第42話 左 (修正版)
それから、徒歩で十分ほど。
たどり着いたのは、一人暮らし用の五階建てマンション。外観としては、おしゃれと言うよりやはり堅牢。女子大生が選ぶには無骨な印象だが、周りもだいたいこんなものなので、この地域の仕様なのだろう。
崩玉さんの部屋は、三階角部屋の三〇五号室。
女子大生のお部屋か……。リムの部屋には行ったことがあるが、女性の部屋って緊張するな……。
室内には、過度な装飾のないシンプルな家具が置かれている。特徴的なものは少なくて、キャラクターもののぬいぐるみがいくつか枕元に置かれているのと、冒険者むけの雑誌が数冊転がっているくらい。
「ふぅん。冒険者用の装備とか置いてないんだ?」
リムが興味深げに言う。
「基本的には、ダンジョンの側にある冒険者ギルドに預けてる。自分で保管してるよりよほど盗難対策になるし、そもそも持ちだしには規制がある。
ただ、万一のときのために、予備の装備と緊急用のアイテムはクローゼットにまとめて置いてるよ」
「なるほどねぇ」
「収納用の魔法の鞄があれば楽だけど、あれは高価すぎるから。一つで数百万円じゃ、流石に手が出ないよ」
「そっかそっか。じゃあ、早速だけど、始めちゃう?」
「……待って。ダンジョン潜ってきたばっかりだから、綺麗にしたい」
崩玉さんが、持っていたポーチから輝く水の入った小瓶を取り出す。
「『浄化の水』ね?」
「そう。ダンジョン潜るなら必需品。これ一個で、お風呂に入るより体中すっきりできる。一個千円するから、毎日使うものじゃないけど」
崩玉さんが、『浄化の水』を頭から自分にかける。すると、崩玉さんの体が数秒淡く光った。
「ん。これでもういい。……綺麗になりすぎて、ほぼ無臭にもなっちゃうから、宮本君には物足りなくなっちゃうかもだけど?」
「そ、そんなことはない、よ? 全然いいと思う!」
「ふぅん、宮本君は、無臭の中に香る微かな女臭を嗅ぎ分けて興奮するタイプ?」
「どんなタイプ!? そういう特殊なやつじゃないから!」
「そう? ならいいか。じゃあ……上を全部脱げばいい?」
言いながら、崩玉さんがまずは魔法使いのローブを脱ぎ、ハンガーラックへ。
ローブの下には、冒険者仕様の防刃、防魔法のブラウスを来ていて、ボタンを外し始める。そこで、リムが言う。
「あ、待った。あたし、武にはあたし以外のおっぱいは見せないようにしてるの。前を開いて、ブラのホックだけ外せばいいよ」
「そう? それでよければその方がいいな。見られるのは恥ずかしいから……」
崩玉さんが俺たちに背を向ける。準備ができたところで、崩玉さんが手で前を閉じながら振り向いた。
「……あとは、頼むよ」
そして。
「武がベッドに深く腰掛けて、その前に崩玉さんっていう、いつものスタイルでいこう。崩玉さん、それでいい?」
「ああ、うん。それでいいよ」
「それと、あたしたちも一応見ておいていい? 武が勢い余ってやらしいことしないようにさ?」
「まぁ……いいよ」
「じゃ、そういうことで」
リムの指示に従い俺はベッドに腰掛ける。そして、前に崩玉さんがきた。
赤い髪が綺麗で、心行くまでその頭を撫でたいという欲求が……痛っ。リムに足を踏まれた。
それはそうと、確かに無臭だな。外では何かの香水の匂いがしていたと思うが、そういうのもすっかり洗い落とされている。ある意味、美美華の匂いと似ているのかも。
準備ができたところで、崩玉さんがリムに尋ねる。
「ちなみに、いつものってことは、平良さんも何かしてもらってるの?」
「……見ての通り、あたしはおっぱい小さいからね。大きくしてもらってんの。前はAすらなかったけど、今はBだよ」
「へぇ、すごいね。豊胸手術よりも安全で確実ってこと? 直揉みが必要なら相手を選ぶだろうけど、宮本君、その気になればめちゃくちゃ稼げるね」
「うーん、そうなのかな? 男の俺に触れられたい人なんてそんなにいないと思うけど……」
「揉まれることに対する抵抗より、胸の悩みを解決したい気持ちを優先する人はたくさんいるはず。
ちなみに、双山さんと茨園さんはどうなの? 勘だけど、二人も何かしてもらってるんじゃないの?」
「私は、胸が大きすぎるのが嫌で、小さくしてもらってるよ」
「……まぁ、わたしも、ちょっと」
「なるほどね。やっぱり、需要はあるもんだよ。それじゃあ、『サイレンス』を使った方がいいかな?」
リムが頷き、崩玉さんが魔法を使う。右手が青く光り、それが部屋全体に広がった。室内がほのかに輝いている。
「これで外に音は漏れない。宮本君、あとは宜しく」
「うん。わかった。まずは、欠けてる方を大きくすることかな。……技の一、『望月』」
両手を不可視のオーラが覆う。リムにいつもしていることだから勝手は同じかな。
ブラウスをかき分けて、ブラの下から手を差し入れる。右には、D相当の膨らみ。しかし……左には、確かに、あるべきものがない。プリーストに治してもらったからか、目立った傷跡なんかは残っていない様子。でも、男の胸みたいに平たく、それに、どこにも突起がなかった……。
これを、俺が元通りに戻していく。片方がなくても、崩玉さんの人間としての魅力がなくなるわけじゃない。でも、崩玉さんからすると、片方が欠けているというだけで、色んなものを諦めなければならない人生だったんだ。
俺が、それを救う。
今までとは少し違う気合いを込めて、俺はスキルを行使した。
……それから。
施術の終わりに崩玉さんが大きく仰け反る。その拍子に、施術の間に滲んでいた汗の滴がはらりと舞った。
少々辛い思いもさせてしまったかもしれないが、これで今日の施術は終わり。
ふぅ……なかなか大変だったな。だが、まだまだ今後もスキルを使っていかないといけない。崩玉さんのために、頑張っていこう。
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