいたのを知っているわ。それだって成長すれば自然と魔力のコントロールを覚えて、いつかは飛べるようになっていたのよ。


 大人の不死鳥は理解してそっと見守っていたけど……ツワイスたちは幼くて理解できなかったのね。でも、だからと言って何をしてもいい訳ではないけれど。


「じゃぁ、何で飛べるようになったんだよ! あの人間たちがお前に何かしたのかよ!?」


「そうだよ! カイトさんもリナさんもリュカオンさんも、みんな助けてくれた!」


「人間ごときが不死鳥を助けられるわけないだろ!! あいつらどうせお前を都合よく使いたいだけだ!!」


 ツワイスは自分ができなかったことを人間があっさり成し遂げて、ひどくプライドが傷ついたようね。気持ちはわかるけれど……そんな言い方をしてはウラノスが————


 この言葉にウラノスは不死鳥の姿に戻った。以前は体も小さくて、頼りなかったのに魔力のコントロールが上手くなったのか今ではツワイスの2倍程の大きさだ。翼を広げれば8メートルにもなる。これにはフェニンも驚いた。



「ツワイス……カイトさんたちを悪く言うのは許さない!!」



 ……ツワイスはウラノスの逆鱗に触れてしまったようね。ちょうどいいわ、このままぶつかり合ってもらいましょう。その方がお互いの為になりそうだわ。




     ***




 オレたちが話を聞いてる間に、ウラノスはツワイスをひと際大きな岩の上に、不死鳥の頑強な足で押さえつけていた。

 ギリギリとその細首を締めあげている。


「まっ……ウラノスッ……」


「謝れ……カイトさんたちを侮辱したことを謝れ!!!!」


「ご、ごめんな……さい!」


「声が小さいわ!」


「ごめんなさいぃぃ!!」


 ツワイスは大粒の涙をこぼして絶叫に近い謝罪をしていた。ウラノスはようやく落ち着いたようで、人型に戻っていく。


「今度同じことしたら、絶対に許さないから!」


「ウラノス、少しだけいいかしら? ツワイスはあの後すぐに貴方を迎えに行ったそうよ」


「えっ……そうなの?」


 ウラノスは大岩の上で姿勢を立て直したツワイスに問いかけた。


「……だって、人間に見つかったら大変だと思って……でも、もう元の場所にはいなくて……ど、どうしたらいいのかわかんなくて……ごめん」


 最後の「ごめん」は本当に小さい声だったけれど、気持ちがこもっているのは伝わってきた。ウラノスは短くため息をつく。



「それでも、私は置き去りにされてとても怖かったし、悲しかった。いまさら謝られても、ここに戻りたいとは思わない。でも、あの時外に連れ出してくれたおかげで、カイトさんたちに会えたから、それだけは良かったと思ってる」



 フェニンはウラノスの言葉を聞いて、いまは炎極の谷に戻すのを諦めるしないと理解した。大切な不死鳥を外の世界に出すのは不安だけれど、ここまでウラノスが信頼しているカイトなら任せてもいいかもしれない。


 何かあれば、今度こそ私が全力で守るまでだ。それならアルファルドの国王にも動いてもらおう。幸いあちらから打診が来ているのだ。使わない手はない。


「ウラノス、貴方の想いはわかりました。カイトなら任せてもいいでしょう。私の大切な不死鳥をよろしくお願いします」


「任せてくれ、ウラノスはオレが守るから」


 こうしてカイトたちは不死鳥の長の許可をとり、無事アトリアへと帰還した。



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