第43話 二回目
相変わらずだが、俺にスキルを使われた相手は、その後ぐったりしてしばらく動けなくなる。
力の入らないらしい崩玉さんをベッドに寝かせ、その場を一旦離れた。はだけていた衣服はリムたちが着せ直す。
「まぁ、今回も派手にやったもんだよね。武、与える快感を調整できるようにならないと、女の方が結構辛いよ?」
リムに言われて、俺は途方に暮れる。
「調整って……どうすればいいんだろう。俺は特に意図してるわけじゃないし……」
「うーん、スキルレベルが上がれば調整できるようになるのかな? 今のレベルは……四か。まだ二週間だし、使ってる回数もほどほどだから、そんなもんかな。けど、これから使用回数も増えたら、レベルも上がりやすくなると思う」
「だなぁ……。っていっても、使う相手がそんなに増えるものではないと思うが……」
「崩玉さんも言ってるでしょ? 需要は結構あるんだって。やり方を間違えなければ、普通に大金稼げるスキルだよ」
「そうかな」
あまり実感は沸かない。けど、リムが言うなら本当なんだろう。おっぱいを揉むだけで大金を稼げる……とんでもないスキルだな。
「もうすぐ九時四十分か……。帰るの遅くなっちゃうけど、崩玉さんを放置もできないから、もう少ししてから帰ろう」
リムの提案に反対する者はいない。
崩玉さんが落ち着くまでは……ひとまずトイレでお馴染みの展開をこそっと繰り広げた後、おしゃべりをして待つ。
そして、十時頃になり、ようやく崩玉さんが体を起こす。
「ちょっと! あ、あんなに激しいものだなんて聞いてないんだけど!? っていうか、私が横になってる間に人の部屋で何してくれてんの!?」
何故か俺が怒られる形。いや、怒っているわけじゃないか。羞恥心を誤魔化すために叫んだだけ?
「止められなかったからいいかなと思って」
しれっと言ったのはリムで、崩玉さんもあまりその件については追求してこなかった。それはそうとして。
「ごめん。そういうスキルみたいで……。今の俺にはどうしようもないんだ……」
「だからって……あんな、恥ずかしい……っ。あんなところ見られたら、私、もうどうすればいいか……」
顔を覆う崩玉さんの頭を、リムが撫でる。
「その気持ちは良くわかるよ。あたしたちもだいたい同じだったから。けど、今、本当はたいして悪い気分でもないっていうのも、わかっちゃうんだよね。
恥ずかしいけどさ、自分を晒すってある意味快感でしょ? もう過ぎちゃったことだし、これもまた貴重な体験だと思って、受け入れてよ」
「うぅ……。まともにエッチするよりよほど恥ずかしい気分なのに……。宮本君、今日のことは、絶対に他言しないでよ! 男友達とかと話題にしたら、骨も残らないほどに焼き尽くすから!」
「だ、大丈夫だよ。そんな話、絶対にしないって。そもそも俺のスキルのことは知らないし」
「……この先一生、誰にも言わない?」
「言わない。誓うよ」
「……そう。はぁ……。色々悩むけど、左胸が元に戻るなら、我慢するしかないか……」
「ごめん。責任もって、それは何とかする。だから、安心して」
「うん……。今年は、海に行きたい。恋人を作って……気兼ねなく、エッチもしてみたい。救いの手を差し伸べてくれる宮本君に当たるのは、いけないことだよね。ごめん」
「俺のことはいいよ。俺に当たってすっきりするなら、それくらいはしてくれて構わない」
「……そう。宮本君、年齢の割に大人なのね」
「そんなことないよ。どれだけあがいても大人になんてなれなくて、自分が望んだものなんてほとんど手に入らなくて、いつも不満ばっかり溜めてるつまらないやつだよ」
「……そういう辛さを噛みしめて、人って大人になっていくんだと思うよ」
「そうなのかな……」
「とにかく、宮本君のスキルで、胸が元通りになるっていうのは実感した。まだ特に変わった感じはないけど、これは少しずつ変化していくんだってわかる。それについては、本当にありがとう」
「どういたしまして。俺にできることなら、どんなことだってするよ」
ここで話を区切っても良かったのだろうけれど、俺は少しだけ続けることにした。
「たださ、俺、崩玉さんに片方の胸がなかったとしても、崩玉さんはそのままでもとても魅力的な人だと思うよ」
「……男の子からしたら、胸が一つだけの女なんて嫌でしょ」
「そんなことはないよ。男は女性の胸が好きっていうのは確かなんだろうけど、その人を好きになったなら、大きさとかも、あるかないかとかも、ほとんど気になる要素じゃない。
男だって、胸を好きになるんじゃなくて、人を好きになるんだよ。
崩玉さんはとても素敵な人だと思う。強いのに傲慢さなんてなくて、困っている人がいたらすぐに助ける。それはもしかしたら、片方の胸を失って、複雑な気持ちを抱えて生きて、たくさん色んなことを考えたから、できるようになったのかもしれない。
俺、今の崩玉さん、いいと思う。逆に、元通りの体になって、何か大事なもの見失わないかってことの方が不安。俺は崩玉さんの胸を治すけど、今の、欠けている部分があるからこそ見えているものは、見続けていてほしいかな」
「……そうだね」
崩玉さんの目が、ほのかに潤む。何かまずいことを言ってしまったか……?
「あ、えっと……」
「ごめん。なんでもない。宮本君が言ってるのと似たようなことを、昔の彼氏にも言われたのを思い出しただけ。
あのときは、彼が私の体を見たら、幻滅して去っていってしまうと思いこんでた。私のことを好きになったんだから、胸のことなんて関係ないって言ってくれてたのに。
……私、宮本君が言うほど、素敵な人なんかじゃないよ。彼のことが大好きだったはずなのに、彼の言葉を信じることができなかった。私は、彼の気持ちより、自分の気持ちばかり考えてしまっていた。今なら、彼がとても傷ついただろうこともわかる。
私は、弱くてちっぽけで、たいしたことのない人間の一人。
胸が元に戻っても、このことは忘れずにいようと思う」
「……うん。それがいいよ」
「二回目だけど、宮本君からも同じことを聞けて良かった。その言葉、信じてもいいんだなって思えるよ」
一瞬、目が潤んだように見えた崩玉さんが、伸びをして立ち上がる。
「あーあ、なんだか色々すっきりした気分なのに、下着が濡れてて気持ち悪い……」
思わず、崩玉さんの下腹部に視線を落としてしまう。が、見てはいけないと、視線を逸らす。
「ウブだねぇ。あ、ちなみに、お礼もちゃんと渡さなきゃね。えっと、一回一万円くらい?」
「え? あ、値段とか全然決めてないけど……」
「じゃあ、とりあえずそれで。ちゃんと値段決めたら、不足分があれば払うよ。多すぎたら、お釣りはとっておいて」
「あ、え?」
俺が返事をする前に、崩玉さんが財布から一万円を取り出し、俺に押しつける。迷いつつ、それを受け取った。
「宮本君には、他の人ができないことをできる、特殊な才能がある。他の人にできないってことはね、金銭的にものすごく価値があるってことなの。お金を稼いだことがなければ、いきなり一万円渡されると戸惑うかもしれない。けど、それ以上の価値がちゃんとあるってこと、覚えておいて」
「うん……」
「あと……私、ジョブが『三面の赤い魔女』で、スキルの一つが『ゴッドタン』って言うのね?」
「はぁ……」
「同時に三つの魔法を使うために、高速詠唱とか、同時に複数の音を出すとかを可能にするスキルなんだけど……実は、刺激的な使い方もできるの」
「……うん?」
「宮本君が胸のお触りで私を楽しませたように、私は、キスで楽しませることができる。やったことないけど、下の方でしてもいいのかもね。まぁ、いきなり下はちょっと抵抗あるけど、キスで良ければ、スキルのお礼にしてあげてもいいよ?」
「は、はぁ!? いや、キスって、それはダメだよ! 俺、リムとしかしないって決めてるから! まだしてないけど!」
「ふぅん? まだしてないんだ。まぁ、その気になったら言ってよ。……今まで知らなかった悦びを教えてあげる」
崩玉さんが艶然と微笑む。ちらりと舌で唇を舐めるのが大変セクシーで……痛っ。リムに足を踏まれた。
「あたしの婚約者を誘惑しないでくれる? スキルでの接触は許すけど、それ以上のことは禁止だから」
「ふふ。それは宮本君次第じゃないかな? 頑張って、宮本君の気持ちをつなぎ止めてね?」
「……当然。あんたにも絶対渡さない」
「……私にも、ね。わかった」
崩玉さんが全員を見回す。それからまたクスリと笑って、ふぅ、と溜め息を一つ。
「もう遅いけど、皆どうする? いっそ泊まってく? 少し狭いし、ベッドもないけど」
その問いかけに、率先して答えたのは、リム。
「んー、それは、また今度で。あたしたち、最初のお泊まり会はそこそこのホテルでやるって決めてるから」
「へぇ? そうなの? なんだか楽しそう……。参加してみたいけど、一人だけ年上じゃ、ね」
「いいんじゃない? 美美華のパートナーになるんだし、親睦は深めた方がいいよ。ね? 美美華」
「あ、ああ……うん。いいと思う」
「そう? わかった。……それじゃ、今夜は遅いから送っていくよ。茨園さんがいるとはいえ、高校生だもんね」
崩玉さんが杖を持つ。護衛のような立場としてついてきてくれるのかと思ったが。
「さぁ、楽しい空の旅に案内してあげる。高いところがダメとか、野暮なこと言わないでね?」
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