第31話 救出
美美華のおっぱいを揉んだ翌日の、土曜日。
リムと出会ってから二週間ほどが経ち、俺が『開眼』してから一ヶ月程が経った。
リムは午前中バイトで、午後からは女子三人で下着その他を買いに行くということで、俺は特に予定はない。リムのことだから急に呼び出しをしてくる可能性も高いが、バイトをしている午前中は何もないだろう。
朝目が覚めて、特に予定もないまま身支度をし、自室の椅子に座ってスマホをチェックしていたところ。
「あ、一ヶ月経ったから、市役所に現状の報告をしないといけないのか」
市役所からメールが届いていて、状況確認のために一度来所してくれと書かれていた。日本の制度では、『開眼』で特別なスキルを身につけた場合、その後の一年間は、定期的市役所に赴いて状況を報告しなければならない。報告といっても、堅苦しいものではなく、軽くカウンセリングをされる程度らしい。急に世界が変わってしまうことで、生活に悪影響が起きていないかをチェックするのだ。
最初の報告は、だいたい一ヶ月が経ったとき。それから、三ヶ月後、半年後、一年後、という風に訪問する必要がある。面倒臭いのは確かだが、『開眼』によって人生が狂ってしまうということも珍しくないので、必要な処置なのだろう。
「午前中に行ってくるか……」
予約制だが、午前九時半からの分で当日予約ができたので申し込む。俺は外出の準備を整えて、市役所に向かった。
家から市役所までは自転車で十五分もかからないくらい。日常でトラブルなどそうそう起きないので、俺は順調に市役所へ。駐輪場に自転車を置いていると……ん?
「なぁ、これからちょっと俺たちと一緒に遊ばない? あ、ちなみに、俺は『鬼狩り』っていうジョブなんだ。こう見えて結構強いんだぜ?」
「軽くお茶するだけだからさ。ちなみに俺は『雷電の騎士』っていうジョブ。守備も攻めもできるいいジョブさ」
わかりやすいナンパワードを並べて、二人の少年が、見覚えのある女の子一人と対峙している。市役所前の駐輪場でわざわざナンパせんでも……とも思うが、気になった相手を逃すまいと、積極的に動いた結果かもしれない。女子の立場からすると非常に迷惑な話だろうが、見知らぬ女子に声をかけられる度胸は賞賛に値する。俺なら絶対無理だ。
そして、見覚えのある後ろ姿の女子は、双山さんに違いない。今日は私服の薄緑のワンピースで、清楚な雰囲気が良くでている。市役所に来るだけで綺麗に着飾るなんて、女子というのはしっかりしている。俺は普段着のシャツとチノパンだ。
「あの……すみません。そういうのはちょっと……」
「大丈夫だって。君が嫌がることとかしないからさ」
「軽くお話だけして、それでもやっぱり気が乗らないっていうなら帰っていいから。一度チャンスだけでもちょうだい!」
熱心な少年たちの視線は、双山さんの胸部に向けられている。……まだ小さくしている途中で、目立ってしまっているからな。男がそこに視線を向けてしまうのは仕方ない。が、ナンパしようとしているときくらい、その欲望は隠したらどうだろうか。
なんて冷静に考えている場合ではない。友達のピンチ、助けに入らなきゃ男が廃る。
「あのー、その子、俺と予定があるんで、遠慮してもらえます?」
双山さんが振り返り、俺の姿を確認。ぱっと顔が華やいだ。……待て、その反応はまだ早いぞ。俺は戦う力など持っていない一般人。冒険者向きのジョブを持っている二人と対峙して、簡単に相手を追い払う技量は持ち合わせていない。
「なんだ、お前」
「あ、もしかして、知り合いのフリして女を助ける、みたいなあれ?」
「うわ、本当にそんなことするやついるんだな」
「悪いこと言わないから、そういうのは止めときな」
「あわよくば、助けた女とお近づきになりたいとかだろ?」
「下心見え見えで引くわぁ」
散々な言われようである。しかし、俺は双山さんと本当に知り合いだし友達なので、ダメージはない。
「彼女とは本当に知り合いなんですよ。通ってる高校が同じで」
「へー、そうなんだ」
「わかったわかった。お前の言いたいことはわかったから、今すぐどっか行けよ」
「いえ、そういうわけにもいきません」
「あ? 俺たちの言うことが聞けないのか?」
「お前さぁ、見たところ戦闘型のジョブも何も持ってない一般人だろ?」
「この状況で俺たちに楯突くって、どういう神経?」
「とても賢明とは言えないな。ゴブリンだって、勝てねぇ相手からは逃げ出す程度の知性があるぞ?」
あからさまに二人は苛立ち、俺を睨みつける。はっきり言おう。怖い。やはり、戦闘に慣れた人間の迫力というのは一般人とは格が違う。
だが、しかし。
「……逃げるわけにはいきません。俺は自分のことしか考えないゴブリンではありませんから」
「ほう……」
「気概だけは認めるが、相手は選べよ?」
「法律に触れない程度に相手を痛めつける方法くらい、冒険者の間では常識だ」
「一般人に、法律を盾にいいようにされるのは気に入らないからなぁ」
二人の顔に歪んだ笑み。
なるほど、『開眼』で人生を歪めてしまうというのは、こういうのを指すのかもしれない。もともとの性格が歪んでいたのかもしれないが、『ジョブ』を得てさらにそれに拍車がかかった可能性もある。
「宮本君……」
双山さんが心配そうに俺を見ている。俺に喧嘩の能力がないことをよく知っているからこそ、不安にさせてしまっている。
ふむ……。仕方ない。禁じ手を使うか。
「これは、あまり使いたくなかったんですが……」
「とか、思わせぶりなことを言ったら相手が退いてくれると思った?」
「お前たち、俺たちとちょっと遊ぼうぜ? 他の友達も呼ぶからさ」
後半のセリフで、法律に触れずに俺を痛めつける方法に思い至る。
冒険者が一般人に手出しできないのなら、同じ一般人に手出しをさせればいいということか。喧嘩屋を金で雇えば難しいことじゃない。
想像するだけで恐ろしい。ここは最短で切り抜けよう。
スキル、『おっぱい矯正』発動。
「……裏技の八、『開月』」
両手にオーラを纏わせ……俺は二人の少年の胸部に押し当てる。完全に油断していた二人は、俺の『攻撃』を避けることはなかった。
「あ?」
「なんだ?」
二人が困惑し、次の瞬間。
「あふんっ!?」
「あひゃっ!?」
急に気味の悪い嬌声を上げ、膝から崩れ落ちる。
ふ……やはり、この技は使いたくはなかった。男の嬌声など聞いても気分が盛り下がるだけだ。
「今のうちだ! 行こう!」
「え? あ、うん!」
双月さんの手を取り、俺は市役所内に駆け込む。建物内に入ればもう安心だ。
一方、少年二人はまだ自らの体に何が起きたのかわからず、困惑したまま地面に膝を突いていた。
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