第54話 永遠を誓いました

 ウラノスの背中に乗って、まずは西側の魔獣を目指した。空高く舞い上がるウラノスは、自信に満ち溢れている。成長したことで魔力のコントロールができるようになり、これからはリナの助けも必要なくなるだろう。

 成長してかなりの大きさになったので、目立つのだけが不安だが。



「ウラノス! あそこだ! クレイグたちがいる!」


「わかりました! 炎獄の息吹!」


 ウラノスは空から灼熱の息吹を吹きつける。突然の空からの攻撃にクレイグたちは驚いた様子だったが、ウラノスの姿を見ていっせいに距離を取っていた。




「あれ、ウラノスだよね? なんかデカくなってない?」


 クレイグが優雅に舞うウラノスを見上げてポロリとこぼす。


「やっぱり? 気のせいじゃなかった……」


 ティノも同じことを考えていたようだ。ララは不死鳥の炎を浴びてトドメを刺された、目の前の魔獣をじっと見つめている。


「……ケルベロスがいい感じに焼けましたね」


「アレに乗りたい……」


 ラルフは大きくなったウラノスに夢中のようだ。一回り大きくなって、フカフカもパワーアップしてるかもしれない。


「ていうか……レグルス倒したんだな。カイトたちで……」


「あー、そりゃ、隊長も負けるわけだ!」


「完璧に火が入ってるとは……規格外にも程がありますね」


「フルコースで釣るか……」


 4人の思い思いのつぶやきを聞き取って、カイトは上空から声をかける。


「あとで詳しく話すから! 隊長のところに行ってくる!」




 手を振ってくれた4人を後にして、南側にいるもう一匹の魔獣を目指した。カイトは特務隊の隊員たちの匂いを追いかける。


「あ……こっちはもう終わってるみたいだ」


 風に乗ってやってくる魔獣の血の匂いに、カイトは戦闘が終わっていることを理解する。

 何せ隊長のチームだからな。ちょっと強いくらいの魔獣じゃ、やられる訳がない。


「隊長!」


 ウラノスから降りて報告のために隊長の元に行きたかったのだが、ぶつ切りにされた魔獣の残骸に阻まれた。


「む、カイトか……なんだ、レグルスを倒したのか」


「はい、何とか……こっちは余裕だったみたいですね」


「ああ、早く終わらせたくて最初から全力出したからな」


 あー、それなら、終わっちゃいますよね。わかります。でも、他の3人はグッタリしているようだ。


「ウラノス、隊長たちに回復魔法頼めるか?」


「はい! もちろんですよ!」


 ウラノスは翼を広げて聖魔法をかけてゆく。


聖なる雨ホーリー・レイン


 ゲッソリしていたファニーとクレア、オリヴァーはみるみる生気が戻っていく。回復魔法を受けているはずの隊長だけは、変化が見られなかったけど「これは……効くな」って言ってたから疲れてたんだと思う。


「クレイグたちも、もう少しで合流すると思います」


「よし、それなら合流しだい撤退だ。さっさと帰るぞ」



 ウラノスに乗って、まずは隊長チームが国王へ報告するために戻っていった。その間にレグルスの作った魔獣は、ラルフの魔法で灰になるまで燃やし尽くておく。もし他の魔獣が取り込んで、変に進化とかすると面倒なことになりそうだからだ。


 そして隊長たちを降ろして戻ってきたウラノスが、クレイグたちと一緒にアトリアへと帰っていく。オレはリナとふたり黒狼で街道を走り抜けた。




     ***




 レグルス討伐の知らせは瞬く間に、国中に広がっていった。いたるところで祭りが開かれ大騒ぎだった。特務隊のお手柄ということで、国王から特務隊全員に褒美が渡された。ここぞとばかりに全員が欲しいものをリクエストしたのは、言うまでもない。


 カーネルハーンの聖獣との兼ね合いから、ウラノスの協力があったことは周知された。これで、ウラノスが不死鳥の姿で空を飛んでも好意的に受け止められるはずだ。

 実際にレグルスを倒してから、魔獣の出現率がかなり下がっている。魔獣のランクもせいぜいCランクがいいところだ。


 お祭り状態も落ち着いて、オレとリナは褒美としてリクエストしていた結婚式を執り行った。

 申請した時は国王が張りきって、アトリアの大聖堂でやるとか言い出したから丁重にお断りした。そんな大げさにしてほしくない。プロキオンで式を挙げたいと言ったら、それはそれで納得してもらえた。


 オレはお世話になった人たちの参加を褒美として申請して、強制的に参加にしてもらうことにしたんだ。国王もこっそり参加してくれることになっている。


 そうでもしないと、誰かが出張に行っていたりで揃わないんだ。もちろん、カーネルハーンからはエルナトさんにも出席してもらう。



 結婚式当日の朝、プロキオンの教会の控室でオレはエルナトさんやムルジムさんたちに囲まれていた。


「カイトが結婚とは……感慨深いものがあるな」


「ほんとカイトに先越されるとは思わなかったよ……」


「エリア、俺もだ。俺の方がモテるはずなのに……解せん」


 ムルジムさんが納得できない顔で腕組みしている。そうは言っても、ちゃんと正装して参加してくれてるからありがたいと思う。


「カイト! 準備できてる? そろそろ祭壇のところで準備してて欲しいって」


 ノックの後にクレイグが声をかけてくれた。他のみんなは、すでに教会の礼拝堂へ移動が済んでいるみたいだ。オレも礼拝堂にむかい、祭壇の前でリナを待った。



 やがて、パイプオルガンの音色とともに扉が開かれ、純白のウエディングドレスに身を包んだリナが姿を見せた。いつもおろしている髪は結いあげられて、いつもと違う雰囲気に心臓がドクンと跳ねる。


 リナの為に仕立てられたドレスは、シンプルだけど刺繍やレースが飾られてよく似合っている。こんな可愛いリナを他のヤツらに見せたくないと思ってしまう。ちょっと心が狭いけど許してくれ。


 一歩一歩、ゆっくりとオレの元へと歩みを進める。エスコートしているのは、6年前に旅に出たきり会っていなかったリナの父親だ。今回の結婚を機にリナの生家に行って、いままでのことを報告してきたんだ。泣いて喜んでたんだよな。あぁ、いまもヤバそうだ。



 そして、リナの父親からオレへと花嫁の手が移される。


「リナ、すごく綺麗だ」


「ふふ、カイトも素敵だよ」


 リナとふたり、目の前の神父様に身体をむけた。


「カイト・シーモア、そしてリナ・クライトン。ふたりは病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、互いを敬い慈しむことを誓いますか?」




「「はい、誓います」」




「それでは、誓いのキスを」



 リナとむき合い、ベールをめくり上げる。伏し目がちだった海のような碧眼が、真っ直ぐにオレを見上げた。リナの瞳にはオレしか、オレの瞳にもリナしか映っていない。

 お互いにふわりと微笑んで、そっと口づけを交わした。



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