第13話 人生初の連携攻撃を経験しました

 オレたちは日が暮れる前にベヒーモスを見つけるため、アリエス遺跡を目指して森の奥へと進んでいた。

 辺りはだいぶ薄暗くなっている。オレは暗闇でもある程度見えるけど、リナはさっきから何度も転びそうになっている。


「うあっ! ふぐっ! はぁ、はぁ、ぬぉ!」


 ……えーと、足が木の枝にひっかかって、木の枝が顔に当たって、最後のはリナの服が枝に引っかかって引っぱられたんだな。


 足を止めてチラリと後ろを振り返ると、リナはオレの視線に気付いてニッコリと笑顔をむける。


 正直、美人だと思う。茶金色のストレートの髪はサラサラで触ってみたくなるし、海みたいな青い瞳は見入ってしまう。スタイルも良さそうだし、ハンターがダメでも劇団で女優とかできそうだ。


 リナにぶつかりそうな枝を折りながら、カイトは少しゆっくりめに進んでいく。そろそろベヒーモスの縄張りに入るころだ。




 獣と血の匂いが鼻につく。近くにベヒーモスがいる。オレは神経を研ぎ澄ませて、敵の位置を探った。


「リナ、近くにベヒーモスがいる。怪我だけしないように気をつけてくれ」


「べ、ベヒーモス!」


 あ、言ってなかったっけ。ひとりで討伐するつもりだったから、伝えるの忘れてた。


「むこうも気づいたな。さすがSランクの魔獣だ」


「ええ! ちょ、心の準備が!!」


「リナ、前方から来るぞ!」


 次の瞬間、木の間からベヒーモスがあらわれた。立ち上がった姿は3メートルほどあり、オレたちに容赦ない殺気をむけてくる。


「っ! 炎の息吹だ!」


 コイツいきなり口から火を吐きやがった! 最初からかなりヤル気だな。それなら速攻でカタをつける!


 リナを見ると氷魔法でアイスシールドを展開していた。

 おお、さすがAランクハンターだ。もう武器の弓を構えて距離をとってるな。


 筋肉バカなら、稲妻で攻撃した方が効率的だよな。

 それなら————

 

 左手から青い稲妻がほとばしる。ベヒーモスの脳天に撃ち込もうと、左手に魔力を込めた時だった。微かに違う匂いを感じとる。


 ————もう一匹いる!!


 獣と血の匂いが強すぎてわかりにくいけど、別の個体の匂いに間違いない。匂いの元を辿ると、いるのはリナの近くだった。



青い衝撃ライトニング・ショック



 左手をかざし青い稲妻を一点集中させて、大幅に威力高めて解きはなった。まともな防御もできなかったベヒーモスは一撃で地面に沈む。

 それと同時に右手にも魔力を集中させた。最初に見つけたヤツに、同じように青い稲妻をはなつ。



青いライトニング衝撃・ショック



 今度はガードされて、深いダメージは与えたものの一撃では倒せなかった。次の攻撃を仕掛けようとした時、ベヒーモスが凍りつく。


氷華一撃アイシクル・アロー!!」


 間髪入れずにリナがはなった氷魔法を付与した矢で、ベヒーモスにとどめを刺した。


 おおお! 今の連携攻撃か!? 今までこんな戦い方した事ないから、新鮮だ! うん、こういうパーティーならいいな。


「リナ! ……ん? どうした?」


 ふるふると震えて動かないリナに、何かダメージを受けたのかと様子をみるが問題なさそうだ。


「カイトさん! 私……私、こんな風に戦えたの初めてだったんです! 本当にありがとうございます!!」


「あ、実はオレもなんだ。フォローばっかりで連携攻撃とかした事なくて、すごく新鮮だった」


 そういって、ふたりで微笑わらいあった。

 もしかして信じてみてもいいのかもしれないと、カイトは思う。



「……パーティー組むんだから、呼び捨てでいいよ。敬語もなしで」


「は……うん、わかった! カイト、よろしくね!」


「こちらこそ。頼りにするよ、リナ」



 まずはギルドに戻ったらパーティーの申請して、報酬も半分にしないとな。


 同じ傷を持つからこそ相手の痛みを理解できる。そんな相手なら、オレを裏切らないだろうか?

 信じてみたいと思うパーティーメンバーがいることに、心が少し軽くなった。




     ***




「マリーさん、これ討伐証明ね。あとパーティーメンバーの追加も頼みたい」


「え! もう終わったんですか!? ベヒーモスですよ!?!?」


 またしてもマリーさんは驚いている。

 いや、これでも行きは裏技使ったけど、帰りは歩きだからそこそこ時間かかったんだけど……。


 しかもマリーさんの絶叫に近いベヒーモスって単語に、ギルドにいるヤツらが反応してる。背中に痛いくらい視線が刺さってる。……面倒なことになりそうだ。


「はい、これハンターカード。あ、そうだ。ついでにリナの再チェックも頼もうかな」


「えー! カイトってSSSランクハンターなの!?!? 黒いカードって初めて見た!!」


 ハンターカードを見たリナがマリーさんに負けないくらいの絶叫で、オレのランクを周知してくれる。

 隠すつもりはないからいいんだけど……視線だけじゃなく、ザワザワし始めた。ちょっと待って。いきなり注目浴びるには、そっちの経験値がぜんぜん足りてないんだ!!


「マリーさん、ごめん、急いで頼めるかな? 面倒なことになりそう」


 ハッとしたマリーさんが、超特急で準備してくれる。リナをパーティーメンバーに登録したあと、再チェックを受けることになった。その間に討伐証明の鑑定をしてくれるそうなので、オレも付き添いで見学することにする。




     ***




「リナ・クライトンさんですね。では、お願いします」


「はい、お願いします」


 リナは検査用の器具に手を乗せた。そして画面をみて目を見開いている。



 ————————————————


 リナ・クライトン female 22


 魔力量 91736(S)


 ————————————————



「えっ!? なんで!? 倍になってる!!」


 検査担当者のハンナさんより驚いてるリナに、ネタバラシをする。


「あぁ、オレのパーティーメンバーになると、全能力が倍になるんだ」


「そ、そんなことできるの!? 何それ反則じゃん……どうりでベヒーモスと戦える訳だわ」


「でも倍になるのは能力だけだから、油断するなよ」


 能力は倍になるけど、経験値はそのままなのだ。油断すると魔獣の餌食になってしまう。


「うん、わかった。気をつける」


「ではリナさん、こちらもお願いします」


 続いてリナは適性検査の魔石板に手を乗せた。



 ————————————————


 リナ・クライトン female 22


 適性検査結果 

 氷魔法 水魔法 風魔法 炎魔法

 土魔法 回復魔法

 魔力強化 敏捷強化


 特殊:マジックイーター


 ————————————————



「あ、敏捷強化が増えてる。そっか、討伐行きまくったから……へへ、嬉しいな」

     

 リナの笑顔にオレもホッコリした。リナの新しいハンターカードは、ギルド長と面談のあとに発行されるらしい。

 何故だかオレも呼ばれて、リナとふたりギルド長の部屋にむかった。

                         


   

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