第44話 side 崩玉煉歌
side 崩玉煉歌
「うわっ、本当に空を飛んでる! で、でも、なんの支えもなく宙に浮いてるって、結構怖いな……」
「わーお。これはすっごいねぇ。けど、確かに足がゆらゆらして不安定かも。箒にでもまたがれれば気持ち的には安定するのかもねぇ」
「……すごい。綺麗……」
「いいなぁ、わたしも飛行魔法使えたら良かったのに」
私の魔法で、宮本君たち四人がはしゃいでいる。その姿を見ていると、魔法使いになれて良かったと思う。
いつもは、気晴らしに一人で飛ぶくらいしかできなかった。他の誰かと飛ぶのが、こんなにも心地良いものだとは思わなかったな。
「ただ飛んでるだけなんだけど、都合が合うときはいつでも飛ばしてあげるよ」
飛行魔法を扱える魔法使いというのは希少。それに、単に飛行するだけではダメ。魔法使いが自由気ままに空を飛ぶというのは法律で禁止されていて、飛行するなら姿を隠す魔法も同時に使わないといけない。意外と難しいので、これができるのは日本でも少数だと思う。
「ありがとう、崩玉さん。すごく良い体験させてもらって」
宮本君が、私に頭を下げる。それに微笑みで返した。
今日出会ったばかりの、あまり目立った感じのない男の子、宮本武君。普通だったらたぶん全く気に留めることもなかった人なのだけれど、何の因果か、私の胸を、初めて触った人になってしまった。
恋人でもない相手に体を許すのは、もちろん抵抗があった。だけど、自分の胸を治すためなら仕方ないと割り切った。
なのに。
実際に触られて、私は妙に宮本君が気になるようになってしまった。異性としての興味とは、違うような気がする。宮本君と、恋人としてお付き合いして、もっと深い仲になりたいという気持ちはない。少なくとも、今のところは。
ただ、スキルを介して宮本君に触れられて、宮本君をかなり気に入ってしまったのは事実だ。
宮本君のスキルは、ただ単に胸をどうにかするだけだと思っていた。でも、そうじゃなかった。
彼のスキルを通して、私は宮本君のどこか深いところと繋がった。エッチのように体で繋がるのではなく、心と心が融合するような、濃厚な交わりだった。
宮本君と解け合って……とても心地良くて、気持ちいい時間を過ごした。肉体的にも、精神的にも充足する、ちょっと反則的な性行為。あんなのを体験させれてしまったら、宮本君を気にならないわけもない。
もちろん、ただ快感に溺れて、宮本君を気に入ったわけじゃない。宮本君が私の中に入ってきたことで、嫌でもわかった。その心が、全てを委ねたくなるほど、温かなものだって。
宮本君のことなんて何も知らないのに、過去にどんなことがあったとか、今どんなことを考えているかとか、これからどうしていくのかとか、なんとなく感じ取ることができた。
今日出会った相手にこんなことを思うのは変だけど、人として愛しいと思った。
恋人になりたいわけじゃない。そういう関係に固執したいとは思わない。でも、宮本君とはもっと仲良くなりたいし、キスしたり、エッチしたりしてもいいような気がしている。
これがどういう気持ちなのか、私にもよくわからない。恋と性欲が対になっていると思っていたのに、今は、友情と性欲が対になっている感覚がある。
自分が感じていることを、上手く説明するのは難しい。スキルを体験した人じゃないと、これは理解できないだろう。
ただ、スキルを体験した人なら、理解できると思う。
つまりは、宮本君を気にかけながら、何となく遠巻きに見ている双山さんと茨園さんも、宮本君と繋がることを求めているのだろう。
それが恋愛感情かはわからない。そうじゃないような気はする。恋も愛も脇に置いて、繋がりたい、という気持ちが先行しているのではないだろうか。
私含め、こんなにたくさんの女性をはべらせて、宮本君はどうするつもりなのだろう? ちゃんと責任取って幸せにしてほしいところだけれど、できるだろうか?
「……罪な人」
こんなこと、自分が口にする日が来るとは思わなかった。
『男だって、胸を好きになるんじゃなくて、人を好きになるんだよ』
宮本君の言葉が蘇る。知っていたはずなのに、信じられなかった、当たり前のこと。そのせいで、私は大切に思っていた人を傷つけた。
ちゃんと会って、謝りたいなと思う。あの人はただ、私を好きでいてくれただけなのに、酷い言葉をたくさん投げつけて、拒絶してしまった。
なんでかな。大好きな人に言われたときには信じられなかった言葉が、出会ったばかりの年下の男の子に言われて、ようやく私の中にすっと入り込んできた。
他人だからかなぁ、とも思う。宮本君は平良さんが大好きで、私に対して打算的になる要素がないから、その言葉が純粋に私を思って言ってくれたのだと思える。
……他人にしか救えないことっていうのも、もしかしたらあるのかもしれない。
「あ、私の家、あれだよ!」
「ん? ああ、わかった」
双山さんが一軒家を指さす。そちらに向かって全員で下降し、双山さんを地面に降ろした。
「ありがとう! すごく楽しかった!」
「都合があえば、いつでもまたやってあげるよ。今度は、もっとゆっくりできるフライトにしよう」
「うん! 楽しみにしてる!」
目を輝かせた双山さんが手を振り、私たちは再度上昇。
それから、茨園さんと平良さんを家に帰して……最後に、私と宮本君だけが残る。
「ねぇ、宮本君」
「うん、何?」
「平良さんのこと、どれくらい好き?」
「うーん、そうだなぁ……。俺の気持ちが可視化できたら、この世界をすっぽり覆うくらいの大きさにはなるんじゃないかな?」
「なるほど。それはまた大胆な大きさだね」
そんなに大きいなら、私も応援しないわけにはいかないか。遊び半分で横取りできる相手じゃないよね。
「幸せになってね」
「もちろん」
「あ、魔力尽きてきた。帰りの分も残しておきたいから、最後はちょっと歩きでいい?」
「ああ、うん。もちろん。無理しないで」
「ありがと」
二人で地面に降りる。本当は魔力も残っているけれど、今はほんの少しだけ、長く一緒にいられる時間が欲しい。……それくらいは、許されるよね?
宮本君と並んで歩く。その時間がとても愛おしく感じられて……まだ完全に諦めるのは惜しいな、とも感じてしまった。
妙に疼いてしまう敏感な場所については、今夜、家に帰ってからじっくり解していこうと思う。
☆☆☆☆☆☆
・お知らせ
過激描写で警告が来たので、近日中に一部内容を変更していく予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます