第32話 裏技
「はぁ、はぁ……宮本君、い、いったい何をしたの? 裏技って……?」
ほんの数十メートルだが、全力疾走の余韻で息を切らした双山さんが尋ねてくる。息切れしている様子が大変魅りょ……ゲフンゲフン。
「えっと……あまり解説するのもなんだけど……。俺のスキルって、基本的には女性向けなんだよ」
「ああ、うん。名前からしてそうだよね」
「けど、男性にも使える技があるんだ。それが裏技に分類されていて、さっき使ったのがその一つ。……胸を触られることで性的な快感を得られるようになる、っていう特殊な回路を一瞬だけ刺激した。一瞬だったから、五分もすれば元通りになるだろう」
要するに、おっぱいの感度を上げる技である。初めては女性に使いたかった……。男に使って腰砕けにするなど、俺の黒歴史でしかない。
「そ、そんな技もあるの……」
「うん……。使う機会はないと思ってたんだけどな」
「……それ、女性にも使えるのかな……?」
「元々は女性向けだからもちろん使えるけど……ん? 双山さん、使ってほしいの?」
「え? ええ? そ、そういう話じゃなくて! わ、私は、全然、そういうつもりで訊いたんじゃなくて、ただ、興味本位でしかないから!」
「そ、そうか」
慌てるところが怪しいなぁ。グヘヘヘヘ。なんて心情は一切表には出さない。俺は紳士なのだ。
「って、ていうか、服の上からでも効果あるの? いつも、直なのに……」
「ちゃんとするなら直じゃないとダメさ。さっきだって、俺が触れてから効果が出るまで間があったろ? それに、効果も長くて五分くらい。恒常的な変化をもたらすなら直だ」
「そっか……。それなら仕方ないか……」
「悪いな。いつも、恥ずかしい思いをさせて」
「ああ、ううん。いいのいいの。宮本君が悪いわけじゃないし、それに……ああ、な、なんでもない!」
双山さんの顔が赤い。なんでもないってことはないだろう? グヘヘヘヘ。という心情は、やっぱり表には出さない。頑張れ俺の表情筋。
「あー、ってか、どうして双山さんはここに? 俺、『開眼』一ヶ月の状況報告なんだけど」
「それ、私も。中学卒業してから『開眼』する人も多いから、この時期に状況報告する人が多いみたい」
「あ、そっか。ってか、双山さんも同じ時期に『開眼』してたんだな」
「そうそう。皆と買い物に行く前に済ましちゃおうって。でも……到着したときはびっくりしたな。スキルの導きの通りに来たはずなのに、ああいう人に絡まれて……」
「スキルの導きだったのか? 変だな。双山さんのスキルに従えばいいことが起きるはずだろ?」
「……うん。だから、いいことがちゃんと起きて、スキルに従って良かった、って思ってる」
「ん? いいことがあった? 俺、実は助けない方が良かったのか?」
「……違うよぉ。宮本君、ジョブの補正がないにしても、それはちょっと……。まぁ、いいや。早く報告行こ? 買い物に遅れちゃう」
「ああ、だな」
今度は双山さんに手を引かれる形で、俺たちは二階の冒険者ギルド課に赴く。
受付に行くと、俺の開眼をサポートしてくれた大輪さんがいた。
「あ、宮本君。一ヶ月ぶりですね? ちゃんと生きててくれて嬉しいですよ。約束通り、冒険者登録もしてないみたいですし。それにしても……随分仲のいい女の子ができたんですね。ふっふーん? 青春だなぁ」
大輪さんが、手を繋ぐ俺たちを見てにやける。
「あ、ち、違うんです。俺たち、ただの友達で……。なぁ?」
「ん? まぁ、んー、そうだったかな?」
その曖昧な反応はなんぞ? 俺たちはただの友達じゃないのか? いや、まさか、本当は友達とすら思っていない、とか? それは……ショックだ。
「あ、何か勘違いした顔してる。リムじゃないから詳しくはわからないけど……」
「ん? 勘違い?」
「うん。勘違い」
「……ほう?」
はて? どんな勘違いだろう?
首を傾げていると、大輪さんがポンポンと手を叩く。
「もう、大人にそういう青春の一ページを見せつけないで頂戴。それより、宮本君、状況報告でしょ? あと、そっちは双山さんですよね? 別の担当が来ますので、少々お待ちください」
大輪さんに促され、俺は別室に通される。また、双山さんの元には別の女性職員がやってきて、別の部屋に通された。
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