第3話 魔獣王リュカオンと融合しました
これで魔獣王リュカオンがオレの代わりに、魔獣たちを殺してくれる。19年の短い人生だったけど、最後に望みを託せるだけよかった————
『おい』
ん? 魔獣王リュカオンか? なんだよ、オレはもうすぐ死ぬってのに、そっとしておいてくれないのか……?
『おい! 聞こえてないのか!?』
「なんだよ! ほら、もうオレの身体は好きにしていいから、あとは頼むよ!」
『好きにできないから、話しかけているのだ! よく見てみろ!』
……は? 何で? 何で好きにできないんだよ!? 確かに融合はしてる……よな? 見た目も、多分変わってない。
……え? 変わってない。え? オレのまんま?
「どういう……こと?」
『それは我が聞きたい。お前、何をした?』
「何って、融合魔法を使って……オレの中に、魔獣王リュカオンを持ってくるイメージで……」
『それだっ!!』
「えっ!?」
いつもの訓練通りに融合魔法を使ったんだけど、何がダメだったんだ!? 成功した感覚はあったのに。
『お前の中に、我を取り込むイメージをしたのだろう?』
「う、うん」
『それでは融合した際の主導権が、お前になるではないか!!』
「ええ!? そうなの!?!?」
『そんなことも分からずに、融合魔法を使ったのか! バカモノがっ!!』
うっ、魔獣王から本気で怒られた。けど姿がないから、ぶっちゃけあんまり怖くない。
そもそも誰も魔法の使い方教えてくれなかったから、独学なんです。本当にスミマセン。しかも融合魔法でひとつになったのって、複雑に絡み合って元に戻せないんだよな。
「え……どうしよう」
『はぁぁぁ、人間の話に乗った我が愚かであった……』
「ごめん、これじゃぁ、魔獣王リュカオンも一緒に死んじゃうよな……」
あの怪我だと、あと何分持つのかな……。
『何を言っている。あの程度の怪我など、我の回復力によって一瞬で治っておる。もう痛みなどないであろう?』
そういえば母さんを抱きしめている腕もしっかりと力が入ってるし、背中も痛くない。視界もハッキリしてる。
「本当だ……回復してる。じゃぁ……オレ、死なないのか?」
『お前に死なれたら、今度こそ我も消滅してしまうではないか。意地でも生き残ってもらうぞ』
いや、なんていうか……すっかり色々な覚悟を決めてたから、ちょっと心情的に追いつかない。えーと、確認だけど。オレは生きてる。これからも生き続ける。ハンターも続けられる。
つまり、自分で魔獣たちを一匹残らず駆逐できる……!!
それなら、まずは————
「わかった。魔獣王リュカオン、魔獣たちを駆逐しよう」
『……リュカオンでいい。今は魔獣王ではないしな。それで、お前の名は?』
「……カイト」
『では、行くぞ。カイト』
「おう!」
母さん、少しだけ待ってて。魔獣たちを駆逐したらちゃんと埋葬するから。母さんの好きなユリの花を、たくさんあげるから。
***
街中のいたる所から悲鳴が聞こえてくる。
この街にいるハンターたちも随分やられてしまったようだ。住民を守るための人手が足りない。
「リュカオン、魔獣たちの動きを止めることはできる?」
『ふむ、そうだな。それなら黒狼の姿に変身すればよい』
「そんな事できるのか!」
『難しいことではない。カイトは我であり、我はカイトなのだ。そう願うだけで我の力が使えるはずだ』
願うだけで……黒狼の姿に変われ!
願った途端に、視線の高さが変わっていく。腕や足の配置と感覚も、いつもと違うものになる。
だけど使い方は理解できていた。どうすれば、興奮状態の魔獣たちを止められるのかも。
黒狼になったオレは街で一番高い、時計塔を駆けあがった。その屋根に飛び乗って威嚇の声をあげる。
「アオ————————ン!」
その声は街中にひびきわたる。千年振りの魔獣王の声に、暴れていた格下の魔獣たちはピタリと動きを止めた。
カイトはもう一度、威嚇の声をあげる。
「アオ————————ン!」
リュカオンもその声に、想いを乗せる。
『誰の声だかわかるか? お前らの王の声を忘れたのか? 魔獣たちよ、我の声に従え!! 我と決着をつけるのだ!!』
その声が届いたのか、魔獣たちは一斉にカイトたちに向かってきた。
まずは、街の被害がこれ以上ひどくならないように、離れた場所まで魔獣たちを誘導する。
街から充分距離をとって、5キロメートル先の平原でカイトは魔獣たちを待ち構えていた。今は人間の姿に戻っている。
『カイト、我の青い稲妻を使え。やり方はわかるな?』
「もちろん。それに、鼻も
『融合して我の能力も受け継がれているからな』
オレは融合したことによって、リュカオンの魔力や能力も使えるようになっていた。
とても不思議な感覚だ。ちょっと前まで魔力はほとんどなく融合魔法しか使えなかったのに、今では体の中に魔力が巡っている。
さすが魔獣王だけあって、魔力量が半端ない。これなら、今後もハンターとして活躍できそうだ。ミリオンの役にも立てる! この時はそう思っていた。
ものの10分ほどで魔獣たちがオレのもとへ集結した。360度、魔獣に囲まれている。普通なら絶体絶命のピンチだ。
でも、今のオレには余裕さえあった。
「
オレを中心に、青い稲妻が走る。前方にいる魔獣から次々と倒れていった。
最初の一撃で半分近くの魔獣たちが姿を消した。その威力に驚いて我にかえった魔獣たちもいて、元々生息していた森へと逃げていった。
リュカオンの力……半端ない!! これは使い方を間違えたら大惨事だ!
多分、オレが一番ビビってたのは間違いない。使い方は分かっても、どれほど効果があるのかまでは考えていなかった。
『なんだ、驚いたのか?』
「いや、だってオレついさっきまでほぼ魔力なしのFランクだったし。正直、この力を怖いとすら思うよ」
わずかに手が震えている。こんな大きな力を手にして、オレは正気でいられるのか? この力に狂ったりしないだろうか?
『そうか……だが、後悔しても遅いぞ。もう元には戻れないのだ』
「うん、わかってる。魔獣を倒すことに集中するよ」
もしオレが狂ってしまったら、どうか誰かが殺してくれますように。そして、そうなる前に魔獣を一匹残らず駆逐できますように。
手の震えは残っているけど、ムリヤリ意識を魔獣たちへ持っていく。まだ
『さぁ、カイト、一匹残らず魔獣どもを狩り尽くすぞ』
リュカオンの力強い言葉にオレはうなずいた。
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