第12話 追放されたマジックイーターが仲間になりました

「リュカオン、ベヒーモスって知ってるか?」


『あぁ、脳ミソの小さい筋肉バカだ。だが炎の息吹がウザいな』


 要するに知力はないから魔法攻撃はしてこない。力はあるから、素早い動きや一撃のダメージが大きいのか。あとは火を吐くから火傷に注意だな。


 リュカオンの魔獣に関する情報は、いつもこんな感じだ。他のことは割と丁寧なんだけど、魔獣に関しては雑すぎる。それでもすごく助かってるので文句はないけど。


 オレが受けた依頼はベヒーモスの討伐だった。

 プロキオンの南西の森にあるアリエス遺跡で確認されている。近隣の魔獣のランクは高くてBランクだから、明らかに突然変異かどこかから迷い込んだみたいだ。



 その時、2キロ先から男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「いい加減にしてくれよ!!」

「ご、ごめんなさい……ハンセンさん、あの、本当にごめんなさい」


 続いて聞こえてくる声は、怯えて震えている。若い女の子の声だ。


「あんたの特殊能力のせいで、私たちも魔法使えないじゃない!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「しかも吸い取った魔力をなんでいつも暴発させるんだよ! 危うく死にかけただろ!」

「ごめ……んなさい。本当に……ごめん、なさい」


「もうお前なんていらねぇ!! このパーティーから出て行け!!」

「っ!! そんな…………ま、待って……」


 数人の足音が、遠ざかっていった。


 ……イヤなものを聞いてしまった。女の子は……シクシク泣いているみたいだな。うわぁ、これ、どうすりゃいい!?

 追放された女の子は放っておけない。けど泣いてるのはどうしていいのか、さっぱりわからん。


「リュカオン……どうしよう」


『我に聞くな。我には、人間の気持ちなどわからん』


 そりゃ、そうだよな! はぁ、魔獣王に聞いたオレがバカだった。

 どっちにしても、ここからひとりで外に出るのは難しいだろうな。魔獣がウヨウヨいるしなぁ。仕方ない、出口までは連れていってやるか。




     ***




 また……追放されちゃった……。


 こぼれる涙を拭いながら、私は絶望感に包まれていた。


 もう、これで何十回目だろう? このマジックイーターという特殊能力のせいで、ハンターランクはAなのに役立たずと言われてばかりだ。


 今まではAランクハンターだからと、パーティーに入れてもらえてたけど、この街でも次々と追放されまくった。多分、もうどこにも入れてもらえない。


 もういっそ、ひとりで戦おう。もう嫌われたくない。本当にこんな特殊体質いらない————




「あの……君、出口はわかる?」


 突然かけられた声に驚いて振り返る。そこには、ひとりの青年がいた。艶のある黒髪に黒目のごく普通の見た目なのに、なぜか目を奪われる。


 驚きすぎて涙も止まってしまった。泣いていたのはバレバレの顔だから、もう隠してもムダだった。


「いえ、コンパスもなくて……あ、よかったら出口までの道のりを、教えてもらえませんか?」


 最後にこぼれ落ちた涙を拭って笑顔で返した。こんな親切な人がいるなんて、嬉しいと心から思う。


「うーん、教えるにはちょっと距離があるんだよなぁ。あれ、君はAランクハンター?」


 首からかけてるシルバーのハンターカードに目線が向けられている。


「あ……はい。でも————」


「それなら大丈夫か。先にオレの魔獣討伐おわらせるから、そのあと出口まで付き添うよ」


 え! それはダメだ! 魔獣討伐に行ったら……こんな親切な人にまで、嫌われたくない!!


「そ、それはムリです! 魔獣討伐には行けません!」


「あ、ごめん、魔獣討伐って言っても、ただ付いてくるだけでいいから。今からだと、出口まで往復する時間ないんだ。オレひとりで片付けるから心配ないよ?」


 たしかにすでに太陽は半分ほど沈んでいて、出口まで案内してもらった時点で暗闇に包まれてしまう。


「そうじゃないんです! あの、私、マジックイーターって特殊体質で、周りの魔力を勝手に取り込んじゃうんです……そして挙句に魔法を使おうとして暴発させちゃうんです」


「そうなの? 今も?」


「はい、申し訳ないんですけど、自分でコントロール出来なくて……」


「…………大丈夫みたいだけど?」


「へ?」



 青年を見ると、手のひらから青い雷魔法がパチパチと躍り出ている。私のそばにいると、魔力を吸って威力が弱くなるか、消えてしまうのにその気配がない。


「ウソ……! え! 本当に!?」


「うん、多分オレちょっと変わってるから。大丈夫みたいだな」


「本当に……いたんだ」


 今まで、ハンターになってからは特に、この体質で邪険にされ続けてきたのに……この人なら大丈夫なの?

 それなら、この人のパーティーに入れてもらえれば、普通に戦えるかも! いろんな街を旅してきて、やっと出会えたのかも!! アンチマジックイーターに!!


「あの! お名前聞いてもいいですか!?」


「あ、名乗ってなかったな。オレはカイト・シーモアだ」


「私、リナ・クライトンです! お願いします、カイトさんのパーティーに入れてください!!」


 勢いよく頭を下げて返事を待つ。どうかお願いします! 私を仲間にしてください!!



「断る」



「そ、そんな事いわないでください!! お願いします!! こんな体質だから普通に魔獣討伐したことなくて、カイトさんとなら夢が叶うんです!!」


「出口までは連れていってやるけど、パーティーは断る」


 そんな簡単には諦められない! 21ヶ所目の街でようやく見つけたんだから! ずっとずっと探していたアンチマジックイーターに! ここで逃したら、次はないかもしれない!!


「私にはカイトさんしかしないんです!! お願いします!!」


「っ! オレしかって大袈裟な……」


 カイトが耳を赤くしながら、そっぽをむいている。


 あれ? もしかして、カイトさんちょっと照れてる?

 え、私より年上みたいだけど可愛いところあるんだぁ。ふふ。いやいや、そうじゃなくて、今のうちにたたみ掛けなきゃ!


「カイトさん……お願いします……!」


 最後のトドメに瞳に涙をめいっぱいためて、カイトをジッと見つめる。カイトが狼狽うろたえたのを確認して、もう一度お願いをした。


 そんなリナの熱い決意を知ってか知らずか、カイトはリナの涙に動揺して、今後を大きく左右する決断をしてしまう。


「わ、わかったから! わかったけど、ひとつだけ条件がある」


「本当ですか!? ありがとうございます!! それで、条件って何ですか?」



「………………オレを裏切るな」



 そんなの条件にもならないし。私にはカイトさんしかいないのに、そんな事するわけないよ。


「はいっ! 絶対に裏切りません!!」

   

                         

 こうして、マジックイーターが仲間になった。

                         

                          

                         

 

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