第4話 そろそろ本気出そうと思います

 魔物の大暴走スタンピードが去った後の街は復興作業に追われていた。たくさんの人たちが亡くなったけど、悲しむばかりでもいられない。

 残された人たちも生きていかなければならないのだ。


 オレは幼なじみでパーティーリーダーのミリオンに会いたかった。連絡を取ることもままならない状況だったから、復興作業を手伝いながら地道に探していたんだ。




「あっ! ミ、ミリオン!! ようやく見つけた!!」


「えっ……! カイト? お前、生きてたのか!?」


 あの規模の魔物の大群スタンピードに巻き込まれたのだ。Fランクのオレが生き残るわけないと思ったミリオンの気持ちはわかる。実際、死にかけてたし。


「うん、奇跡的になんとか……ミリオンも無事でよかった!」

      

「あ、あぁ……まあ、俺は当然だけどな」


 あんまり嬉しそうじゃないのは、気のせいだろうか? もしかしてミリオンも大切な人を亡くしたのか? それとも復興作業が大変で疲れているのだろうか?


 そうだ、リジェネ効果のある回復薬がまだ残ってたはずだ。あとで渡そう。せめて体力だけでも回復すれば違うだろう。


「それよりミリオンに話したいことがあるんだ。少し時間もらえないか?」


「あー、そうだな。少しなら大丈夫だ」


 ミリオンはチラリと自分の持ち場に視線をむけて確認していた。他の作業員たちも時おり休憩をとっていたので、問題なさそうだ。

                 




            

「おい、どこまで行くんだよ? もうこの辺でいいだろ?」


「あ、うん、ここならいいかな……」


 話の内容がわからないミリオンは、面倒くさそうに近くの木に寄りかかる。念のため教会の裏まで足を運んだのだ。

 オレは、ミリオンの役に立てる喜びを抑えて、慎重に口をひらいた。


「伝説の魔獣王リュカオンって、知ってるよな?」


「ああ、おとぎ話みたいなもんだろ。それが何だよ?」


「実は……あの魔物の大暴走スタンピードの時に、そのリュカオンと魔法で融合して、オレものすごく強くなったんだ」


 意を決して伝えた言葉に、ミリオンは大きなため息でかえす。


「…………はぁ、カイトさぁ、勘弁しろよ。こんな状況で言う冗談じゃねぇだろ!」


「冗談じゃない! 本当に融合したんだ。なんなら証拠だって——」


「あのなぁ! お前の魔力で魔獣と融合なんて、できるわけがないだろ! できたとしても魔獣と融合なんて気持ち悪いんだよ! 俺はこんな話に付き合ってるヒマはねぇ!!」


 ミリオンはオレにそのまま背中を向けて、持ち場に戻っていった。


 全然、信じてもらえなかった……いや、いきなり信じろって言うのも無理があるか。何せ魔獣王と融合したって話だしなぁ……それに、気持ち悪い……か。


 そう思われるなら誰にもいわない方がいいんだろうな。あれ、いま気づいたけど、魔獣王がオレの中にいるってだけで、討伐対象になってしまうんじゃないか?


 サーッと顔が青くなる。ミリオンが信じなくて良かったかもしれない。


 仕方ない、最終目標は魔獣の駆逐だから裏方として頑張ろう。今まで通りにするのはもちろん、みんなが魔獣を倒しやすいようにサポートしよう!


「リュカオン、ごめん。上手く伝えられなかった。でも魔獣たちを駆逐できるように、オレにできることは何でもやるから」


『ふん、それはそれでよい。だが彼奴あやつ……いや、カイトがそれでよいなら、好きにしろ』


 その時はこう思ってたんだ。結局パーティーがランクアップして、魔獣を駆逐できたら一緒だと。




 街の復興が終わったあとは、魔獣の討伐にみんな躍起になっていた。大切な人を殺されて、その恨みもあったんだと思う。


 そんな中ミリオンのパーティーは魔獣を討伐しまくって、どんどんパーティーランクを上げていった。

 今まではDランクで活動していたけど、オレがサポートを始めてからは討伐に失敗しなくなった。すると一つ上の依頼もこなせるので、そうやってランクを上げていったのだ。



「ねぇ、そういえば最近弱い魔獣に会わないわね」

「それは、あれだ! 俺たちが強くなったからだ」

「この俺、ミリオンがいれば弱い奴は逃げ出すんだよ」

「ガハハ! 間違いねぇな!」


 それに討伐の最中もリュカオンのおかげなのか弱い魔獣は寄ってこなくなり、無駄な体力も使わなくなった。



「じゃぁ、カイト、火の番は任せたぞ」

「ちゃんと消さないように見てなさいよ」

「あー、疲れた。朝まで起こすなよぉ」

「グカー……グカー……」


 野営のときはみんなが寝た隙に、黒狼の姿で遠吠えをしておけば魔獣は襲ってこなかった。野営のときの火の番はオレの役目だったから簡単だった。



「ガハハ! 今日も大量だな!」

「これは結構いい値段つくんじゃないか?」

「ねぇ、ミリオン、今日の報酬で欲しいものがあるの」

「おお! 何でも好きなものを買えよ! 俺が許す!」


 持ち帰った素材や収穫した薬草の仕分けも鼻がくから、今までよりも短時間で効率よくできた。リュカオンは物知りで、わからないことは色々教えてくれたのも大きかったと思う。



「やったぞ! ついにSランクだ!!」

「俺たちが最強だ! ガハハ!」

「ミリオンが私の恋人で鼻が高いわ!」

「お前たち、これからも俺についてこいよ!」


 そうやってみんなで頑張っていたら、やっと先月パーティーランクがSランクになった。最高ランクに上がった時のみんなの喜んだ顔を見て、サポートしてきて本当に良かったとオレも嬉しくて仕方なかった。


 つい数時間前までは————




     ***




 でも、もういい。魔獣もアイツらもオレから奪うだけだった。


 ————それならひとりの方がマシだ。魔獣を1匹残らず駆逐して、そして最強のハンターになって、もう誰にもオレから奪わせないようにする!!



「リュカオン、オレそろそろ本気出そうと思う」


『ふむ、ようやく覚悟を決めたか。クククッ、面白くなりそうだな』


 もうこの街も出ていこう。でもそのためには先立つものが必要だ。まずは魔獣討伐の依頼をこなして報酬を受けるために、ギルドに行かなければならない。


 そして効率よく稼ぐためには、上位ランクの依頼をこなさないと稼げない。受ける依頼の難易度を上げるためにはランクアップが必要だ。

 リュカオンのことは言わなければバレないだろう。多分。



「魔力量と適性検査の再チェックを受けるか」



 最後に母さんの墓石にそっと触れて、いつもの誓いをする。



 ————必ず、オレが魔獣たちを一匹残らず駆逐するから。どうか見守っていて、母さん。


             

 そしてオレはギルドへと足をむけた。


              

      

                          

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