第44話 戦闘中の不死鳥の背中はスリリングでした

「ギャァァォォォ!!」

「グギャアアア!」

「ギャギャギャッッ!!」


 ブラックワイバーンの咆哮がオレたちにむけられる。3匹で連携をとりながら、次々とウラノスに襲いかかってくる。ポイズンブレスを吐きながら攻撃してくるので、周りに緑の霧のようなものが霧散していった。


不死鳥の盾フェニックス・ガード!!」


 淡い金色の光がオレたちを包み込む。


「これですべての状態異常は防げるはずです! 遠慮なくやってください!!」


 ウラノスの聖魔法でみんなポイズンブレスのダメージは受けなくなった。それならとカイトは考える。


「リナとニックさんで、ワイバーンのポイズンブレスが風下に流れていかないようにできますか!?」


「っ! 降りればできる!」


「俺も……ゔ、降りれば!!」


 ああ、わかるよ、胃がな……キューンってなるよな。


 3匹のワイバーンの攻撃を避けながらの飛行は、急上昇と急降下にくわえて旋回もするので腹の中で胃がひっくり返っている気がする。

 みんな落ちないようにしがみついているが、ひとつ気づいたことがある。


 何気にフワフワなんだな、不死鳥って。黒狼になったときの周りの気持ちがわかった。だからといって誰にでも触らせるわけではないけど、最近ラルフからむけられる視線が熱いと感じていた。もしかして、アイツもモフモフ好きなんだろうか?

 ……しまった、思考がそれた。


「な、ぁ!! ウラノ……スゥゥゥゥ!! 」


 また急降下だ。3匹のワイバーンの攻撃を避けているから、動きが激しい。


「カイトさん! 何ですか!?」


「リナと! ニックさんを! 降ろしてくれ!!」


 今度は急旋回で遠心力がかかる。何の訓練だ、これは。


「わかりました!! いまは止まれないので、斜面に近づいたら飛び降りてください!!」


 ウラノスが叫ぶ。ふたりともSランクハンターだから心配ないだろ。数メートル下へ飛び降りるくらい余裕だ。あれ? 余裕だよな?


「「わかった!!」」


 うん、大丈夫みたいだな。

 その返事を聞いたウラノスが、ワイバーンのポイズンブレスを避けながらギリギリまで山の斜面に近づいた。


「いまです!!」


「えいっ!!」

「おりゃぁ!!」


 ものすごいスピードで飛びながら、飛び降りやすいように背中を山側にむける。リナとニックさんは雪の中へと飛び込んでいった。チラリと振り返ったが、雪に埋もれて姿が見えない。


 だけど次の瞬間には、ワイバーンとウラノスの周囲を大きく囲むように風魔法の暴風壁が作られた。さすがだ、この規模の暴風壁を瞬時に作るんだもんな。これで、思い切り戦える。


「ウラノス! 炎魔法で、アイツらを1ヶ所にまとめてくれ!!」


「わかりました!!」


 暴風壁に阻まれながらも、ウラノスを執拗に追いかけるワイバーンたちがポイズンブレスを撒き散らしていた。ウラノスは急上昇して、そのまま空中で宙返りをしてワイバーンたちの後ろにつく。

 そこで一気に魔力を放出した。


「炎極の業火!!」


 ウラノスの口から吐かれた灼熱の炎は、ワイバーンたちの進路を邪魔していて左右に広がれず集まっていた。


「ウラノス! あのど真ん中にオレを落としてすぐ逃げてくれ!」


「はいっ!」


 ウラノスは炎を吐きながら、ワイバーンの上まで飛び上がり背中を下にして滑空する。


「いいぞ! すぐ逃げろよ!!」


 オレはウラノスから手を離し、そのままワイバーンの間に落ちいく。ワイバーンたちはポイズンブレスを吐きながら、オレを喰い殺そうと口を開けていた。だが、ウラノスの聖魔法がポイズンブレスを弾いていく。



青い衝撃ライトニング・ショック!!」



 青い稲妻が空中を走り抜ける。ワイバーンたちは防御する術もなく、雷魔法をモロに受けてそのまま地上へと落ちていった。

 そこへウラノスが飛んできてオレを受け止める。ウラノスのフカフカした羽毛が、優しく包みこんでくれた。


「ウラノス! ありがとう! 上手くいったよ!!」


「やりましたね! カイトさん!」




     ***




 リナとニックは山の斜面から、カイトの攻撃の一部始終を見ていた。カイトの雷魔法によって風魔法で作った暴風壁も相殺されてしまった。

 Sランクハンターがふたりで全力の魔力を込めた障壁を、一発の雷魔法で蹴散らしてしまったカイトの魔力に、ニックは苦笑いするしかなかった。


「ほんと、相変わらず半端ないな……ていうか、よりパワーアップしてないか?」


「ああ……特務隊って討伐に行ってるか、メンバーで毎日訓練してますからね。あの人たち容赦なくて……」


 リナだって、前にレッドドラゴンと戦った時とは比べものにならないくらい、魔力のコントロールも上手くなっていた。込める魔力はよく練り上げられていて、濃度が高い。つまり、レベルの低い魔法でも威力が格段に上がっているのだ。


 ……そんな遠い目をするくらいにはキツいんだな。まぁ、頑張れ。

 ニックは心の中でそっと声援を送る。そしてため息混じりに呟いた。


「そりゃ、さらに強くなるよなぁ……追いつくどころか、差が開くばっかりだな」


 カイトたちはブラックワイバーンをそのままヘラクリスへと運び、ニックに後処理を頼んでアトリアへと戻っていった。



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