第17話 ミリオンパーティーの行く末は⑤

「カイトのヤツもバカよね、あんな使えない子と組んじゃって!」


「ああ、暴発のリナだっけ?」


 トレットが相槌を打つ。この街に来て3ヶ月、リナはマジックイーターの特異体質のせいもあり、『暴発のリナ』と呼ばれていた。いつものことではあった。


「ガハハ! どうせ、暴発に巻き込まれて戦闘不能になるだけだ!」


「アハハ! いえてる!」


「ぶはっ! 間違いないな!」



 ミリオンはカイトを馬鹿にしてる3人をただ眺めていた。この前気づいてしまった事実に気持ちは沈み話す気分ではなかったのだ。


 その時だ、違うパーティーのハンターたちが話しているのが聞こえてきた。


「なぁなぁ、聞いたか!? キメラもベヒーモスもカイトが倒したって!!」


「ええ!? 何かの間違いだろ? だってアイツはFランクじゃねぇか」


「それが再チェックで、SSSになったんだってさ。しかも突然変異のパラリシスベアーも、ついでに倒したらしいぜ」


「はー、マジかよ! どうやったらそんなにランクが上がるのかねぇ」




 もちろん、ミリオンだけでなく他の3人にも会話は聞こえていた。


「いまの……嘘でしょ?」


「そんな事できるはずないだろ! だってアイツは……」


「チッ、Fランクだったろ!?」


「倒したのは、リナって子……よね?」



 ギルドではSランクパーティーが倒せなかった魔獣を、カイトたちがと倒したと話が広まっていて、話題になっていた。

 よく見れば、他のハンターたちもその話で持ちきりだ。



「チッ、なにか卑怯な手でも使ったのか?」


「そうよね……カイトがそんなに強いわけないわ!」


「ズルはダメだよな。ズルは」


「ねぇ、ミリオン。どうしたの、黙り込んじゃって」



 ティーンが何も話さないミリオンを不思議に思い声をかける。だがミリオンはそれでも話す気にはなれなかった。



 俺が後処理ができないのも、カイトのせいだ! アイツがいつもやってたから、俺が覚えるチャンスがなかったんだ!

 そうだよ、俺だってやればできるんだし、あんなのすぐに覚えられるんだ!!


 自分が押し付けていた事実はキレイさっぱり忘れて、ミリオンは全てをカイトのせいにする。自分のプライドを保つことができたミリオンは、いつもの調子を取り戻した。



「ああ、ごめんな。多分、カイトはなにか卑怯な手を使って魔獣を倒したんだろう。だってアイツがやってきたのは、荷物持ちと野営の準備と後片付けだろ?」


 いつもの調子に戻ったミリオンに、他の3人も追従する。


「そうだよな、あれでどうやって倒すんだよな!」


「本当よねぇ。特別な魔道具でも使ったのかしか?」


「ガハハ! 道具に頼らないと倒せないんじゃ、たいしたことないぜ!」


「他のハンターたちは、カイトの本当の実力を知らないから、噂に惑わされてるんだよ」


 ミリオンの言葉に、3人はうんうんと頷いている。

 だって、俺たちが倒せなかったパラリシスベアーも、倒したってなんなんだよ!? 融合魔法しか使えないカイトがどうやって、突然変異の個体を倒すんだ!

 こんなくだらない噂を広めたのは、誰だよ!?


 正解はディーノだが、ミリオンがその事実を知ることはない。しかも全て事実だということも、いまのミリオンには受け止められなかった。



「もういいから討伐に行こう。次は成功しないとSランクから落ちるぞ」


 パーティーランクはポイント制となっていて、討伐に成功するとプラスに、失敗するとマイナスするようになっている。ポイントがつくのは、パーティーランクの一つ下のランクの依頼までだ。


 ハンターたちが無謀な挑戦をしないために、パーティーランクによって、受けられる依頼は決まっていた。そして、本当に実力がないと、ランクを維持できない仕組みになっている。


 いくらSランクパーティーといっても、失敗が続けばポイントが減ってAランクになってしまう。

 ミリオンたちは、Sランクギリギリのところまでポイントを減らしていた。次の討伐が失敗したら確実にAランクに落ちて、ギルドの噂の的になってしまう。

 Sランクパーティーとは、それくらい注目されている存在だった。



「ほら、もう行くぞ。何がなんでも、Aランクの依頼を成功させるんだ」


 こうしてミリオンたちはAランクの依頼である、一角獣の討伐にむかった。




     ***




「おい! お前ら真面目にやってんのか!?」


 ミリオンの怒号が湖の水面をゆらしている。

 一角獣は額にかたく尖った角がはえた、気性のあらい魔獣だった。

 いつもの連携プレーを打ち込んだが、やはり倒すには至らない。逆に攻撃されて敵意を剥き出しにした一角獣が、ミリオンたちに突っ込んできた。



「やってるわよ! 今日だって魔力思いっきり込めたんだから!!」


「俺だっていつもと変わんねぇよ!! サウザンはどうなんだ!?」


「チッ! いつもより魔力を込めてる!!」


「じゃぁ、なんで倒せないんだよ!?」


 今回は失敗できないから、回復薬も十分用意したし、道中の魔獣よけの道具も持ってきたから、無駄な体力は使っていない。

 一角獣を見つけて、回復薬で万全の状態にしてから挑んだのに、なぜ倒せないんだ!? 前はこれで倒せたのに!!


 それぞれが連携も何もなく、ただ攻撃を仕掛けている。

 ミリオンはそこに気がついた。


「おい! もう一度、連携するぞ!! バラバラに攻撃してもダメだ!!」


 そしてタイミングを見計らって連携攻撃を繰りだす。

 見事にクリーンヒットして、一角獣は湖の中に倒れ込んだ。




「これでどうだ!?」


 回復薬は使い切った。いまの連携攻撃に残りの魔力も全て使った。これで倒せなければ————



 バチバチっと湖面から光が走る。

 ずぶ濡れになった一角獣の角から漏れ出るのは、雷魔法だ。目が赤く光っている。我を忘れるほど激昂している証拠だ。


 ————倒せなかっただって!?



「ヤバい……ヤバい!! 逃げろっ!!!!」



 全員が我先にと湖から走り去った。途中で誰かがつまづいても、誰も立ち止まらない。リーダーのミリオンも自分の命の方が大切だった。


 ミリオンパーティーのAランクへの降格が決まった。



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