第41話 協力

 意気込んで焼き肉屋を後にしたのだが。

 店を出て、少し歩いたところにある居酒屋で、何やら男女四人が揉めているのに遭遇。男性二人と女性一人が、壁際に女性一人を追いつめて囲んでいる。

 あ、よく見たら、囲んでる三人は崩玉さんとパーティーを組んでた連中だな。年齢は二十歳前後だろうか。そして、追いつめられているのは、俺たちと同年代くらいに見える女の子だ。


「おめぇよぉ、人様にぶつかっておいて、侘びの一つもいれられねぇのか?」

「大人のルールってのがわかってないなぁ」

「冒険者として働いてるなら、それくらい理解しないといけないわよねぇ」


 酒の回っていそうな態度で言い募る三人。対して、女の子の方はというと。


「……謝罪はした。しかし、そもそも、ぶつかったと言っても少し肩が触れただけ。それなのに、ネチネチと文句を言われる筋合いはない」


 毅然とした態度で切り返している。すごい胆力だな……。


「おいおいおい! 本当にガキだな! お前はよ!」

「この状況、わかってねぇのか? 駆け出しの冒険者が、俺たちに反論なんて言い度胸だ!」

「……あなた、真っ先に死んでいくタイプね」


 三人がまた相手を威圧する。俺だったらちびってそうな状況だ。


「……酒臭い。わたしはもう帰るんだ。どいてくれ」

「侘びをいれろって言ってんだよ! まだわかんねぇのか!」

「……謝罪はしたと言ったじゃないか」

「言葉だけの侘びなんかに価値はねぇよ! おら! わかってんだろ!?」


 女の子の方は、相変わらず毅然とした態度で相手を睨みつける。

 実力的には、どうなのだろう。倒せるけど倒さない、というのならいいが、実力が劣っていて抜け出すこともできないと言うのでは厄介だ。


「はぁ……。何してるんだか。一回きりとはいえ、パーティーを組んだ相手がゲスな真似をしていると落ち込むわね」


 崩玉さんが、四人に向かって歩き出す。それに美美華も続いた。


「あのさ、離してやりなよ。どっちがバカなことを言ってるかくらいわかるでしょ? それすらわからない大バカなの?」

「ああ!? あ、てめぇ、ポンコツ魔法使い! 何しに来やがった!」

「……つまらないことをしているから、止めにきた」

「は! ろくに狙いも定められねぇ奴がでしゃばるなよ!」

「……今日のことは、本当に申し訳なく思う。だけど、この状況を見て見ぬふりはできない」

「だったらどうする!? 魔法を暴走させて、ここいら一帯を火の海にするか!?」

「そんな真似はしないよ」


 キィン、と何か耳鳴りのような音が聞こえる。なんだろう? と不思議に思っていたら、女の子を囲んでいた三人の冒険者が吹き飛ばされた。どうやら風の魔法が使われたらしい。

 囲みから解放された少女に、崩玉さんが話しかける。


「ごめんね。冒険者って、粗暴なやつが多くて。でも、普通の人もちゃんといるから」

「……わかっているつもりです」

「うん。じゃあ、もう帰っていいよ。あとは私が片づけておく」

「はい。ありがとうございます」


 女の子が頭を下げて、足早に去っていく。

 それを見届けて、崩玉さんがにこりと微笑んだ。

 その一方で。


「おい……何したかわかってるのか!?」

「ポンコツが、俺たちを敵に回すとはな!」

「金輪際姿を現さなければ、長生きできたのにね」


 怒鳴る三人に対し、崩玉さんは涼しい顔。


「……人並み以上の暴力を身につけたからといって、偉くなんてなれるわけない。お前たちの振る舞いは目に余る。

 私を、一時でもパーティーに入れてくれたことには感謝しているよ。恩を仇で返すようで悪いけど、そっちがその気なら、相手になる」


 四人が戦闘態勢に入る。しかし。


「よっと」


 目を離した瞬間はなかった。しかし、ほんの一瞬のうちに、チンピラ風冒険者三人が地面に倒れていた。全員気絶しているらしい。

 それを見て、崩玉さんも目を丸くする。


「……ごめん。いいところ、だったかもだけど……あんまり、注目集めるのも、どうかと思って……」


 三人を倒したらしい美美華が、申し訳なさそうに言う。


「いや……いいけど。やっぱり強いね」

「それほどでも……」

「あなたとパーティを組めるって、すごく光栄だな」

「……いや、その……戦うことしか、できないから……」

「それは私も一緒だよ。えっと、こいつらのことはもう放置して、私の家、行こうか」

「うん……」


 一応は暴力事件ではあるのだが、冒険者には冒険者のルールがあるのだろう。これくらいのことでいちいち警察に届けることはしないらしい。周りの人も、日常風景として受け入れている。

 それなら、俺が口を出すこともあるまい。

 そう思いつつ、崩玉さん先導のもと、俺たちも歩き出す。

 美美華が崩玉さんの隣に並んでいるのを見ていると、二人の未来が明るいことを予感せずにはいられなかった。

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