第30話 side 茨園美美華
side 茨園美美華
男の子におっぱいを揉まれてしまった。
いつかそういう日が来るのだろうということは想像していたけれど、それがこんなにも早く実現するとは思っていなかった。
あれからもう数時間は経過しているのに、まだ体の奥が熱を帯びている。これは、武のスキルによるものなのか、あるいは……ただ単純にわたしが武を想って高揚しているだけなのか。
武のことは、友達だと思っている。恋愛感情がどうとかは関係ない。関係ないはずなのに……どうしてだろう、今まで感じたことのない感情が、胸の内側でひっそりと息づいているような気がする。
「……これ、なんだろうな」
ベッドに寝ころんだまま、自分の胸に手を当てて、その正体を探ろうとする。けれど、初めての感覚に名前を付けるのは難しかった。ぎゅっとするような、ふわっとするような。
「変な感じ……。でも、武と平良さんが幸せそうなのは、見てて気持ちいいな」
幸せそうなカップルを見て僻む人もいる。けれど、わたしはむしろそういうのを見ると和む。わたしがダンジョンを消滅させたいと思うのは、そういう人たちを守りたいからだ。
二人には、本当に将来結婚して、幸せになってほしい。死ぬまでずっと、片時も離れることのなく……。
「……なんだか、少し胸が痛い?」
二人の幸せを願っている。でも、どこかチクリと痛みがある。
胸の奥に、何か新しい棘が刺さったような……?
「変なの……。武と一緒なら、この痛みもいつか消えるのかな……」
お母さんを失って、学校にも居場所がなくて、外出しても変に注目を集めて。
家はまだ少し居心地が良かったけれど、家族がわたしになんとなく気を遣っている風なのは好きじゃなかった。一人きりでいることが、一番安らげた。ダンジョンでモンスターと戦っているときだけ、余計なことを何も考えずにいられた。
武は……ようやく見つけた、わたしの居場所。
「……ずっと、一緒にいてくれればいいのに。まぁ、一番の優先は平良さんなんだろうけど。でも、またスキルを使ってもらう機会もあるし……」
小さく溜息を吐いて、彼の優しい手を思い出す。
情熱的なようでいて、とても繊細なあの手つき。ただスキルを使っているだけなのだとわかっているはずなのに、わたしは、あの手に、武の奥深い優しさや慈愛の心を感じた。
あれはそういうスキルなのだろう。ただおっぱいを矯正するだけじゃなくて、心と心も交わらせ、奥深くにあるものも解してしまう。
武の他に『おっぱい矯正士』なんて見たことはないけれど、もし他の人が使っていたら、きっと違った形でスキルが発動するのだと思う。人によっては、暴力的で支配欲をぶつけられるような矯正になるかもしれない。
武の手は、優しかった。情熱的だった。繊細だった。
武の手が、わたしは好きだった。
「……矯正が終わったら、もう触ってもらえないのかな」
自然と、自分の胸の先端に両手を添えてしまう。武は、そう……こんな風に……。
イメージと、自分の手の動きを一致させる。幸いなのか、わたしは他人の動きをトレースして自分で再現することも得意だ。そのおかげで、剣の上達も早かった。
「ん……はぁっ」
手の動きは、かなり再現できている。けど、足りない。武の手はもっと……わたしの深いところに触れてきていた。
しばらく自分でいじって、武との時間は再現できないと知り、止めた。
「……平良さん、許してくれるかな? 結ばれたいとかじゃなくて、もっと武に触れてもらいたいだけ……」
わたしにとって、久々の友達。
胸の奥に刺さった棘を、そっと抜き取ってくれる人。
頑張らなくていいから、ただ、力を抜いてありのままにいればいいと言ってくれる、大事な人。
特に気を張らず、ただのんびりとわたしの側にいてくれる人。
その手の温もりを、もっと感じていたい。
そんなことを考えていたら、スマホがメッセージを受信。
「……ん? なんだろ?」
わたしに連絡してくるのは、家族か冒険者ギルドくらいのものだった。でも、今日から武たちも連絡をしてくる可能性がある。
スマホを確認すると、双山さんからだった。
『少し電話していい? 一緒にリムと宮本君を口説き落とす方法を考えない?』
「……なんのこと?」
今日、双山さんとの会話は比較的少な目だった。おっとりしているけれど、芯があるようにも感じられた。そして、とても笑顔が素敵だった。
双山さんが何をしようとしているかはわからないけれど、武と一緒で、きっと大切な友達になってくれるとは予感している。
電話してくれるなら嬉しい。まだまだ緊張はあるけれど。
体を起こし、首を傾げながら、わたしは双山さんに電話をかけた。
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