第40話 大丈夫

 美美華の食事量は半端じゃない。

 肉を次々に注文し、焼いては食べ焼いては食べ……。五人前と称される大皿に乗った肉を、一人で五回は注文し、その全てを胃袋に納めた。そして、他の皆が食べ終わり、雑談をしている段に至ってもまだ食べ続けている。


「……美美華の食べたものって、どこに消えていくんだろう……」


 俺が疑問を口にすると、美美華が恥ずかしげに箸を置いた。


「……ごめん。た、食べ過ぎた……?」

「あ、いや、そういうつもりは全然なくて、むしろそういう食べっぷりは見ていて気持ちいいくらい。ただ、それだけ目一杯食べてもスタイルは相変わらず綺麗なままだし、ちょっとびっくりしただけ。満足するまでたくさん食べてよ」

「変じゃないかな……?」

「普段の運動量が多いってことだろ? 俺みたいに普段ろくに運動しないやつがっめちゃくちゃ食べてたら変だけど、美美華は運動してる分を食べるだけだ。全然変じゃない」

「そっか……。じゃあ、もう少し……」


 美美華が、少々勢いを減じながら食事を再開。うーん、余計な口出しをしてしまったな。リムからも手の甲をつねられるし。

 俺が反省しているところで、双山さんが既に泣きやんだ崩玉さんに言う。


「ところで、もう気づいてると思うけど、茨園さんは女性と話すのが苦手なの。急に片言になったり、どもってしまったり」

「ああ、うん。気づいてはいた。何かあったの?」

「昔、色々あったんだ。母親をモンスターに殺されてしまったり、学校で同級生の女子にいじめられてしまったり……」


 双山さんが、美美華の事情をざっくりと説明。こんなのは自分で話した方がいいことなのだろうが、美美華だと話が上手くまとまらないからな。美美華もそれで助かってる風だし、気にするまい。

 話を聞き終えて、崩玉さんが美美華の方を向いて言う。


「事情はわかった。こんなこと言うのもなんだけど、Aランク冒険者として大活躍中の女の子が、そんな人間的なことに苦しんでるなんて意外だったな。見た目からしてもうどこか異次元の存在だったけど、普通に女子高生で安心した」

「あ……その……見た目は……ジョブの影響で、こんなになっちゃっただけで……」

「うん。私も、この真っ赤な髪と瞳は、ジョブの影響なんだ。『三面の赤い魔女』っていうね。好きで染めてるわけじゃないんだよ?」

「……そっか。そうだと、思った」

「でも、こうして話す分には全然気にならないけど、パーティーを組むときにはどうだろう? 上手く連携できるかな?」

「……正直、わたしも不安」


 俯く美美華。そこで、リムが割り込む。


「大丈夫だよ。美美華はまだ女子に苦手意識持ってるけど、昨日今日であたしたちにはだいぶ慣れてきたもん。こうしてご飯も目一杯食べてるし。

 女子同士でも安心できる環境は作れるんだってわかったら、自然と今の状況も改善していくはず。ま、一ヶ月くらいはかかるかもだけど、せいぜいそんなもんだよ」

「そ、そう……かな……」

「大丈夫。もう、美美華は大丈夫」

「……そっか」


 リムの確信はどこから来るものか。これもスキルの賜なのかな。

 わからないが、美美華は俺とは当たり前に話しているのだし、きっと大丈夫だろうと俺も思う。

 会話を続けていると、ぼちぼち美美華の食事も終わる。

 会計にて、支払い総額が五万円弱と表示されていたことに驚いたが、リム、美美華、崩玉さんの三人は平然としていた。俺と双山さんは顔を見合わせ、苦笑い。まぁ、俺と双山さんが食べた分はせいぜい三千円程度のものだから、奢られることにそこまで恐縮する必要はないのかもしれない。

 会計後にもらったガムを噛みつつ、五人で黒四丘駅に向かう。


「もう九時過ぎてるけど、崩玉さんのおっぱいを治していくのは、明日からとかにする?」


 リムが尋ね、崩玉さんが答える。


「……一度、宮本君のスキルというのを見てみたい。疑ってるわけじゃないんだけど、実際にどういうのものかは知っておきたいんだ」

「ん。じゃぁ、どうしよう? 個室がいいんだけど、場所はあるかな?」

「私の家、来る? ここから徒歩で十分もかからない。この辺、家賃も安くて、一人暮らし用でも結構な広さがあるよ」

「あ、いいね。行こう。ちなみに、防音性能ってどんなもん?」

「防音? まぁ、一般的だよ。もし、防音性能を強化したいなら、サイレンスの魔法で音漏れは防げる。でも、どうして?」

「……体験すればわかるよ。あと、これも事前に言っておくけど、武のスキルは直揉み必須だから」

「じ、直揉み? それ、宮本君に私の胸を直接触らせるってこと?」

「うん。そう」

「回復魔法みたいに、離れてても発動できるものじゃないのか……」

「そうなんだよねぇ。触られるのが嫌なら、おっぱいは元通りにできない」

「……わかった。それでいい。まぁ、初めて触れられるのが出会ったばかりの男の子っていうのはなんだけど、ちゃんとした初めてをするために必要なことだから」


 初めて、なのか……。もう大学生だから、そういうことは経験済みでもおかしくないとは思う。が、確かに、体を見せるのが嫌だったと言っていたから、未経験のままにもなるよな。


「よっし。話も付いたし、崩玉さんのおうちに行こう!」

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