第3話 嘆願
「何ぼうっと突っ立てるの? 座りなよ。話しにくいじゃない」
「あ……うん」
平良さんの対面に座る。その間、平良さんはキョロキョロと室内を見回している。
「えっと、何か気になる?」
「んーとね、とりあえず、あの監視カメラはダミー」
「へ? あ、そうなの?」
部屋の奥の天井に、監視カメラらしきものが設置されている。ダミーと言われなければ、本物としか思えなかった。
「あとは、別に変なものはないね。めったにないけど、誰がつけたかわからない盗撮用カメラが置かれてることとかもあるからさ。ま、そういうのはトイレとかにあるんだけど」
「……怖い話だなぁ。っていうか、そんなのどうしてわかる? 平良さん、どんなスキルを持ってるの?」
「これは誰にも内緒にしてほしいんだけど、あたし、ジョブが『鑑定士』で、『鑑定』スキル持ちなんだよね」
なるほど、とそこである程度合点が行く。
俺のジョブとスキルを見破ったのも、そのスキルのおかげか。そして、誰にも言わないでほしい、という理由もわかった。
『鑑定』スキルは、非常に有用で重宝される一方、大多数から嫌われるスキルでもある。そのスキルを使えば、ものの真贋を見分けるだけではなく、嘘をついているかも見分けられるし、人の性質や性格の深いところも看破できてしまうのだとか。
熟練度にもよるが、ステータスに攻撃力やらが表示されるのと同じ感覚で、性格がどうだとか、こういう思想を持っているだとかも表示される。性経験の有無から回数までわかるとも噂されている。
ネット情報なので全てを鵜呑みにはできないが、概ね正しいのだろう。そんなスキルを持つ人と一緒にいたいという人は少ない。『鑑定』スキルがバレれば、平良さんとて学校では居場所を失う可能性が高い。
俺が一人で納得している間にも、平良さんの説明は続く。
「このスキルを使うと、例えば監視カメラが本物かダミーかはすぐに見分けがつく。あと、見方を切り替えると、視界に入るものにいちいち名前が表示されるの。だから、ほら、ソファと床の隙間に落ちてるヘアピンとかにも気づける」
指摘の通りソファと床の隙間を確認すると、確かにヘアピンがあった。『鑑定』って、鑑定するだけのスキルだと思っていたけど、意外と色んな使い道があるようだ。
「……すごいな」
「しかもね、派生した能力で検索もできるんだ。範囲は少し狭いけど、視界に入ってなくても盗聴器とかすぐに見つけられる。あと、どこに置いたかわからないスマホなんかも一瞬」
「うわ、いいなそれ。俺のスキルとは大違いじゃん。俺のスキルなんて、この先一生使い道ないかも」
「そんなことないよ!」
「へ?」
突如、平良さんが身を乗り出して力強く言い放った。
「宮本君。宮本
「は、はぁ……」
何故いきなり敬語?
「いいですか? 考えてみてください。世の中には、おっぱいに関する悩み事を抱える女性はたくさんいるのです。バストアップだのなんだの、様々な情報が溢れかえっているのはその証拠です」
「……はい」
「かく言うあたしもその一人です。あまりにも慎ましく、自己主張をためらってしまう恥ずかしがり屋の相棒に、日夜悩まされ続けています」
「そ、そうなんだ……」
「揉めば大きくなると聞けば毎日揉みしだき、牛乳が効くと聞けば牛乳をがぶ飲みし、サプリがいいと聞けば愛飲し……しかし、この結果です」
チラッとだけ、平良の胸部に視線を落とす。しかし、見続けてはいけないと瞬時に判断して視線を上げた。
それの何がまずかったのか、平良さんがフルフルと震えながら涙目になる。
「あ、あたしのおっぱいは、目を逸らしたくなるほどに残念な代物ですか……?」
「ち、違う! 全然そんなことは思ってない! 俺はただ、女の子の胸部を見続けるのが申し訳ないと思っただけだ!」
「……でも、あたしのおっぱいがもっと大きかったら、もっとじっくり眺めていましたよね?」
「そんなことないって! むしろ見ちゃいけないと思って今よりも早く目を逸らす!」
「本当ですか?」
「本当だ! 俺は平良さんのおっぱいに非常に興味がある! なんで得たスキルが『透視』じゃなかったのかと、世界を呪いたくなるくらいだ! 平良さん、頼む! あの監視カメラがダミーだと言うのなら、今すぐここで脱いでそのおっぱいを見せてくれ!」
あれ? 俺、勢いに任せてとんでもないこと言ってない? セクハラで訴えられない? 大丈夫?
俺の心配を余所に、平良さんは緩やかに微笑んだ。
「ほ、本当……? あたしのおっぱいでも、興味、持ってくれる?」
「もちろんだ」
「そっか。はぁー……。なんだか少し肩の荷が下りた気分。そんな優しいことを言ってくれる人もいるんだね……」
「ああ、うん。うん……?」
優しい、のか? ただの変態発言だぞ? おっぱい見せてくれ、って叫んだぞ?
もしかしてだけど、平良さん、思ったよりも変な人かもしれない。
「このおっぱいでもいいって言ってもらえるのは、嬉しいです。でも……やっぱり、女として、もっと自己主張をしてくれる相棒がほしいのです」
「お、おう……」
おっぱいがすっかり擬人化されて相棒呼ばわりされている。長きに渡る悩みがあったんだなぁ、と察しておく。
「それでは、本題です。宮本君。あたしに、そのスキルを使ってください。あたしのおっぱいを、大きくしてください。お願いします!」
「……ん? え? マジ?」
平良さんが丁寧に頭を下げる。冗談でも何でもなく、本気のお願いのようだ。でも、『鑑定』スキルを持つなら、どのようにして矯正するのかもわかっているはず。
それでも、俺におっぱいを矯正してもらいたいというのか……? この子、正気か……?
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